第8話 庇うのが筋だ

 スタグリアンとギルバードは決闘場につくとすぐさま試合を始める。立会人はナヴァール先生だ、理由は都合よく仕事が無かった先生がナヴァール先生しかいなかったから。ほんとにこの学園の先生は大変だな、仕事しながら立会人も頼まれるなんて。


「尋常に頼むよ」

「もちろんっすよ」


 少しの間があった後、試合開始の合図が出される。最初に動いたのはギルバード、スタグリアンも続けて動く。スタグリアンは…〈寛容〉1式を発動させようとしてるな、スタグリアンの持っている属性はゲームと同じらしい。

 だが、スタグリアンが〈寛容〉1式を発動することは叶わなかった。


「〈嫉妬〉1式」

「〈寛容〉1しッ…!!!」


 先に動いていたギルバードの技が先に当たる。すると突然スタグリアンは地面に剣を突き立てた、必死に立っているように見える。


「〈嫉妬〉1式の効果は、相手の視界を歪ませるもの。これであんたは下手に動けないでしょう」

「くッ…!だったら!」


 スタグリアンはそれでも魔法を使って攻撃を防ごうとする。あれは初級の重力魔法か、彼の実力だと最速で出せる戦況に適した魔法だろう。それと、よく見るとあれは魔素で体を覆っているみたい。何であんなことするかは多分見てれば分かる。


「チッ、周りを重力で囲って物理がダメなら、魔法で攻めるだけ」

「…っ!」


 ギルバードが魔法を練り始めた、あれは炎魔法か。ギルバードはスタグリアンが発動させようとしていた〈寛容〉1式を防いだから、余裕の表情で魔法を練っている。3段の魔法攻撃だ、敵ながら少し賢いなと思う。


「これで、終わりっす」

「………まだ、だ!」


 スタグリアンが、視界を回復させながら防御状態を強めると同時に魔法が当たる。1撃目、小さな火球が当たりその部分の魔素障壁が砕ける。そう、魔素障壁は魔法を防ぐために作る壁のことだ。目には目を、魔法という魔素の塊には魔素をというわけだ。

 実はあの決闘をしているフィールドの周りにも魔素障壁が張られている。魔法が観客席にまで飛んで来たら大惨事だからね。


「………」

「…くっ!」


 スタグリアンが砕けた魔素障壁を修復する。2撃目、今度は先ほどよりも強い魔法だ。先ほどよりも大きい火球が当たるが、何とか魔素障壁で防ぐ。しかしさっきよりも大きく強い攻撃だったため魔素障壁の修復に時間がかかる。そこに、


「ぐはっ!」


 1撃目と同じ大きさの火球が当たる。魔素障壁は張られていない、修復に時間がかかったところを火球でやられたわけだ。


「こ、降参だ」


 そう言って、スタグリアンは気絶した。


「…フンッ、公爵家のくせに。弱いな」


 ギルバードはスタグリアンが気絶したのを良い事に、普段彼に面向かって言わない悪口を発する。権力者にはいつもぺこぺこするけど、その人が落ちぶれたら馬鹿にする典型的な悪役。もともとのクライトみたいだ。


「勝者ギルバード!ではギルバード君、何か相手から欲しい物を要求することを認めます」


 スタグリアンはそもそも何で戦ってくれたか。


「だったら、彼の財布に入っているお金で」


 それは、友達の僕とユーリアのことを庇うためだ。


「分かりました。でしたらこれにて試合は終りょ…」


 だったら、僕も


「ちょっと、待ってください」


 そんな彼が悪口言われたら


「は?なんだよ、お前かよ」


 庇うのが、筋ってものでしょ。


「彼に決闘を挑みます」

「了解です。ギルバード君、連戦のようですけど準備は大丈夫ですか?」

「良いですよ、どうせこんな雑魚。スタグリアンよりも序列が下じゃないですか」

「はぁ、まあそうですね…ではそれぞれ位置についてください」


 スタグリアン。君の分までやってやるよ。出会ってまだ1日なのに、庇ってくれて


「ありがとう」

「は?何言ってんだお前」

「それでは、双方位置について。試合開始!」


 先に動いたのはギルバード。一方僕は動かない


「…何してんだ、お前。なめてんなら、一発でボコしてやるよ!〈嫉妬〉1式!」


 僕はそれを受け入れる。でも、視界が歪むことは無かった。ギルバードもそれに気が付いたようだ、驚きの表情をしている。


「お、お前、なんで俺の〈嫉妬〉1式が効いて無いんだ………!?」


 理由は2つ。一つ目は僕はそもそも目が眩むのに慣れているという事。小さい頃からの稽古で、目をわざと回してから戦闘訓練をしていた。いかなる状況の時も、クレジアントに襲われても、戦えるようにね。それに、実際に

 二つ目は超シンプル。属性効果は自分よりも相手の属性の数が多い場合、その相手には効きにくくなる。ギルバードは〈嫉妬〉の1個、僕は〈傲慢〉・〈寛容〉の2個。だから、僕はギルバードの属性効果は効かない。でも、


「わざわざ敵に教えるわけ、ないよね~」

「チッ、このクソ野郎が!」

「それは、お前だろ。今度は僕から行かせてもらう。〈寛容〉1式」


 僕はさっきのスタグリアンの使えなかった〈寛容〉1式を発動させる。効果は1分間無敵になる。制限は、効果が切れた後に効果中食らった攻撃のダメージの総量の3倍のダメージを1時間で分けて受け続けるというもの。

 例えば斬撃を一撃食らったら、1時間かけて本来の斬撃の3倍の深さの傷が出来上がる。でも、回復魔法を使えば殆ど痛みを感じずに斬撃1回分位は食らうことが出来る。相手が属性効果を与えてきても同様に1時間に分けて効果を食らい続ける。


「だからこそ、僕は敢えて君の攻撃を食らってあげるよ」

「お前っ!!!そろそろいい加減にしろォォオオオ!!!」


 ギルバードは憤って魔法をどんどん撃ってくる。先ほどと同じ魔法だ、軌道も一直線上だしひねりのない魔法だなぁと思ってしまう。だって、これ避けようと思えば割と誰でも避けれる。まぁ、その弱点を補うための〈嫉妬〉1式なんだろうけど。


「君みたいな人は、僕は好きじゃない。僕の友達を馬鹿にする奴は」

「!?」

「せめて贖え」


 1日に一回という制限のある〈傲慢〉1式を発動させて、相手に恐怖状態を植え付けてから顔面に向かって拳を突き出す。1回、2回、3回


「オごぉっ!ブギャっ!ヘゴォッ!」


 4回、5回、6か………


「アガぁっ!グぎゃぁ!ブごぉっさん!ごおさん!こうさっす、るか…」


 ん?何か言ったようだが、分からないから最後に一発火球を手に纏わりつかせて顎に掌底を打ち込むことにした。ここで彼は気絶した。これでスタグリアンの仇は取れただろう。彼自身は気絶して保健室に連れていかれたから見てないだろうけど。


「勝者クライト!ではクライト君、ギルバード君に欲しい物を要求することを認めます」

「じゃあ、ギルバードがさっきスタグリアンから奪った金で」

「分かりました。では、これにて本当に終了とします」


「ナヴァール先生、決闘を引き延ばしてごめんなさい」

「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、やっぱりクライト君はCクラスの実力じゃなかったですね。だって、序列84位のギルバード君を倒してますし」


 まぁ、そもそもCクラスに入ったのはクレジアントと接触しないためだからね。小さい頃から努力してきたし本当はもう少し強い。やっぱり自分が主人公よりも物語を裏で見ていた方が向いてると言っても、褒められるのは嬉しいな。


「いえ、まぁ今回は相性が良かっただけですよ」

「そうですか?多分、クライト君Aクラスの実力も持っていると思うので推薦しておきましょうか?」

「それは大丈夫です!」


 ギルバードとの戦いよりも、ヒヤヒヤする一言を貰ったところで。スタグリアンの様子でも見に行こうかな。

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