第9話 強盗の入店
試合が終わって、スタグリアンの財布を持ってスタグリアンがいるであろう保健室に直行する。大事には至っていないと思うが、気絶していたから心配だ。
「それと、体が少し熱いなぁ」
これは〈寛容〉1式の効果だ。さっき火球を数発食らった時のダメージが体に来てるんだろう。でもあの程度なら1時間にダメージを分ければ普通に温かいと感じるだけになりそうだ。多分本当は凄いミクロな世界で細胞が燃焼してるんだろうけど、この世界の人は地球よりも平均的に自然治癒力が高いから心配はいらない。
「スタグリアン、起きてるか?」
保健室に着いたので扉をノックして入る。そこにはすでに起きているスタグリアンと何でそこにいるのかは分からないけどユーリアが居た。多分、介抱をしていたのだろう。その手には包帯だったり、手当用の道具があった。
「クライト!ユーリアから聞いたよ。ギルバードを倒したんだって?流石だよ」
「ああ、そうそう。これ、ギルバードから取り返してきた」
「あ、俺の財布だ!良かった~ありがとう!」
嬉しそうに財布を受け取るスタグリアン。良かった良かった、これで謎に『財布は他人にあげるためにあるものだから、要らないよ』とか言い始めたら怖かった。地球で僕が違うゲームの中でそんなキャラクターを見た気がする。まぁそれにしても
「僕とユーリアのために怒ってくれてありがとね、スタグリアン」
「いやいや、結局負けちゃったしさ…」
「負けたなんて、そんなことは無いよ。スタグリアンはあそこまでやられながらも立って、戦っていたでしょ?僕にはあんな真似できない」
「あはは、でもクライトは強いだろう?生憎僕はあの後気絶してしまって見れなかったけど………ユーリアから話は聞いたよ。なんでもボコボコにしたって」
確かに、ボコボコに殴ってしまった。あれはやりすぎたかなぁ?もしそうならギルバードには少し申し訳ないと思う。ただ、僕だけじゃなくて友達のことも馬鹿にしたしスタグリアンの財布は取ったしな…まぁいいか。
「それじゃ、僕はそろそろ教室に戻るよ。スタグリアンも治ったら来てね、ユーリアも待ってるよ」
「あ、クライト君待って!」
「え?どうしたの」
「………ううん、やっぱ後でで!」
あ、そう?なら待つけど
そして、その後に伝えられたのは…
☆★☆★☆
明日に王都で買い物をしようねって話だった。そう言えば言っていたような気もしていたので、用意周到な僕は事前に予定を開けておいたのだ!嘘です、普通に予定なかっただけです。だから、そういう意味でも快諾した。
「ここが王都かぁ。学園来るときに一回見たけど、やっぱり栄えてるなぁ」
「綺麗なもの沢山あるね!」
流石この王国の主要都市、しっかりとした石レンガ造りの道に様々な店が建っている。服屋、鍛冶屋、本屋、宝石店、アクセサリーショップ、古代遺物店、飲食店、その他諸々が一堂に揃っている。
僕ことレンメル子爵家一族はそもそも領地が少ないし、何なら父さんは悪徳領主だ。原作だと僕が殺された後に、クレジアントが訪れたレンメル領が酷すぎて領民と一緒にレンメル子爵家は潰される………あれ?僕って、このままクレジアントと関わらなくても破滅フラグ立ってる?
「そ、それはまずいな………」
「ん、クライト君どうしたの?何か忘れ物?」
「あ、あぁ、いやなんでも無い。ごめんごめん」
思わず口にしてしまっていた。いや、考えても仕方が無い。そういう問題はゆっくりできるときに考えればいい。今はただ王都を楽しもう。取りあえず僕とユーリアは飲食店で何か買おうという事になった。
「どうしよ、迷うなぁ」
「僕これにする。美味しそう」
僕はドーナツみたいなものを買うことにした。他に観たことも無い美味しそうなのもあるけど、やっぱり最初は知ってるものを頼みたいよね。
「え、それ頼むの?クライト君、結構個性的だね」
「え?メジャーな食べ物じゃない?逆に他のメニューの方が個性的な気もするけど………」
うーん、僕は食べ物に関しては地球での価値観が染みついてるからこの世界だと珍しいのかもね。僕から見たら他のメニューは奇抜なものも多い気がするけど、まぁ美味しければ形なんて関係ないよね。
「じゃあ私これにする!」
「決まりだね、じゃあ買おっか」
それぞれ食べたいものが決まり、お金を払う。美味しそうなドーナツと、あとこれは…なんだろう?もこもこしたパンみたいな、面白い形をしている。
「それじゃいただきます」
「私も食べよ!」
一口齧る。うん、普通に美味しい。作り立てなのか温かくてそれもよりおいしさを引き立たせている。
「ねぇねぇ、僕の一口あげるからユーリアのも一口くれる?嫌なら大丈夫」
「ううん!全然良いよ!」
ユーリアから一口貰う。見た目はふわふわしている、食感は…綿あめを少し硬くしたような感じかな?普通に美味しい。
ユーリアにありがとうのサインを送ろうとすると、なぜか少し顔を赤らめていた。どうしたんだろう、小麦アレルギー?いやそんなわけないよね、アレルギーだったら食べるはずがないし。
「どうしたの?顔、赤いけど。体調とか大丈夫?」
「あ、あああ、も、もちろん!ただその、えっと、かかか、間接………!!!」
「関節?」
関節が痛いのかな?成長痛かな、分かんないけどひとまずはそこまで重症そうではない。良かった良かった。
「それじゃ、他の所も回ろっか」
「は、はいぃ…」
ユーリアの体調に気を付けながら、色々と店を回る。僕は武器屋で一振りの剣と本屋で魔法解析学の本を買い、ユーリアは古代遺物店で魔法強化のマジックアイテムと雑貨店でメイクの色々な道具を買った。宝石店はとても僕達学生が入れるような雰囲気ではなかった。でも最後にアクセサリーショップに行こうという事になった。
「ここは結構安価でアクセサリーを売ってるし、なんなら古代遺物店よりもお洒落なマジックアイテムがあることもあるから。僕達以外の学生の人もいるね」
「そうだね!買えるか分からないけど、色々見て回ろっか!」
「うん、そうしよう」
僕は買い物とかはなるべく最短で済ませたいタイプだったけど、今回を通して意外と買い物って楽しいなって思ってきた。買う前のもしかしたら買うかもしれない商品達を眺めてる瞬間、あの瞬間が一番心躍る。
「いろんな形があるんだね」
「確かに!先輩達にもアクセサリーたくさんつけてる人見かけるよね!」
「確かに、ジャラジャラの人とかいるね」
色々と見た結果どっちも買わないことにした。こういう時もある、買い物は自分の身の丈に合った買い方をするべきだ。欲しい物が高かったらそれは諦めるのが吉だ。
「それじゃあ、お店出ようか」
「またお金が溜まったら買いたい!」
お目当てのものが変えなくて残念そうなユーリア、本当はここで僕が払うよなんて言ったらかっこいいだろうけど。普通にお金が無い、お金を稼ぐには学園が終わった放課後に王都でバイトするか決闘で他人から奪い取るくらいしかない。
僕はどっちも基本しないからお金はあまり持ってない。今日買ったものも最初にギーアに勝った時のお金で買った。ありがとう、そしてごめんねギーア。そんなことを思っていると、
突然轟音がして、アクセサリーショップの扉が開いた。入ってきたのは覆面の者達。
「きゃあぁああぁああ!!!」
「手を上げて全員その場から動くな!!!」
僕達が出ようとしたタイミングで、強盗が入店するとは。とことんツイてない。
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