左側から死んでいく

@tachikomari

第1話 カオル

「ご先祖様なんだって。」


「なにが?」


「体の左半分。だから、お墓参りとか行った方がいいんだって。」


カオルちゃんは、左のおっぱいにガンができて手術したんだ。僕はよくわからなくて、ただ、そうなんだ、と答えた。


「タケルくん、私ね、左側から死んでくの。」


「?……手術で悪いとこは取ったんだよね?」


「うん。けど、もうダメなの。あちこち、傷んでて。うちの母親もそうだったから、わかるんだ。」


カオルちゃんは笑ってた。それは無理に笑おうとしてるんじゃなくて、むしろスッキリとした笑顔だった。



【カオル】



令和になって少しして、コロナとかも落ち着いて、これから好きなことしようって思ってたら、ガンが見つかった。ステージ2。おばあちゃんもおかあさんもガンで死んだから、私もなるとは思ってたけど、予想より早かった。まだ20代だよ。乳がん。身内に乳がんいなかったから迂闊だった。色々調べたけど、10人に1人はガンになる時代なんだって。でもさ、それ言われても、そっか、じゃあ特別じゃないんだ、とはならないよね。死んじゃうし。全然励まされなかった。むしろ、10分の1がわたしかってムカついた。


病院で色々検査して、手術はすぐ決まってうまくいった。切った次の日くらいまでは痛かったけど、入院は退屈で、ご飯も美味しくないし、夜中に叫ぶジジイがいるし、ぜーんぜん休めないからすぐ退院した。ちょっとしてから、ガン細胞の検査結果が出て、治療方針の説明に行ったんだけど、正直悪い感じだった。


「ガン細胞の顔つきが1番良くないタイプで、さらに進行も1番早い物です。転移はないですが、細胞に浸潤するパーセンテージも高く……」


グッチのメガネをかけた主治医が言う。


「抗がん剤治療をしましょう。」



うちのおかあさん、抗がん剤治療めっちゃキツそうだったから、ほんとは嫌だったけど、それやらないとヤバいみたいだから、やることにした。AC療法ってやつ。全部で4回、通院で点滴。合わせてホルモン剤も打つことになった。



初回、いや、キツすぎ。

タケルくんがびっくりしてた。


「カオルちゃん、薬がキツいの?」


「ん、そう。体がきつくて。」


「どうしたらいい?」


「いてくれたらいい。」


「そっか。わかった。」


タケルくんは静かに側にいてくれた。

私は現実と夢の間で揺蕩っていて、死ぬ時ってこんな感じなのかなって思ってた。

2日間くらい記憶ない。全身がまどろんで、脳死。


タケルくんはいつのまにかいなくなってた。

また来るね、って言ってた気がする。


またっていつだろう、明日かな。

死んでるのか生きてるのかわからない、もしかしたら明日は死んでるかもしれない。

それならそれでいいのかな。






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