第5話 学校では教えない近代史(2)フェイクニュース〈2〉


前話で日露戦争の実態について述べました。


日露戦争は日本の辛勝だった。


これを一般国民が知ることになったのは、太平洋戦争後、GHQによる情報開示がなされてからです。

それまでは、ごく一部の人しか全ての実態を知りませんでした。日本海海戦時の連合艦隊司令長官だった東郷平八郎すら知りませんでした。

というのも、日露戦争に関しては特に情報統制が徹底されたためです。


なぜ、情報統制されたのか。


理由は二つ


(1)対外的理由

(2)対内的理由


両方に共通するのが、

「日本は苦しい立場にある」ことを知られたくないということ。

ですが、(1)と(2)で目的が異なります。


ロシアに知られると、持久戦に持ち込んでシベリア鉄道の開通を待てば、中国大陸から日本を閉め出すことができるということに気づかれてしまう。そうなってしまったら、ロシア最強1軍の欧州ロシア軍が来てしまい、日本の勝利は100%あり得なくなる。

欧州列強に知られると、日本への出資が回収できなくなるということで、早期の返済を迫られてしまう。返済できなければ、日本に武力進駐をしてきて、たちまち植民地化されて、日本国民は返済のための重税で苦しみ、やがて奴隷化されてしまう。

これが対外的な理由。


もし日本国民に知られてしまったら、こんな無謀な戦争に踏み切った政府批判が各所で沸き起こり、下手すると内戦に突入して国内が疲弊するだけでなく、列強の介入を招いて、もしかしたら植民地化されてしまうかもしれない。

これが対内的な理由。


とにかく、実態は知られてはならない。


これが明治政府内での統一見解でした。


そして、政府関係者は、すべからく優秀な人たちばかりなので、情報漏洩するところは針の一穴すらなく、開示される情報以外、まあぁぁったく出てこない。

ホントにどこからも出てこないのです。


するとマスコミは、自分達で勝手な妄想をして政府批判を始めます。


軍は一生懸命頑張って勝利を収めている。

国民も戦争のための重税に苦しみながらも協力している。

なのに、政府は何もしていない。


実態を知る人からすると、マスコミってホントにマスゴミだな、って思ってしまいます。

実態を知らない人間の無責任な批判って、ゴミクソ以外の何ものでもないです。


ですが、このマスコミの批判を、多くの人が信じてしまいました。

奉天会戦で勝利という事実とセットにしているから。

そして、


戦費の大半が海外からの大借金で、返済のメドがついていないなんて知られると、国民の大半が不安に陥ってパニックになるかもしれない。


賠償金を払うくらいなら戦争継続ダーってロシア皇帝が息巻いているなんて知られると、終わりが見えない戦争に日本国民が不安に陥ってパニックになるかもしれない。


とか様々な理由で、政府の活動を全て非公開にしているため、何をやっているのか誰も知らない。だから、何もやっていないと思い込む。


秋山真之は「坂の上の雲」とかで広く知られているのに、

金子堅太郎は全然知られていない。


二人の貢献度は、ほぼ同一なのに。


とにかくマスゴミどもは、無責任な政府批判を繰り広げました。


すると、それに乗っかる無責任な野党議員が現れます。

日清戦争では賠償金を取れたのに、日露戦争で賠償金を取れないのは、政府に交渉力がなく弱腰だから。


何言ってやがんだ、オマエら!


批判を大声で叫ぶ野党議員は、昔から足を引っ張ることしかできませんね。


欧州最強の陸軍力を持つロシアに軍は勝てたのに、

外交では勝てない。


こんなことを平気で言う。


そして、批判すればするほど、国民に受けてマスコミの新聞は売れて、野党議員は支持を得る。


ここから、政府軽視、軍部尊重の流れが生まれました。

太平洋戦争という破局への道は、ここから始まったと思います。


そして、重税や不況への不満もあって、

日比谷焼き討ち事件が起こりました。


もう、やるせないですね。


日露戦争で勝利したから、日本は列強の仲間入り。

冗談じゃない。

まだまだ、これからだというのに。


ここから、悲しい日本人の勘違いが始まりました。日本人は優秀。日本は神州なので他国から侵されることはない。


奉天会戦や日本海海戦をあたかも圧勝であったかのように脚色されて。


声高に威勢のいいことを主張する人は、疑ってかかるべきです。


正しい情報を手に入れて、冷静になる。

これこそが大切で、

情報が氾濫している現在こそ、これを教訓にするべきでしょうね。

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