第7話 友達
三人で歩くこと数分。
少し埃っぽい旧校舎の最上階に上がった俺たちは、ようやく部室の札を視界にとらえた。
『文手園芸部』
「相変わらず変な名前ね」
「俺もそう思う」
「え、そう⁉ 私は結構気に入ってるんだけどな!」
なぜ部活の名前はこんなになっているかというと、元はそれぞれ『文芸部』、『手芸部』、『園芸部』が存在していたのだが、それぞれ部員減少。
存続のために合併していき、この名前となった。
錆びた鍵を鍵穴に入れ、少し力を入れて回す。
建付けの悪いドアを力づくで開けると、随分とレトロな雰囲気の部室が広がっていた。
「よぉし、今日は何しよっかなぁ~!」
ドサッと鞄を机の上に置いて、無駄に多い椅子に座る現川。
見慣れない部室に小谷鳥は興味津々そうにあたりを見渡していた。
「適当にそこらへんに座ってくれ」
「え、えぇ」
ちょこん、と小谷鳥が現川の斜め前に座る。
まだ初対面だからしょうがないけど、ぎこちなさ満載だな……ま、どっちも空気読めないし友達いないし、しょうがないんだろうけど。
「じゃあ何する? ボドゲでもする?」
「お、いいじゃん! やろやろ!」
「よしきた」
ゴソゴソと本棚を漁り、三人プレイでできるいい感じのボードゲームを探す。
「これにするか」
「ナイスチョイス! よし、皆の者座れい!!」
俺は誕生日席に座り、現川と箱からわらわらと物を取り出す。
そんな俺たちを不思議そうに見ていた小谷鳥がようやく口を開いた。
「ええっと……ここはボドゲ部ではないわよね?」
「そうだな」
「そうだね」
「一応文芸部と手芸部と園芸部よね?」
「だな」
「だね」
「……思えば本も手芸用品もシャベルも、どこにも見当たらないのだけど」
「シャベルはあるぞ」
「あとチャコペンも!」
「なんで部分的にあるのよ。何この部活、やっぱり変なのね」
そもそも、三つの活動内容が異なる部活動が合併したら変な部活になるだろうが。
「いいんだよ、何したって。正直な話、あれから何もしないでくれ、っていうのが先生陣の意見なわけだし、ボドゲとかゲームしてる方が健全で最高だろ」
「そういう問題かしら……」
はぁ、とため息をつき胸の前で腕を組む小谷鳥。
「そういえばずっと聞きたかったのよね」
「何をだ?」
「決まってるじゃない。『後夜祭事件』の話よ」
「あぁー、あれか」
確かに、この部室に来たら深く知りたいと思うのも不思議じゃない。
俺たちが進んで話すものでもないし、詳細な事情を知る奴は少ないしな。
「でも別に、そこまで話すことないぞ? たいそうな話でもないしな」
「たいそうな話よ。だってあなたたち、校庭を爆破したんだから」
「ま、ちょっと違うんだよな、それ」
文手園芸部とその部員が一躍有名になった話。
俺は懐かしむように、半年前を思い出しながら話し始めた。
「ほら、前の文化祭から後夜祭のキャンプファイヤーがなくなったじゃん? ご時世的な話で。それで体育館でひっそりと開催されることになったんだけど、先輩たちがかなり反対したみたいでさ」
「毎日署名活動してるのを見たわね」
「それでも結局キャンプファイヤーが中止になって、それを悔しんだ先輩たちの一人がこの部活の前部長だったんだよ」
「ひより先輩かぁ~懐かしいなぁ~! 今何してるかなぁ!」
「こないだ河川敷で川釣りしてたぞ」
「らしすぎるッ!!」
このままだとひより先輩の話で盛り上がりそうなので、話を戻す。
「まぁ知っての通り変な先輩でさ、文化祭近くなって急に『花火を打ち上げる!』っていい始めて、知り合いに協力してもらって自作の花火を作っちゃったわけ。しかも馬鹿でかいやつ」
「いやぁ、普通に身の危険感じたよねあれ」
「それで、後夜祭の時に校庭でぶっ放したら」
「爆発した、ってわけね」
「あぁ」
あの時は本気で身の危険を感じた。
そこまで威力がなかったから誰も怪我しなかったものの、音はまぁデカかったからかなりの騒ぎになった。
「それが『後夜祭事件』。別にそんなたいそうな話でもないだろ?」
「自作の花火を爆破させた話がたいそうな話じゃないなら、たいそうが何か分からなくなるわね」
呆れたようにそう言う小谷鳥。
まぁ確かに、小さな学校という世界では大事件だったのかもしれない。
「ほんと、あの後大変だったよな。俺たちもその場にいたから処罰受けたし、謹慎から戻ってきたら爆破魔的な扱い受けたし」
「間違いじゃないじゃない」
「ま、そうなんだけどな」
おかげで文手園芸部は白い目で見られることとなったが、部員の誰一人として気にしていない。
まぁそもそも、こんな活動内容もよくわからない部活に入る時点でみんな変わっている。この事件がなくても、変な目で見られていたことは間違いない。
「何にせよ、悪意があって爆発させたんじゃなくってよかったわ。このままだと私、テロリストと付き合ってることになってしまうし」
「いや実際、周りからはそんな感じに思われてるだろ」
ここだけの話、あの事件に関わっていた俺と小谷鳥が付き合っているというのは変わり者同士いいんじゃないかと思われている節があるらしい。
ナチュラルに爆発魔と同レベルだと認識されている小谷鳥に敬意すら抱ける。
「これで私の男の趣味が悪い、っていうので誰も近寄らなくなったら最高ね」
「この調子だと異性はおろか同性まで近寄ってきそうにないけどな」
「それは……まぁ、しょうがないわね」
ほんのわずかだけしょぼんとする小谷鳥。
やはりこいつは異性に言い寄られるのが嫌なだけで、人付き合い自体を嫌悪しているわけじゃないんだな。
小谷鳥だって普通の女の子らしく、高校生らしく友達が欲しいのだ。
ただまぁ、友達の作り方を分かってないし、その気持ちがこちらに全く伝わってこないので普通にしてたらできるわけがない。
そう、よっぽどの物好きじゃなければ。
「なぁ現川」
「きゅ、急に何よぉ⁉」
「小谷鳥と友達になってくれ」
「え、えぇ⁉」
「ちょ、ふ、冬ノ瀬君⁉ 急に何を言い出すのよ!」
「何って、友達を紹介してるんだよ」
「それが何って聞いて――」
「と、友達になっていいの⁉」
「……へ?」
小谷鳥の言葉を遮り、食い気味にそう言う現川。
俺のできることは、この場を用意するだけ。
むしろお節介を焼けるところは、この場を用意することだけなのだ。
「私美少女の友達めっちゃ欲しいんだ! というか、そもそも友達が欲しいんだけど……で、でもでも健全な友達でいいからさ! いや、不健全な友達でもいいけど……ふへへ!!」
……やばい、人選ミスったかも。
「と、友達……」
い、意外に響いてるっぽい⁉
「よし小谷鳥ちゃん、友達になろ!!」
「……そこまでお願いされたら、断るのも失礼な話よね」
「おっけいきたやった~!!!!」
机から身を乗り出して小谷鳥に抱き着く現川。
小谷鳥は照れくさそうに目を細めるも、まんざらでもない様子だった。
「よかったな、小谷鳥」
「……ふんっ」
そっぽを向く小谷鳥に、思わず笑みが零れる俺。
どんな友達のでき方だよ、とツッコみたくなるものの、できればなんでもいいかと思う俺だった。
あらすじ―――――――――――――――
新連載始めました。
『わざわざ誰も知らない高校に入学したのに、助けた涼風さんが離してくれない』
よろしくお願いします。頑張ります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます