ロボットの国 2

 魔法の杖にも色々なものがあり、魔力を含んだ木材で作ったものや、その上でさらに魔力の高い魔法石などをはめ込んだもの、中には木材では無く鉄製のものもあったりします。共通しているのは杖の形をしている事で、それが魔力を帯びているならば魔法の杖に分類されます。


 私の持つ機械杖オートスタッフも装いこそ全くの別物ですが、同様に魔法の杖に分類されます。今この杖にはめ込まれている魔法石は安物の粗悪品であり、この杖にふさわしい新しい魔法石を探すのが、今回の旅の目的でした。


 私は魔石屋の娘のレナの手を借りて数件の魔法石屋を巡りましたが、残念ながらこれだというものは無く、一日目は何の成果も得られませんでした。私はぐるぐるとなるお腹の音でこの街に来てからまだ食事をしていなかったことを思い出します。次は魔石屋では無くレストランに行くことにしました。店内にいたのはほとんどが人間のお客でしたが、ちらほらとロボットの姿も見えます。私が思っているよりもずっと、ロボット達は人間の食事に関心があるように思いました。私はアボガドサラダとハンバーグを頼んでテーブルで待ちます。


「レナさん、今日はお付き合いありがとうございました。レストランまで付き合ってもらっちゃって……。食べれませんよね?」


「はい。私にはそういった機能は付いていませんので。でも食事の感覚と言うのはなんとなくわかります。ニューロン回路に食事の概念はインプットされてますので、食事アプリを使って同様の体験をすることが可能です。あくまでニューロン回路の中で起きることなので、やっぱり本物の食事対するあこがれはありますけどね。今のような場面で同じ感覚を共有できないもの少し寂しいです」

 レナは本当にそう思っているのでしょう。彼女の顔モニターには今日一番の悲しさを表現する顔文字が表示されていました。


「そんなこと言ったら私も電力供給の感覚はわかりませんし、そこはお互い様ですよ」


「それもそうですよね。でもリリアさん、良い事を教えちゃいます。実は私の動力って電力じゃないんです」


 それは私にとって非常に興味のある内容の話だった。

「そうなんですか? 電力じゃないって……もしかして魔力供給?」


「当たりです。試験的に実装されたもので不具合が心配されていますが、今のところ健康そのものです」

 レナの顔モニターに『^^』と表示される。ロボットというのは一部の例外を除いてほぼ電力で動いています。レナのようにニューロン回路が搭載されているロボットならなおさらで、不具合などで機能停止するリスクを回避するため、安定性に欠ける電力以外の動力が使われることはほぼ無いと言っていいでしょう。私はそれでも実装される理由を考えます。レナがかなり特別なロボットか、もしかしたら非合法なロボットなのか、完全な他人とは言えない仲になった以上、後者の方であってほしくはないですが、流石に考えすぎでしょう。近年のロボット技術の進歩は目覚ましく、国で試験的に作られた特別モデルが知らないうちに普及しているなんてよくある事です。きっと彼女もその内の一体なのでしょう。


 暫く待っているとテーブルに注文の品が運ばれてきます。ハンバーグは冷凍のものでしょうが、サラダの野菜はみずみずしく見えます。レストランとは名ばかりでレーションのような固形食が出てくるんじゃないかと思っていたくらいなので、これは嬉しい誤算でした。私は「いただきます」と手を合わせて食事にありつきます。私は食事を済ませると、次の計画を立てます。


「レナさん、この街の上って魔法石の採掘所になってるんですよね?」


「はい。私は一般タイプのロボットですので安全な区域にしか立ち入ったことはありませんが、かなり大規模な採掘所だと聞いています」


「出来ればそこに行きたいんですけど、レナさんにガイドをお願いできたりはしないでしょうか? もちろん安全な場所までで結構ですので」


 私の提案を聞いたレナは驚いた顔で言った。

「地上に出るんですか!? もちろんご一緒させてもらいますが、条件の方は大丈夫ですか? その様子だと魔法使いの資格はお持ちのようですが、この地域の魔力はかなりの高濃度ですよ?」


「その辺は予め下調べしてあるので問題ないです。条件は二級以上の魔法使い、魔力耐性値40以上ですよね。両方クリアオッケーです」

 私は両手でVサインを作ります。


「生身でも耐性値40以上の人がいるのは知ってましたが、まさか本物を見れるとは……」


「結構平気なんですよね。70とかまで平気だったと思います。まあ普通に立ち入れる所でそんな場所は存在しないので特に役には立ちませんが」


「リリアさんって、人間なんですよね……? 70って私より高いじゃないですか。色々な人がいるんですねぇ……」

 レナは唖然とした表情で言った。それもそうでしょう一般的な人間の魔力耐性値は20程度と言われていて、ロボットでも50程度に耐える強度に設定されているのが一般的だと聞きます。レナは魔力を動力源としているので普通よりは高い耐性を持っていると思われますがそれでも少し毛が生えた程度でしょう。ですが魔法使いは魔力を扱うのに長けた者たちの集まりです。私のような魔法使いは珍しくはありますが、案外その辺を普通に歩いているものなのです。


 こうして次の目的が決まりましたが、地上に出るとなれば準備が必要です。今晩の宿探しはもう少し後になりそうです。

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機械化された魔女 ~Mechanized Witch~ 藤宮紫苑 @sio_n

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