機械化された魔女 ~Mechanized Witch~

藤宮紫苑

ロボットの国 1

 ここはどこにでもあるありふれた地下都市です。ですがここの住人たちは少し変わっていて、ここにはロボットたちが暮らしているのです。


 私がこの街に到着したのはつい先ほどの事です。今の時代ロボットがいるのは珍しくはありませんし、最初は特に気にしていませんでした。しかしどのお店を見ても店員はロボットしかいなく、そういえばと周りを見返してみると歩いているのはロボットばかり、私以外、生身の人間は一人もいませんでした。


「ここにロボット以外の人はいないんですか?」

 私は立ち寄った魔法石屋の店員さんに聞いてみました。


「そうですねぇ。たまにお姉さんみたいに旅行で訪れる人はいますが、私の知っている限り住人はロボットだけだと思います」

 ロボットの顔モニターに『> <』やら『≧▽≦』のような文字が表情豊かに表示されています。


「隣町で色々と面白いものがあると聞いたので来てみたんですが、完全にロボットの国があるなんて少し驚きました」

 今だって右を見ればロボット、左を見てもロボットだらけ。あ、遠くの方に人間の旅行客が一人がいますね。


「元々この都市は地上にある資源を集めるために作られた街で、その関係で沢山のロボットが集められたらしいです。そしてそのロボットたちがこの地に住み着き、今に至ると聞いています。そうだお姉さん、良かったら街のご案内しますよ」

 店員さんの顔モニターが再びニッコリの顔文字のようになります。


「それはありがたいですが、お仕事中なのでは?」

 あまりいない旅行客を対象にしたお店のようなので、実は暇なのかなと思ったりしましたが、そこで余計なことを言わないのが淑女と言うものです。


「全然大丈夫です。お父さん、ちょっと急用できちゃったからお店お願いね!」

 彼女は店の奥に向かって大声で言った。奥から父親と思われるロボットが出てくる。娘とは違い表情は読み取れませんが、動作や雰囲気からやれやれと心の声が聞こえてくるようでした。


 彼女は着替えてくると言って店の奥に引っ込んでいきました。少し待っていると彼女が出てきます。先ほどまでの地味な制服とは打って変わり赤いジャケットにハーフパンツ、そしてブーツ型のパーツを身に纏っています。


「ロボットは着替えるのとか大変そうですね」


「人間の服のように着るタイプの服もあるにはあるんですが、ロボットしかいないこの街だと流通量が圧倒的に少なくて、あっても全然可愛くなかったりなんですよね。お姉さんの言う通り、着替えるのも大変でボルトの締めが甘くてボロンとなっちゃう事もあったりなかったり……」

 何か思い出したのか、少し恥ずかしがっているようです。まさか経験があるのでしょうか。


「それは少し店員さんがドジなだけな気がしますが……。そういえばお名前お伺いしてませんでしたね。いつまでも店員さん、お姉さんじゃよそよそしいですよね。私はリリア・イングラムです。リリアとでもお呼びください」

 私は店員さんに握手を求めました。店員さんは私の手を握り返して言います。


「リリアさんですね。私はレナ・キノッピオです。レナでもキノッピオでも好きなようにお呼びください」


「そういえばここって人間が食事をできる場所ってあるんですか?」

 ここに人間がいないというなら重要な事です。流石の私も飲まず食わずというわけにはいきません。


「そちらはご心配なく、ロボットの中には有機物を分解してエネルギーにする人もいるので、件数は少ないですがレストランなんかもあったりします。外から来た人間も食事の際はそちらに行くと聞いています。まあ私にそういう昨日は無いので詳しくは知らないんですけどね。そういえばリリアさんは魔法使いだったりするんですか? その大きな杖とか、さっきうちで見ていた魔法石もあまり一般のお客さんが買っていかないようなものでしたよね」


「おや、お気付きでしたか。大当たりです」


「ですがその杖、少し変わった形をしてますよね。それは杖……なんですか? 私の知っている魔法の杖とはかなり違いますね」


「この機械杖オートスタッフは私が作ったもので全長151センチ、外装は熱に強いチタン合金製。コアとなる魔力炉は内蔵されたコンピューターに繋がっています。コンピューター制御による魔法円やルーンの省略、自動音声による自動詠唱や魔法のマクロ制御を行うこともできます。材料のせいで少し重いのが玉に瑕でしょうか。現在は外装をより軽い複合材料コンポジット・マテリアルやそれ以外のものに変えるのを検討中です」


 レナは得意げに説明する私をポカンとした顔で見つめています。

「私の知っている魔法の杖とはかなり違いましたね……。なるほど、それでこの街にやってきたんですね」

 レナは何かを察したようです。彼女の言った通り私がここに来た理由はこの機械杖にあります。正確には機械杖のコア部分にある大きな魔法石です。魔法石の良し悪しは神秘の純度の高さだけではなく、それを使う魔法使いとの相性も関係しています。

「うちのお店にあるのはお土産用に小さく加工されたものがほとんどですからねぇ。魔法使い用の魔法石を扱っているお店なら知ってるので案内しますよ」


「助かります。そういえばこの街って飛行可能ですか?」

 一般的に飛行というのは魔法使いがほうきを空を飛ぶことを指します。


「ええ、住民はロボットがほとんどなので飛んでる人はほとんど見ることは無いですが、飛行自体は制限されていません」


「そうですか、私のほうき二人乗りなんですよ」

 私が言うと、レナは顔モニターをキラキラとさせていた。


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