第47話 アホ二人 ドキ☆ドキ!愛のモールス信号回♥

 

 ――明日からの予定がどういったものになるのか特段告げられることもなかったので、万が一に備えて早めに就寝することにした。



 部屋はライドルトと同室。


 ベッドは二つ。


 使用しているベッドは一つ。


 つまりライドルトと一つのベッドで横になっている。


 何故かと言うと、先ほどのセイカとの会話でも言っていたが、就寝中に高確率で何者かに襲われる可能性があるからだ。


 俺一人ならどうにでもなるが、ライドルトが自分の身を守れないかもしれないと事情を説明して同じベッドで寝ることになった。



 お互い意識しないように背中を向けて横になっているので、間違いは起きない。これは絶対だ。


 部屋の盗聴器はそのままにしておいた。きっとセイカが監視しているからだ。


 全部破壊したら疑われて何を言われるか予想もつかない。


 そのためライドルトとは限定的な会話しかできないので、モールス信号を使う事で意思の疎通を図る。



 物音を立てないようにするためにお互いの体を指で突こうと言う話になっているので、一応会話が成り立つかテストとしてライドルトの背中を突いて信号を送る。



【・-・・・ --- -・ ・・-・ -・・・  -・・- -・--・ ---- ・・ --・-・ -・ ・・  --・・ ・・ -・-・・ -・-・  ・-・ -・--・ -・・-・ ・・-- ・---  ・・-・- -・-・ ・--・ -・-- -・ ・-・・ 】

(おれたちは まるごしだ ぶきに なるものを みにつけたか)



 会話に時間はかかるが、声を出さずに誰にも知られることなくライドルトと疎通できる。


 突いている途中で「んっ」とか「ふっ」とか、ライドルトの声が漏れていたので背中じゃない所を突いたほうが良さそうだ。ビンビン敏感な奴。


 寝静まったころに襲撃されるかもしれないので、戦闘になった際、対応できるように武器になるものを携帯するよう前もって指示しておいた。




【んーぱちぱちぱちっぱちんーっ んーぱちんーんーっぱちぱちっぱちんーぱちんーぱちっぱちんーぱちぱちっぱちんーぱちんーぱちっんーぱちんーぱちっんーんーぱちんーんーっんーぱちっ ぱちぱちぱちんーっぱちんーんーぱちっぱちっぱちぱちっぱちぱちぱちっぱちんーんーんーっ んーぱちぱちんーぱちっぱちんーぱちんーんーっ んーぱちんーぱちぱちっんーぱちぱちんーっんーんーぱちんーぱちっんーぱちっ】

 ⦅はい げんかんにあった くつべらを もって きました⦆


 ライドルトはこちらに向き、俺の目を見つめて、まばたきで信号を送ってきた。


 振りむいた時に香るシャンプーの匂いが浴場に備え付けられたものとは違う匂いだったので、恐らく自分で使っているものを持ち込んだのだろう。ライドルトの背中から月明りが差し込んで綺麗な金髪が光って見えている。


 ライドルトの長いまつ毛のぱっちりおめめがパチパチとまばたきで信号を送ってきたことを見て、元男だという事をすっかり忘れて見とれていた。


 俺も真似して、まばたきで信号を送ろうとするが、途中で顔を赤らめて目を逸らされた。俺がキモかったか、恥ずかしかったかのどちらかだろう。


 結局これもダメかと思い、ライドルトの手を取って握った。


「……あ」



【ぎゅーぎゅーぎゅーぎゅーっぎゅーぎゅーぎゅーっきゅぎゅーきゅっきゅきゅきゅっ ぎゅーぎゅーぎゅーきゅっきゅぎゅーきゅぎゅーきゅっきゅぎゅーきゅっぎゅーきゅぎゅーきゅっ ぎゅーきゅきゅきゅっぎゅーぎゅーぎゅーきゅぎゅーっきゅきゅっきゅぎゅーきゅきゅっぎゅーぎゅーきゅぎゅーきゅっきゅきゅきゅぎゅーっきゅぎゅーきゅっきゅぎゅーっ】

(これなら そんなに はずかしくない)


 手の握り方の強弱で信号を送る。



 ⦅はい これなら だいじょうぶ です⦆


 ライドルトも手を握った信号を使って答えてくれる。目が合うとにっこり笑ってくれた。うん、健全だ。これならセイカ警察もやってこない。



 ⦅これなら くちではいえない しょうじきな きもちが いえそうです⦆


 うん、それは良い事かもしれない。どうしても家ではライドルトが気遣っている感じが気になっていた。居心地が悪かったりしても言えなかっただろう。



 ⦅じつは わたし しょういのことが こわかったんです⦆


 え?そうなの!?仮想世界から目覚めて怖い事したことなかったはずだ。いやあったか??


 ライドルトは真顔でこちらを向き、両手で俺の手を握り、真剣な顔で信号を送ってくる。まだ健全である。



 ⦅でも みなさんと いっしょに くらすようになって かんがえが かわったのです⦆


 今まで聞けなかったライドルトの気持ちが聞ける。


 俺も無言でうなずきながらライドルトの信号に意識を向けた。



 ⦅しょういは いろいろ おしえてくれて とても やさしいです⦆


 うんうん、SAVの全員に聞かせたい。最近Jにも怯えられるようになってしまったし。



 ⦅わたし SAVを ぬけてしまったので どうやって おんがえしをすればよいのか かんがえました⦆


(そんなこと きにしなくて いい)


 そう、見返りを求めてライドルトを引き取ったわけじゃない。



 ⦅しょういは いつも いえで こまってますよね⦆


(なにが)


 ⦅あっちのほうです⦆


 ……ん?大丈夫か?これ。雲行きが怪しくなってきたな。



 ライドルトは信号を送るために両手で握っていた俺の手を自分の胸に押し付けてきた。


 うるんだ瞳で頬から上気した表情になっている。この子本当に元男なの?


 ⦅わたしなら しょういを みたせると おもうのです⦆


(やめろ おまえと そういう かんけいに なるきはない)


 ⦅だいじょうぶです だれにも いいません⦆


 ⦅わたしが おとこだから きもちわるいですか?⦆


(そんなことはない)


 ⦅じゃあ つごうのいいように わたしを あつかってください⦆


 もうそういうモードに入っているのか、または俺に奉仕することで自分の居場所が欲しかったのかはわからない。ライドルトは艶っぽい唇を俺の顔へ近づけて来る。



 ――俺は流されない。家族を顧みず自分だけの欲求を解消する気は金輪際ない。


 ライドルトに押し付けられた胸の突起あたりに俺の人差し指があったので信号を送る。


【つんつん!つつん!つんつつつつんん!つんつん!つつん! つんつつつん!つつんつんん!つつつつんん! つんつんつつんん!つつんつつんん!】

(だめだ はやく ねろ)


「あああっん!ああああん!あっっっん! あああっあん!ああああん!っっん!っっっあん! ああっっあん!っっん!っあっあっん!っあっっん!っあっあっん! っあっん!っあっあっん!っあっああん!っっん!あああっあん!」

 ⦅いまは だめです! そこは すごく びんかん なんです!!⦆



 すごいぞライドルト!喘ぎ声で信号を送れるとは!!


 俺が感心していると、けたたましく館内に警報が鳴り響いた。


「なんだ!?敵襲か?ライドルト襲撃に備えろ!」


「はい!」


 そういってライドルトは持ってきた靴ベラを構えてベッドの陰に隠れる。



『侵入者あり!C棟宿舎105号室へ潜伏の可能性アリ!』


 この部屋の近く!?いや105?



 ドン!と荒くこの部屋の扉が開かれ銃を構えた兵士に取り囲まれてしまった。


『お父さん、そこまでよ。降参して』


「しまった」


 俺はアホか。思いっきりライドルトのやり取りを聞かれてしまっていたのか。


 迂闊にも声が出てしまった。



 俺の人生もここまでか……アホ過ぎる理由に落胆した。

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