第43話 勇者リワーク!【打ち上げ飲み会③】

 

 酒でつぶれてしまったケイカをおんぶしてオフィスへ向かっている。


 こちらは幼児セイカを連れているので、飲み会はみんなより先に抜けることとなった。


 他の連中は二件目に向かっている頃だろう。



「アキは全然平気そうだな。そんなに酔わなかったのか?」


「あたしは気分が悪くなったら酒が抜ける時間までヒールしているからね。飲んだとしても、すぐに動けるようにしているよ」



 自分は酔ったらヒールして復活しているとか、勝負していたケイカが少し不憫に思ってしまった。


「じゃあケイカにもヒールしてやってくれよ」


「ケイカ姉さんのベッドに寝かせてからね」


「え?今やってくれないのか?」


 そうしたら、ケイカをおんぶすることもなくなると言うのだけど、聞いてくれない。



「まあ、ベッドに着くまで……ね」


 アキは俺の背中で酔いつぶれてしまったケイカのほっぺたをツンツンしながら微笑んだ。


 それを見て俺は少し安堵することができた。


 ケンカをしても結局二人は姉妹だと感じることができて嬉しい。



「うっ!?」


 そんなほっこりするような気分でなごんでいたら背負っているケイカから突然、呻き声が聞こえた。これはまさか……。



「おろろろろろろ――」


 ケイカはすごい量の嘔吐物を出した。


 もちろん当人をおんぶしている俺は全く抵抗できないので、なすがままだ。


 俺は頭からケイカの嘔吐物を浴びた。




 結局、ケイカにヒールすることになり、おんぶタイムは終了をなった。


 シラフに戻ったケイカは、子供のように俺に手を引かれながら泣き歩いている。


 何の便乗か、ケイカのゲロを華麗にかわしたアキも、俺と反対側の手をつないでいるので、またしても両手が塞がっている。



「えーん、ええーーん」


「ケイちゃん泣かないで」



 自分の言った言葉に昔の記憶が蘇った。


 まだ、ケイカ・セイカが二歳くらいの頃だ。


 公園で二人がかけっこして遊んでいた時、ケイカが転んでひざを擦りむいた。


 俺は走って駆け寄ったがケイカが泣いてしまい、家に帰ることになったのだけどその道中「ケイちゃん泣かないで」とセイカが言ったのだけど、言ったセイカがもらい泣きしてしまって、涙の大合唱した二人を腕に抱えて家路についたことがあった。


 またこうやって一緒に家路(?)につくことができるとは。


 思い出に浸っていたいところだけど……。



「おとーさん酸っぱい。あとケイカ姉さん泣き方がわざとらしい、あざとい」


 それを聞いたケイカが余計に泣き出した。


 アキよ、思ったことをそのまま口にするのは良くないぞ。


 そのような不満を口にされても、俺はどうすることもできない。


「そうだ。アキ体洗い流せるくらいの水を出してくれよ」


 こういう時はアキえもんマジックだ、魔法で水を出すようにお願いする。



「そうだね!いいよっ!」


 そうだ、洗い流せばきっと泣き止んでくれる。


 俺から発している、酸っぱい匂いがケイカの悲しい気持ちを助長させているのかもしれない。


 だとすれば俺のせいだ。ここで濡れネズミになろうが、ケイカの涙は止めてあげなくてはならない。


 水の気配を感じ、空を見上げた先に直径3メートルほどの水の塊があった。


 そのまま三人を丸呑みするように水の塊が落ちてきた。


「ぶふぁあ!?」


「あははははっ!」


「…………」


 なぜこんなにうまくいかない……。


 三人とも濡れネズミだ。



 慌ててセイカと幼児セイカの方を見た。


 ロボットのセイカが上手く水の塊から逃げてくれたようで二人とも無事だった。



「あははは!ケイカ姉さん髪がワカメみたいになってるー!」


「……うぇ」


「うわーーーん!ええーん!」


 ケイカがさっきよりも泣き出した。


「こらアキ!どうすんだこれ!?収集つかなくなっちゃったじゃないか!」


 結局俺から酸っぱい匂いが消えただけで、ビッシャビシャのまま、手を引いてケイカのオフィスまで移動した。




· · • • • ✤ • • • · ·✤· · • • • ✤ • • • · ·



「ふー……」


 ケイカのオフィスにある風呂を借り、全身洗った。


 ……と言うか、濡れていると風邪をひくからと言って、ケイカとアキも風呂に入ってきて、また背中を流された。


 今はベッドに寝ている幼児セイカと残ってくれたロボットの方のセイカがいる。



「セイちゃんすまんな、色々用意してくれて」


 セイカに下着などの変えの衣類を持ってきてもらった。


「いいのよ。お父さんとアキのおかげで最近のケイカ、あまり思いつめることも減って、あの子らしさがまた見えるようになったの。だから感謝しているわ」


 それを聞いて嬉しい反面、親として色々と思う事はあるが聞いておきたいことがあった。



「セイちゃん、今日俺の戦闘用スーツの腕からすごい爆風が出た件だけど」


「ああ、あれは幼いほうの私がお父さんの戦闘用スーツに仕込んだみたい。私の管理不足よ、ごめんなさい。全部回収して厳重に管理しておくから」


 セイカは謝ってきたが、実際はアレに救われた。


「いや、いいんだ。実際あれが無かったら俺は真っ二つにされていたかもしれないし、今後なにかしらに使えるようになればいいのだけどな」


「そうね、まだ安全面が全く考慮されていなかったから、今後改良して装着することも考えてみるわね」


「ああ、頼むよ。あとセイちゃんに厳しく叱らないでやってくれ」


「お父さんはいつも怒らないで褒めちゃうから……自分のこと言うようでアレだけど、増長しちゃうわよ?」


「俺はほめて伸ばす教育方針なんだ」


「それってモンスターペアレンツ誕生の瞬間……と言うか、ただ嫌われたくないだけでしょう?」


「そ、そんなことないぞ」


 図星を付かれた気がするが、娘には永久に好かれていたい。これは父親としての永遠のテーマだ。


 その後、家族全員でケイカの仮眠室で就寝する事となったのだが、ケイカとアキが誰がどこで寝るのかと言い争いになっていたので俺とセイカは仮眠室の方へさっさと移動して一緒のベッドで寝た。


 あとで誰が布団に入ってきたのかは、今はおいておこう。



「おやすみセイちゃん」



 久しぶりにセイカと同じ布団寝たのが良かったのか、または疲れていたのかはわからないが、いつもより深く眠ることができた。



*:.。..。.:+・゜ ゜゜・*:.。..。.:+・゜ ゜゜・*:.。..。.:+・゜ ゜゜・*:.。..。.:・*



 呼吸をするたび、鼻と口につながれたチューブからシューシューと音を立てて酸素が送られてくる。


 これから私は手術だ。皮膚の大部分を火傷して身体は指一本動かすことができなかった。



(そろそろ私も身の振り方を考えたほうがいいかもしれない)



 朦朧とした意識の中で、そう思う。


 そもそも私は勇者の力を持ったからといって、世の中をこの力で良くしたいとか、ムカつく奴を懲らしめようとか、そんな積極的な考えは持っていない。


 ただ穏やかに暮らしたいだけ。


 今回の作戦だって、命を狙われても助けてくれる仲間が増やしたいと言われて参加しただけだ。


 それが逆に死にそうな目にあってばかりだ。


(オギツキアキ……)


 先の戦闘で見た魔法の要素は、水、氷、雷、火、の4要素だ。一人1要素しか使えないという、私が知ってる異世界での常識を覆している。


 それに加えてオギツキアキは全然、全力じゃなかった。


 なぜ、あんなとんでもない力を持っているのか。そのくらい圧倒的な差があった。


 このままでは、私はあの組織(SAV)に殺されることが目に見えている。


(とりあえず、この国から離れよう……)


 私がSAVから逃げ延びた先で亡命し、匿ってくれた恩はあるけど、そろそろ潮時だ。


 同じところに居続けることはリスクであり“見返り”で要求された仕事も命がけでこなした。


 自分なりの義理も果たしたとみて、この国から離れよう。


(あとはあいつをどうするか……)


 剣干賢人。


 オギツキアキの攻撃をなんとか潜り抜け、魔法で強引に連れ帰ったが、理性を無くしたバーサーカーのようになり、暴れていた。


 今は地中深くで生き埋めにしている。


 地上に出てくるまでの時間稼ぎだが、本音はそのまま放っておきたい。



「左陶さん、注射しますね」


 火傷で話せない私が視線を看護師に向けると、私の腕に点滴の針を刺す。


 点滴の薬が体に入ると意識が遠ざかっていった。

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