第40話 勇者リワーク!⑩【任務終了】


 ――アキと剣干との戦闘は終わったようで、無数のドローンがアキの捜索と現場の確認の為に飛んで行く。


 アキはSAVの戦闘用スーツは着ているが、通信デバイスを持っていなかった(壊れたか、どこかに捨てた)ので直接安否を知ることができない。



「アキ…………」



 俺もドローンに続いて、アキが戦闘していた場所まで走る。


 山を二つ超えたところにある現場だ。自分の足でどれだけ時間がかかってしまうかわからない。


 だけどそんなのは知らない。アキの顔を見て、無事を確認したい。


 急に押し寄せた不安感。


 さっき見た地獄のような景色にあっけをとられていて、あそこにアキが居ることの実感がわかなかった。


 幸い、山中と言っても見晴らしの良い丘から走って、向こうの山まで行けばいい。



「はっ、はっ、はっ――」


 走る速度が、焦りと共に自然と速くなる。


「はっ、はっ、……アキ」


 アキは俺と――の宝物だ。


 早く会いたい。顔が見たい。触れて安心したい。


 心臓がバクバクしているが、息が上がっている事が他人事のようだ。


「アキ……」



「アキ―――――――――!!」


 俺の叫び声がこだました。


 自分の声が何度も返ってくる、その中に聞きたかった声も返ってきた。


 ――俺が今一番聞きたい声だ。



「おとーーーーさーーーーん!!」


 アキの声が聞こえると同時に目の前にアキが現れ、俺の胸に飛び込んできた。



「ぐわああああああ!!」


 ものすごい勢いで飛び込まれ、アキもろとも何回転も地面を転がった。


「うわああああああ!!おとーさんの腕がいけない方向に曲がってる!!」


「それはいい!どこかケガしてないか!?」


 どこかケガしていないか、骨は折れていないか、アキの体をあちこち見て触ってみる。


「ちょちょちょっと!?」


 所々擦り傷や服が汚れているくらいで特に大きなケガはなかった。


 安心したところでアキを抱きしめた。


「……もう、あれくらいで過保護だよ?」


 アキはそう言ったが、余裕のない俺の頭を撫で、不安を和らげてくれた。




 ――今、地面に仰向けに寝たまま空を見上げている。


 そして、俺の胸の上ににアキの頭がある。

 

 もう夕方になってしまっていた。


「アキ、夕ご飯は外食にしよう。今日は疲れたよ」


 メシの心配ができる位にはアキのおかげで落ち着いた。


「そうだね。あたし今日はお酒が飲みたいかも」


「じゃあ全員で飲むか」



「SAV各員、負傷者はいないか?」


『いつも隊長より怪我している奴はいませんよ』


 嫌味ともとれる、ごもっともな回答に方々で笑いが起きていた。


「今日、メシ食いに行ける奴はSAVのブリーフィングルームに集まれ。集合時間は追って連絡する」



『それって隊長のおごりなんですよねー?』



「……へっ?」



『そりゃそうだよな!いつも飲みに誘っても「いや、娘にご飯作らないといけないから」っていっつも帰っているし、久しぶりに飲めるんだから隊長としての甲斐性が試される時だぜ?アディ』


「あの……セイちゃん、いい?」


『『甲斐性なんてなかった!?』』


 あちらこちらで俺に対しての顰蹙(ひんしゅく)を述べているが、俺が家計を握っていないのだからら、どうしようもない。


『しょうがないわね。ケイカにも声をかけて関連部署へ連絡するように言っておくわね』


「いや待てそうじゃない。え?これ全部俺が出すの?」


『そうよ?お小遣いは当分無しなんだから』


「ひぁ!?」


 娘から小遣いもらってるとかありえないとか、さいてーだとか、ダメ親父だとか、またひどいバッシングが飛んできた。



「おとーさん?」


 デバイスを持っていないアキは、この会話に参加していない為、訝し気な表情でこちらを見ている。



「ああ、帰ろうか、アキ」


 アキは両腕をこちらに差し出し、アピールしてくる。


「……だっこ」


 今日は頑張ったんだ。これくらいのご褒美は進んででもしなきゃいけない所だ。


「片腕折れてるからな、ちょっと安定感が悪いかもしれないが」


 元々アキは軽いからな。片腕折れてても、おんぶくらいは余裕だ。


 アキを背負って歩き出す。


 アキは俺の折れている腕をとり、音葉を唱えた。


「アキ、結局剣干と左陶はどうなったんだ?」


「逃げられた……と思う。もうちょっとで剣干を殺れたとおもったのだけど、左陶が来て、一緒に土の中に潜っちゃった」


「そうか。まさか潜ったのを引きずり出そうとしてあの山、爆発させたのか?」


「まあ、そうなんだよね。手段を択ばなかったら土の中でもやっつけられたと思うのだけど」


 俺たちの背後にある山を見た時、手段を選んでもらって良かったと思っている。



「おとーさん、腕くっついたと思うのだけど、どう?」


 折れていた腕に力を込め、屈伸し特に問題なく動いている事を確認した。


「おお、治った。ありがとうアキ」


 片腕でおんぶを支えていたアキを両腕で支える。


「……おとーさん、あたし、ちょっと寝るから」


「わかった」


 アキの体から力が抜けた瞬間、背中に感じる重みが増した。


 全身の力が抜けて眠ってしまった。


 あれだけ暴れた後だもんな。疲れてしまったのだろう。


「――よっと」


 背中のアキを背負いなおす。回収地点まではまだまだ先だ。




『――アツシさん。ご苦労様です』



 ケイカからの通信だ。作戦中で連絡くれたの初めてじゃないか?ちょっと嬉しい。


「ケイカか。今終わってみんなと合流するところだ」


『あの……アツシさんが怪我したって聞いたので』


「ああ、心配かけちゃったな、ごめんよ?」


『いえ、それはいいんです。それで容体のほうは』


「腕を折ってしまったのだが、たった今、アキに治してもらったよ」


『はぁ~そうですか……』


 ケイカはほっとしたようで、顔は見えていないけど、肩を撫でおろす様子が伺えた。



『もぅ~、アツシさんは怪我しすぎです!もう、一人だけの身体じゃないから無茶しないでください…本当に…』


 前回、大けがして反省したのだけどな。


 危険が伴う仕事というのはケイカもわかっているはずだから、これはただ、行き場のない自分の気持ちを俺にぶつけただけだろう。


 そう考えると、取り繕っていない気持ちを俺に話してくれることに嬉しさすら感じる。


「そうだな。次からもっとうまくやるようにするから、ケイちゃん許して」


 ここまで話したところで、ケイカも自分の気持ちを吐き出したことに気が付いたのか――


『いえ、アツシさんに危ない事させているのは私たちの都合ですが……でももっと自分を大事にしてください。何度も言うようですが――』


 感情と理性のピストン運動だ。


 ケイカと立場が逆なら、俺も同じ様になっていただろう。いや、もっとひどいかもしれないな。


 もっとも俺は娘に危険なことをする事を良しとしていないが。



『――私の前から居なくなって欲しくないの。アツシさん』


 ……家族から…いや、娘からのこういうセリフは非常に弱い。


 俺は父親として、この想いに絶対応えなくてはならない気持ちになるじゃないか。


 そう、力がみなぎる思いだ。


「ケイちゃん、この話はまたゆっくりとしよう。とりあえず帰還するまで晩ご飯は待っていてくれ。今日は一緒に外へ食べに行こう」


『…………はい!えーっと、ドレスコードは必要なお店ですか!?』


 ん?ドレスコード?


「いや、そんなにかしこまった感じじゃないくていいよ。まあ酒は飲むと思うからそのつもりでな」


『お酒……わかりました。準備しておきます!』


「うん。ケイちゃん、連絡くれて嬉しかったよ。ありがとう」


『はい!アツシさん、気を付けて帰ってきてくださいね』


 何か一部会話が噛み合ってなかったような気もしたけど、まあいいか。


 今、最優先なことは俺の背中に乗り、寝息を立てているアキを何事もなく家まで連れて帰ることだ。



「通信終わったかい?どこかへ報告を?」


 現在はロジャー、J、ソゥと合流して集合地点まで移動をしている。


 俺が通信していた事にロジャーが気付いたようで聞いてきた。


「ああ、ケイカ……所長に速報を入れていたんだ。あと今日の飲み会は所長も来るぞ」


「隊長の大きいお子さん全員集合っすね!いやSAVは女性比率高いからイベントごとは楽しいんですよね~」


 Jは懲りていないようでメンタルの強さが伺える。


「おい、お前わかってるだろうな?」


「へ?何がっすか?」


「また明日からの訓練が楽しみだな!」


「ひぇ!?」



 これ以上トラブルはなかったようで俺たちは無事組織へ帰還することができた。


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