第18話 デッドヘッズ【13:48】
―現在富山市上空―
俺が今操縦している有人の戦闘機以外に
無人航空機に関しては俺たちの護衛で飛んでくれている。
国内に取り逃がした帰還者が潜伏していることから戦闘機などは地上から狙われる危険性が高い。油断してたらでっかい石とか飛んでくるそうだ。
デバイス内に3Dのデフォルメされたセイカが視界内に現れ、秘匿回線が飛んできたので何事かと思い、後部座席にいるライドルトがいるのでデバイスのトークキャンセルモードに設定してライドルトからは俺の声が聞こえず口パクで話しているように見えるだろう。
『トークキャンセルしてくれたのね、気を使ってくれてありがとう』
視界内のデフォルメセイカが投げキッスでハートを飛ばしてくる。
「急になんだよ。秘匿回線なんて使ってお父さんに何か相談でも?」
『うん。それもあるけどさっき何故ライドルトを撃とうとしたの?』
「ライドルトを試したように見えるかもしれないけど、実は俺がライドルトの事を知りたかったんだ」
『知りたかった?何を?』
「今更だけどライドルトの担当任務ってなんだ?」
『表向きは諜報活動担当ね、彼、若いから人に取り入ったりは苦手だけど』
「諜報って……何か成果があったか?」
『まあ、表の方はほとんど肩書だけのものだったわ。裏の仕事の方はほどほどに成果をあげていたけど、この仕事はお父さんの方が成功率が圧倒的に高いし、工数も少ないからここ半年間は彼に頼んでいなかったわね』
裏の仕事とは”バイト”の事だ。
所属する組織――IOF-MOSAとは主に国連理事国の集まりだ。各国それぞれの自国の国益や他国へのけん制、強大な力を持つ勇者を巡り、多種多様な思惑でこの組織に参加していたりする。
つまり一枚岩でないことから組織内部でも
そう言った不届き者を始末する仕事を俺が請け負ったりしている。
俺がSAVに入隊する前はライドルトが行っていたそうだが、そもそも普通ではないが多感な若者にこういった仕事は向いていない。
「だよな。だから殆ど書類上の事しか知らないんだよ。だからライドルトの事を少しでも知っておきたかった」
『何、お父さんってそっちの|気(け)もあるの?』
「ねえよ。あったらお前たちは産まれてない」
『それもそうね。お母さんだけじゃなくて他の女性にまで手を出して――』
「すいません!それ以上はメンタル的に任務に関わるので止めてくださいお願いします!」
一生言われてしまうネタをふと掘り返されると俺は最弱だ。家族で一番弱い。
目の前にセイカは居ないが手と手を合わせて懇願した。
『ちゃんと操縦桿握って。その機体は私が干渉できない位骨董品なのだから』
「お、おう」
『……まあいいわ、で、ライドルトの事、何か知れたの?』
「いや、あんまりわからなかった」
レーダー警報がけたたましく鳴った。護衛で付いてきた無人戦闘機にロックオンされてしまった。
「おい、やめろ!ライドルト君がビビってるじゃないか!」
「隊長!敵機ですか!?どういうことです!?」
「いや、無人戦闘機の試験動作確認だ。気にするな……」
無茶苦茶な嘘をついてしまったがライドルトは「そ、そうですか」なんて言いつつもどうすることもできず無人戦闘機を見ながら怯えていた。
『つまらない冗談言うからよ、はぁ~……無駄な時間を過ごしてしまったわ』
『……あ、そうそうさっきは、ケイカの事だったから私焦っていたの。感じの悪い話し方してごめんなさい。八つ当たりのようになってしまって思い返すと恥ずかしかったわ』
セイカは車中話していた時、焦って語気が荒くなった件について素直に謝ってくれた。
「いや、いいよ。ケイカを助けたい気持ちは一緒だと思うから」
『話は変わるけど情報漏えいの犯人についてなのだけど、ライドルトはシロよ』
さっきライドルトと話してわかったが、情報を流してはいない。
「だろうな。ではイジーが?」
『それも違う。もうすぐ特定できると思うから、その時は“バイト”をお願いするかも』
「わかった。……他に何もなければそろそろ俺とライドルト君にミッションの概要を説明してくれるかな?」
『わかったわ』
振り返ってライドルト君を確認するとまだ無人戦闘機が怖かったのか、外の景色を見ている。通信をオープンチャンネルに切り替えて話し出す。
「ライドルト君、これからミッションの概要を説明する――」
今回の作戦はこうだ
・ライドルト、アキは人質引き渡し場所である釧路空港の滑走路で武装を解除して待機。
・ケイカを保護次第、戦闘開始。
・アキはライドルトを守りつつ退避。退避後は帰還者の動向を警戒し、攻撃された場合は対抗する。
・俺、富子、ソゥ、しまこで帰還者、左陶を避けつつ30名ほどの敵部隊を制圧。
・イジーは生きたまま確保、出来なければ必ず処分する事。
「HQ、相手は民間軍事会社だと言っていたが、後ろ盾である国の証拠は手に入れることができたか?」
『ええ、詳細はまた説明するけど、相手の戦術データリンクのハッキングが完了しています。後ろにいるのはN国で間違いありません』
「そうか。ではイジーと帰還者以外の有象無象はいつでも殲滅しまってもいいよな?」
『さっきも言ったけど、オギツキ・ケイカ所長の安全確保を確認できてからです』
「了解」
「あ、あの僕はどうしたら……」
『ライドルト二等兵曹はオギツキ所長の安全確保を最優先で行動せよ。その後B号車でオギツキ所長の護衛をしながら待機。事前にマップ上の配置を記憶する事』
ざっくりした指示、要約すると戦闘に参加はしなくていいという事だ。
「そうですか……。了解です」
みんなと戦闘に参加できない事を聞いて明らかに落ち込んだ様子だ。
まあ、人質交換の条件に自分の身柄が指定されているから戦闘に参加できないのは当たり前だと思うが。
特に俺から何を言うでもなく、目的地が近付いてきたため機体を滑走路に向けて降下させた。
釧路空港に到着。
護衛に付いてきていた無人戦闘機は着陸することなく引き返していった。
着陸の時に滑走路の中心あたりに見えた人影はやっぱりケイカとイジーだった。
「HQ、相手側にスナイパーはいるか?」
SAVの通信チャンネルでセイカに問いかけた。
『衛星とドローンで確認したがスナイパーは無し、敵マーキングデータをマップに同期しています。帰還者については現在も視界で確認できず』
「敵側ドローンは?」
『偵察型ドローンを三機確認しています。状況が始まれば戦術データリンクと同時にハッキングは完了しているので、いつでもジャミングで落とせます』
「了解した。SAV全員聞いているな?みんな散々
「イージーゲームです。マルゴ[富子]了解」
富子が返事をする。
「帰還者には負けまくりですけどねっ!マルサン[ソーニャ]、マルロク[しまこ]了解」
ソーニャ、しまこが返事をした。
「マ、マルナナ[ライドルト]了解!」
ライドルトは緊張していた。
今正面、10m位離れてイジーとケイカがいる。こちらはライドルトと俺の二人だけだ。
「――ようイジー、
「アツシ、シャバに出ていたんだな。まあ色々聞いているよ。そっちこそどうだ?50年も寝たきりで肉が腐ってなかったか?」
「心配無用だ。お望みならお前とタイマンで殴り合いだってできるぜ?」
「俺と殴り合いで勝負だって?よく言うぜ。痛みを感じないゾンビとゲンコツ勝負する気にはなれないよ」
「積もる話もあるが今は急いでいるんだ。取引を始めたいのだが――オギツキアキの姿が見えないな」
「ああ、少し待て」
デバイス通信で直接アキを呼ぶ。
「アキ……いるか?出番だよ」
声をかけ、しばらく待つとなぜかメッセージを受信した。中を確認すると。
【終わったらデートだから】
ん?今その話関係ないよね?
「アキさん?仕事だよ?」
再び声をかけてまたしばらく待つとメッセージで返事があった。
【アキちゃんって呼んで】
「アキちゃん」
「はーい!呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん」
うぉ!俺の目の前にアキが現れた。
そのセリフ、わかるの俺だけだろう……ってかなんでアキが知っているんだ。いや違うそうじゃない。ずっとそこにいたけど脳が認識できない魔法を使っていたようだ。
イジーとライドルトがぶったまげている。
「オ、オギツキアキ……久しぶりだな。そんなキャラだったか?出会った時はもっと暗い女だと思っていたのだが」
「ふん、あんたは女を見る目がないね。だからSAVを率いていても鳴かず飛ばずだったんだよ。死んだと思ってたけど逃げ出していたとはね。まあそれはそれで正解だと思うけど」
アキちゃんめちゃ悪態付くな。過去に何かあったのかな。ケイカがまだそっちにいるのだからあまりイジーをイジーらないで!いや刺激しないで!
「まあともかく取引だ。オギツキアキとライドルトは俺の後ろにあるジェット機に両手を上げたまま搭乗しろ。搭乗を確認次第オギツキケイカ所長は開放する。アツシはその場所から動くな。一歩でも動いたら所長は殺す」
イジーを見るとケイカの背中にハンドガンを突き付けてるようだ。
「はいはい。ライドルト君いこっか」
「は、はい」
――二人は逃走用に用意したジェット機に向かって歩き出した。
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