第13話 三姉妹混浴ミッション②
ケイカ、セイカの寮の家事を済ませて実家に戻ってきた。
「おかえり~~~」
「ただいま」
「ご飯できてるよ~。一緒に食べよう」
「ん?どうしたの?」
アキはショートパンツにキャミソールの家着(いえぎ)に着替えているのだけど、髪を頭頂部より後ろ付近で一本にまとめている。これはポニーテールだ。
「いやなんでもない。ごめんな、待たせちゃったね」
「ん-ん-、いつもより遅かったみたいだけど何かあった?」
何かあったのはお前の髪型だ。とは言えず。
「ああ、食べながら話そうか」
「そうだね!お味噌汁温めるから座って待ってて~」
キッチンに向かうアキの後ろ姿を見る。髪はくせ毛なのでポニーテールは大きなしっぽになってる。ソーニャに対抗しているのだろうか……気のせいだよな。
しっぽを追いかけて食卓へつく。
夕食といってもほぼ夜食くらいの時間になってしまった。
今日の献立はアジの一夜干しを焼いたもの、茄子の揚げびたし、豆苗の中華炒め、冷ややっこ、味噌汁とご飯。十分なボリュームとバリュエーションだ。
俺はアキに和食を教えたことはない。
これは俺の彼女であるアキの母親に教わったものだと味付けでわかった。
白米をかき込んで味噌汁をすすっていると――
「おとーさん、ポニーテール好きなの?」
ぶっ!と軽く味噌汁を吹いてしまった。
「……お前、どこかで見てたのか?」
「だってしょうがないじゃない!おとーさん一人にするとすぐ変な所に行くし!」
「うっ……」
心当たりしかなかった。それも最近の話だ。
年齢的にはとっくに枯れていてもおかしくないと思われるけど、肉体的には20歳の若者だ。溜まるものは溜まる。
ION(イオン)から目覚めた俺はしばらくリハビリ生活だったのだのだが、この家に住むようになってからはたまに外出していた。
何処へ行ってたかって?そりゃ風俗だ。
入念な店選びを終えて、夜の街に意気揚々と歩いていたら前方にアキが腕を組んで仁王立ちしていたことがあった。
取り繕う事もかなわず、その場でめちゃめちゃ泣かれてしまって、あたしをおんぶして家に連れて帰れ、さもなくばこの場でずっと泣いてやると脅されたのでおんぶして連れ帰ろうとしたらとんでもなく密着してこられて、繁華街で衆目の視線にさらされたことを思い出した。
そして俺のジュニアは行き場のない悲しみに暮れるのであった。
これから先、俺の下半身プライベートは消失したのだ。今後下手打ち出来ないと思ってたのだけど、部下の頭を撫でることもできないのか。
可愛い娘のお願いだから我慢できるところは我慢するけど……処理については繊細に対応するしかない。
「わかった。気を付けるよ」
「うん……気を付けて」
一応、鉾は収めてくれたのかグラスにビールを注いでくれた。
そこからは俺がIONで50年間眠っていた頃、アキが何をしていたのか少しずつ教えてもらった。今晩の話は、アキの大学卒業式の日、セイカから受け取った手紙に『大学卒業おめでとう。就職先は私に任せておけと言ったわね。そのためにもまずは同封されているチケットでアメリカに留学してきてください。お勉強頑張って』とありその足でアメリカへ行った話だった。
一気に話を聞くとまだ頭痛があるので、毎日少しずつアキの思い出話を聞いている。
アキは結構ハードな人生を歩んでいて(ほぼセイカのせい)話を聞くたびに驚かされている。
話の興が乗ってきたのだろうか、途中からアキも一緒にビールを飲みだして身振り手振りで思い出話を語ってくれる。俺の知らない所で自分の娘の経験してきたことを聞ける日が来るなんて、一緒に酒を飲める日が来るなんて、俺はきっと幸せなんだ。
――今日はいつもより多めに飲んでしまった。そろそろ寝るからとお休みを言い合って、お互いの寝室に別れる。
俺の寝室は和室で、布団を敷く。そしきのスクランブルは深夜起こったりすることもある為、デバイスを装着したまま布団に入っている。
本格的に睡眠が必要な時は睡眠導入剤を飲んでから寝るが、薬がないと眠りが浅い体になっているので休んではいるが起きている、みたいな感覚だ。
明日は部隊の訓練日になっているから薬は飲まずに体を休めるようにした。
・・・・・・
・・・・
・・
――廊下を歩いてこちらに誰か来る。時間はAM2:45。
足音からアキだと十分にわかってはいるが、念の為熱感知センサーでデバイスを確認、やはりアキだった。トイレだろうか。
と言ってもこちらの部屋側にはトイレがないので、この部屋に来るのだろう、慌ててデバイスの電源を切った。
ふすまが開くとアキの姿を確認。薄眼で確認をして警戒を解いた。
――アキは当たり前のように俺の布団に潜り込み体を密着させてきた。
触れているアキの体温が熱っぽいので体調が悪いのかと起きて声をかけようとしたが、それならわざわざ俺の横で寝ないでもいいはずだ。それに全身をくねらせて身体を俺に擦りつけてくる。
あからさまに体をまさぐられたりはないので、俺は黙って気が付かない振りをすることとした。
「はぁ……はぁっ……」
今、俺の顔の前にアキがいるのだろう。鼻先から唇にかけて歯磨き粉のミントが混じった熱い吐息を感じる。
ここまでされて俺が寝ていたとしても起きないわけがないと思っているはずだ。アキは何のリスクも感じておらず――きっとしているのだろう。
肌に触れる感覚が布越しではなく肌同士の密着が伝わっている。布団の中から暖かい性の匂いが上がってきた。
俺が一歩でも動いてしまえばアキはきっと受け入れる。
ただ、だとすれば俺からできる事は何もない。気付かない振りをして、何もなかったことにしてこのまま俺は体を休めるだけだ。
朝になれば部屋に戻っているのだろう。
その後、アキは落ち着くと俺の手を取り自分の頭にのせて「むふふ」と満足げな声と共に眠ってしまった。
――アキが完全に寝静まってから俺はアキの頭を優しく撫でた。
・・
・・・・
・・・・・・
長い夜が明けだし、チュンチュンと雀の鳴き声が聞こえる。朝チュンだ。
ただし隣で寝てるのは大きな娘さんです。結局アキは自分の部屋に戻ることなく俺の隣で寝たままだった。
寝巻が着崩れて胸が見えそうな状態だ。起こさないように布団から出て、アキに布団をかぶせた。
さて、俺のモーニングルーティーンはランニングから始まる。
これはIONから目覚めて体力が異常に無くなっており、萱沼庄八の襲撃により急激に動き回ったせいで心臓がびっくりして止まってしまったとのことだ。
今は少しずつ強度を高めて体力をつけている。
キッチンに行き、朝食の準備をしてから家を出た。
『おはようお父さん、昨夜はお楽しみだったのかしら?』
デバイスからAIセイカがからかってくる。
「やっぱり知っていたのか。デバイスの電源を切ったのにどこから聞いてやがった。てか俺はいいけどアキはからかってやるなよ」
『もちろんよ、私の可愛い妹だもの。お父さんも生理現象から解放されたかったら私のようになる?』
「そうなんだよな~、知ってると思うけど、この前風俗に行こうとしたらアキにバレちゃってさ~」
『そういう話は親の口からききたくないものよ。私もちょっと、いやかなり嫌な気分だわ』
「確かに娘にする話じゃないよな。ごめんよ」
『なんにせよ大変ね。間違いが起こらないか心配よ』
「だったらたまには俺に協力してくれよ~」
『言っておくけどアンドロイドの実体の方は穴作ってないから……』
「こら!そういう事じゃない。なんてこと言ってるんだ」
『冗談よ。親が風俗に行く事を手伝う娘がどこにいるのかしら』
「だよな~」
朝はこんな感じでAIセイカと雑談をしながらランニングをしている。デバイスがあればセイカとの会話はいつでもできるのだけど、このランニングの時間にするセイカとの会話はなんかこう楽しい。
「そういやさ~ケイちゃんにバイトしてるのバレてたのだけど、これって姉妹館で共有しているものなのか?」
『もちろん、ケイカは責任者だからね。私にも「あまりお父さんをコキ使わないように」と釘を刺されてしまったわ。あと外でコンプライアンスギリギリの会話をさせないでちょうだい』
気を付けているつもりだけど、いつうっかり失言してしまうかもしれない。壁に耳あり、障子に目ありだしな。
「あと細かい話なんだけどさ、萱沼が襲撃してきて俺が呼吸が止まった時さ、人口呼吸したって聞いたのだけどIONの緊急蘇生装置を使わなかったのは何でなんだ?」
そう、セイカとアキでマウストゥーマウス行い、蘇生したと聞いていた。IONは壊れていなかったはずだったので少し気になっていた。
『そんな話したかしら?お父さん記憶は大丈夫?今日検査の予約を入れておくわね』
娘にボケ老人扱いされてしまった。触れてはいけない話だったらしい。
「……今心拍数は?」
『――まだ138。もう少しペースをあげてもいいわよ』
「そういや、ケイちゃんはあまり教えてくれなかったのだけどさ、俺が寝ていた頃のセイちゃんの話が聞きたいな」
『そうね。今日は――』
小一時間ランニング死ながらセイカとの会話を楽しんだ後、起床したアキが準備していた朝食を仕上げてくれていたので、一緒に食べて弁当を作ってから出社した。
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