第8話 回想③
――只今、時間は18時過ぎ
俺は焦っていた。早くセイカの晩御飯を作りに行かなくてはいけない。
シャワーから出てきてビールを飲みながら頭の整理を進めていたら、思いのほか時間が経ってしまった。
慌てて出かける準備をしていたらアキに「ちゃんと髪を乾かしてから行け」と言われ、アキにドライヤーで髪のセットをされた。
アキに時間がないとも言えず、されるがままだったのだが本当に俺の娘は気立てのいい子だ。
きっと良い奥さんになれるだろう。
まあ、簡単に嫁にやったりする訳がない。世間一般のお父さんなら皆同じことを考えるだろう。
今はトランザムに乗り込んでセイカ(AI)に運転を任せている。俺はビールを飲みながら頭の整理の続きにふけ込んでいた。
あ、一応言っておくが、自動運転で俺が運転する事は無いので飲酒運転ではない。
その証拠にナンバープレートがブルーにカラーチェンジしている。
ナンバープレートのブルーカラーは【完全自動運転】の表示で、法律上このナンバーカラーの時は運転席に座ってはいけない為、助手席に一人で座りビールを飲んでいるのだ。
「セイちゃん。記憶の定着のトレーニングでさっきまで半年前からの事を思い出してたのだけど、俺がIONから目覚めた時に帰還者が来たよね。あいつを始末してから爆発があってそこからの記憶がないのだけどさ、何があったか詳細に教えてくれない?」
概要は把握しているのだけど詳細まで良く解っていない。生きてて良かった!ありがとう!ってくらいの感想だった。
そうお願いしたらトランザムのガラス全面にスモークがかかり、外への視界が消えた。
モニターを確認すると【シークレットモードON】と表示されている。もう音も外へ漏れない様になっているはずだ。
『わかったわ。ただ、ケイカとの話が入ってて、その一部はセキュリティレベルが高いから音声、映像ともに確認できないけどそれでもいい?』
「もちろん。悪いね、お願いするよ」
『じゃあ、お父さんが倒れたところからの動画があるから再生するわね』
。・゜・。。・゜・。。・゜・。。・゜・。・゜・。。・゜・。
お、映った。アキが傍で気を失った俺を抱きかかえている。
セイカも無事だったようだ。どこにも怪我していない。
『セイカ姉さん!おとーさん息してない!』
おお、俺死んだ。おつ!
って、まあそこは聞いていたし、俺は生きている。なんでも長い眠りから突然全力で身体を動かしたので、身体がびっくりして活動を辞めたそうだ。
『大丈夫よ、多分。そっちのベッドにお父さんを乗せてくれる?』
セイちゃんは落ち着いているようだ。お姉ちゃんらしい振る舞いでお父さん嬉しいよ。
『アキ、お父さんに人工呼吸と心臓マッサージできる?胸を圧迫するタイミングは私が言うから。あとヒールの魔法も併せてちょうだい』
アキは慌てふためいているようで手は震えて顔は青くなっている。大丈夫か?ちゃんとできる?
『いいわ。アキはヒールの魔法だけかけていて。私がやるわ』
震えているアキを見て、きっと出来ないだろうと判断したようだ。切り替えと行動が早い。
セイカは俺の首に手を添えて軌道を確保、迷いなくマウストゥーマウスで人工呼吸、同時に心臓マッサージを行っている。
それを見たアキは徐々に落ち着いてきたようだ。自分の頬を二度叩き渇を入れている。
『ごめんセイカ姉さん。変わるね』
セイカのお手本が良かったのだろう。アキは泣きながら同じ動きで蘇生措置を行っている。
俺の身体は淡い光に包まれているのが確認できた。おそらくヒールの魔法を受けているのだろう。千切られた俺の腕の出血が止まり、顔に赤みが差してきた。
一方セイカは俺を乗せている機械のベッドの操作をして俺の心拍数モニターを確認している。
『アキ、もう大丈夫。お父さん戻ってきたわよ。今からこちらで処置するからもう止めて大丈夫よ……アキ?』
アキは止まらず夢中で蘇生処置を続けてる。
『アキ!止めなさい!大丈夫だから!』
アキはハッと気が付いたようで俺から少しだけ離れた。
セイカは俺の口に酸素マスクを付けてベッドを操作して運ぼうとする。アキは自分が最後まで俺についていくアピールしてそのまま処置室まで同行していった。
アキは泣きながら俺に向かって何か言っているようだけどあまり聞き取れない。口の動きを読み取ると多分だが「せっかく会えたのにまだおかーさんのところには行かせないんだから」と言っているようだった。なんだか自分で見せろと言ってしまったけど、この辺は見てはいけないような気になった。
俺とアキを見送り、俺が始末したであろう、元勇者の肉塊を確認しようと動き出したところでケイカが現れた。動画はそこで暗転する。おそらくここは秘匿情報なのだろう。
。・゜・。。・゜・。。・゜・。。・゜・。・゜・。。・゜・。
『お父さん、動画はここで終わりよ。後二分三十秒で寮に到着するけどどうする?少し休む?』
いや、大丈夫だ。と言って握っていたビールの残りを一気に飲み切った。
自覚はあまりなかったが、少し額が汗ばんでいたことから多少は脳が疲弊していたのだと思う。
「さて、セイカにおいしいものつくってあげなきゃ。ありがとな」
AIセイカに礼を言って車から降りた。
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