第5話 うちの家庭事情②

 親子水入らず(?)でシャワーを浴びている二人――


 今は自分で洗った泡だらけの体をアキがシャワーで流してくれている。


 俺は実の娘に対して、努めて羞恥心を感じていない態度でいた。


 ボディソープの流し忘れの無いようにアキは丁寧に泡を流してくれている。


 シャワーの動きが止まったアキに違和感を覚え、俺は視線をたどる。


「んあ?――ああ、気にすんじゃねえぞ。男はハゲとデブと体毛の濃さくらいしか気にしないもんだ」


 まぁ、チン◯のサイズもと喉元まで出かかったが無事飲み込めた。


 何気にするでなく、俺はそう言った。


「でも、これはあたしがやったやつだから」


 ん?俺の下腹部を見て照れた流れじゃなかったのか?


 アキの視線を追うと俺の左腕に残る火傷の跡だ。


 過去、アキにローストビーフの焼き方を教え、肉の乗った調理用の鉄板をオーブンから取り出した際、アキが体勢を崩して頭から熱された油をかぶりそうになったので俺が庇ったところ、俺の左腕に熱された油がかかり、跡の残る火傷を負った。


「まあ、気にすることはないよ。男が気にするのはハゲ・デブ・口臭だ」


 変に気にされることは本意ではない。本当に火傷の跡なんて気にしていないのだから。


 沈黙が続き、居心地が悪くなったので俺は退散の意を込めて


「俺、先に出るからな」


 そう言って、ビシャビシャに濡れた髪をかき上げ浴場から出ようとする。


「んー。あたしまだ洗顔も終わってないの。お先どうぞ~」


「え?今まで何してたの?」


「……んー?おとーさんとイチャついてた」


 ニッコリ笑ってアキは言った。さっきの変な沈黙の時間は終わったようだ。よかった。


「イチャついてねーよ!気持ち悪い事言ってないで早く洗っちゃいなさい!」


 ――バタン!


 俺は浴室から出てバスタオルを取り、雑に体を拭いた。




 。:+* ゜ ゜゜ *+:。:+* ゜ 【アキ視点】゜゜ *+:。:+* ゜ ゜゜ *+:。



 おとーさんの身体を洗い終えたところで自分の身体が冷えてきたので、シャワーを浴びて温めている。


 先程の賑やかな雰囲気はなくシャワーの音だけだ。今自分はどんな表情をしているのだろうか……。


「ははっ……洗っているそばから汚れちゃなんの為のシャワーかわからないよね」


 顔が赤い。太ももから下腹部にかけて込み上がってくる熱は、シャワーの温水とは違うものだと確信している。


「あたしの頭はおかしいのかな。昔から何も変わっていないのに」


 自分に言い聞かせて無理やり気持ちを切り替え、あたしは洗顔の準備をする。



 あたしがおとーさんに対して父親だという認識が極端に薄い。


 彼に初めて会ったのは14歳の時、おかーさんに連れられて、彼が一人で切り盛りしているレストランで会った。


 その頃、おかーさんの年齢は三十台後半だったのに対して、おとーさんは二十台後半くらい?の見た目だった。


 聞けばおかーさんの七つ年上だと言った。実質アラフィフだったはずだが、おかーさんも驚いていたのを今も覚えている。


 当時のおとーさんは髪が長くてチャラかったこともあったかもしれないけど、明らかに年齢と見た目が一致しないこともあって、あたしが思春期まで思い描いた父親像は崩壊してしまった。


 そこから、おかーさんの病気の事もあってしばらくおとーさんと一緒に生活するようになり、おとーさんと関わりあう事で世間知らずなあたしの世界は何倍にも広がったのをよく覚えている。


 おとーさんはあたしの事を娘としてとても優しく、時にちょっぴり厳しく接してくれた。


 すごく、ものすごくかけがえのない甘酸っぱい日々。


 ただ、あたしはおとーさんのことを知れば知るほど男として惹かれていくことになるのだ。


 思春期だったこともあったかもしれない。


 おとーさんから漂う大人の色気があったからかもしれない。


 でもあたしは自分の気持ちを優先していた。


 おかーさんに気付かれても気持ちを変えることはしなかった。


 そうしてあたしの気持ちが変わらないまま、おとーさんは居なくなってしまった。



 。:+* ゜ ゜゜ *+:。:+* ゜ ゜゜ *+:。:+* ゜ ゜゜ *+:。



 《アツシ視点》


 先にシャワーから出た俺は台所の冷蔵庫から缶ビールを取り出し、一気に半分くらいまで煽り、ビール缶を眺めながら最近自分に起こったもろもろについて考えていた。


(目覚めてからもう半年か。徐々に夢物語のような現実を受け入れてしまっている自分がいるな)


 そう、半年前に聞かされた。俺達家族全員加齢しないことを。


 なんだ、家族全員で人魚の肉でも間違って食ったのか?と疑いたくもあるけど原因はよく解っていないそうだ。


 ただ、不老であっても不死ではないらしく。病気や怪我で死ぬ事はできるのでその辺はよくある空想物語とは違うようだ。


 しかも俺はその不老をいいことに五十年も寝ていたそうだ。


 冬眠というにはあまりにも長く、あまりにも荒唐無稽な話だ。


 まずはその辺の記憶から再整理してみよう。



 一人で過ごす時には絶対飲めと言われた薬を棚から取り出し、指定の分量のカプセルをビールと一緒に喉へ流した。セイカが処方してくれたのでおそらく精神薬の一種だろう。


 今はアキが一緒に居てくれているけど、念のため飲んでおいたほうが良いように思えた。


 この薬を飲むと思考力は低下するが、効果がある間は過去のフラッシュバックが起こったりしないので手放せない。



 さてさて……

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