第2話 勇者死す
《オギツキ視点》
――ここであなたの人生も終わっていただきます。
月明かりを気にしながら位置取りをしたつもりだが音葉も聞こえたので、きっと勇者には我々が見えているのだろう。
仲間に視線を送る。先程俺に向かって帰還者が気持ち悪いと言った事でツボって吹き出した奴が一人いるが、攻撃態勢は崩れていない。
いつも通り勇者帰還後、問答無用で一度殺した。ただ、今回も復活の魔法がかかっているようで肉体の再生が始まってしまった。イレギュラーと言いにくい頻度で起こっているのだが、皆、冷静に対応できている。
「国連?僕を始末するということだよな。なぜだ?」
勇者はそう言いながらも眼球が動いている。状況の対処について組み立てを始めているかもしれない。
もうすぐ肉体の再生は終わる。厄介なことに再生が終わらない限り、攻撃してもまた再生してしまうので一度再生が完了してからもう一度殺さなくてはならない。
「本来なら貴方と会話すればするほど、私の仕事に差し障りがあるのですが、様式美として悪役らしく、また貴方が死ぬ理由としてお話いたしましょう。とても当たり前でつまらない話ですよ?」
勇者は無言でと見つめると、オギツキは一拍置き、話し出す。
「まず現実世界に帰還した勇者も選ばれた人間も貴方だけではないのです。同じく異世界から帰還する勇者は後を絶ちません。だから私のような者の仕事があるのですが。そして特別な力を有した貴方達はこちらでは害悪としかなりえない。言わなくてもわかりますよね。今の貴方達は脅威でしかない。一般人に核ミサイルの発射ボタンは持たせられないということです」
至極真当な話である。人類が管理できない武力はただの脅威でしかない。当然軍事利用となりえる為、他国からの監視も厳しい。
「重ねて言っておきますが、ここを逃げ仰せても世界は貴方を受け入れません。ここで死んだ方がきっと幸せなのです」
自虐的なセリフに言葉を詰まらせそうになったが、戦闘態勢に入る。
「ああ、そうか。異世界に行く前から思ってたがやっぱり現実世界はクソゲーだよなっ!」
〔目前の敵を切り開け!風よ!〕
捨て台詞とともに魔術詠唱をして、勇者が手を払う。手から風の刃が襲ってきたが、俺は床いっぱいに這って回避する。背後の壁と窓を吹き飛ばした。
「!!」
魔術を使う際に光学迷彩の装備を使い、姿を消した。顔を含め、全身が黒いのは光学迷彩を使用するための装備だからだ。
本来なら帰還者は一撃を放った後、物理防御の魔法で身を守りながら二階の窓から飛び出し逃亡する予定だったようが、魔術詠唱と共に仲間が銃で足を負傷させていた。
帰還者は視界から消えた我々の所在を確かめるように気配感知に意識を切り替えている。
「くっ!」
帰還者の意識が魔術に移ったその隙をつかれ、室内で攻撃態勢を取っていた。天井、正面から自動小銃で銃撃される。
だがすでに防御魔術を発動させており、勇者の周りの視界に靄のような空気のゆがみが生じていた。その靄に弾丸は阻まれて、空中で静止している。
そして帰還者の反撃は……なかった。
帰還者は床から生えた氷の槍で頭まで串刺しになって血を流しながら小刻みに痙攣している。
帰還者が使った靄のかかった空気のバリアは半月状に展開されており、床下からの攻撃には文字通り無防備だったようだ。
防御魔術の抜け道を理解してる攻撃だ。
「この手の防御魔術って床下まで防御できていないのは、お約束なのでしょうか?」
横にいた仲間のしまこが呟く。
帰還者の頭から生えている槍は、ケツから脳まで貫通しているため、体は痙攣しているが意識はない。絶命するのも時間の問題かと思われた…が、勇者の体から青白い光が包んでいる。噴き出した血が止まっているところを見ると、無意識でヒールの魔法を使っているのだと思われた。ただ、アキの話が正しければこの肉塊は腐っていくはずだ。
「音葉を使っていないのにヒールが使えるのか……?」
まだまだ異世界帰還者の能力について明らかになっていないことは多い。前例はないが、もしかしたら、もう一回再生するのかもしれない。
決して油断はできない。様子を見つつ、帰還者の心臓に銃口を当て、引き金を引いた。
一発、二発、三発。
青白い光が消えるまで何発も打ち込む。
弾丸は何の抵抗もなく、帰還者の体を破壊していく。血と肉が弾け飛ぶ。
やがて光が消え、帰還者の命も消えていく。
そして串刺しになった彼の眼球を確認、死亡したようだ。
――勇者アライコウジの冒険はここで終えた。
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