王都の駆け出し冒険者
第4話 人か魔物か
「うおおおおおおおっ!!!!やばいやばいやばい!!!」
お父さん、お母さん、いかがお過ごしでしょうか。
あなたたちの息子は異世界で地下暮らしを脱出し、街を目指して旅を続けています。
長い間会わずにいると、心配する声がここまで聞こえる気がしますが、私は元気に走り回っています。
サイクロプスに追いかけられながら。
ばきばきばき!どがあぁん!
「ちょいちょいちょい!木を倒しながら来ないで!環境破壊は良くないって!」
こうなってる理由をざっくり話すと、街探しに効率がいいと思い、いつも通り翼で飛ぶ練習をしていたら、寝てるサイクロプスの腹に墜落したって話。
「ごがあぁ!!!」
やばい、めっちゃキレてる!
この魔物だらけの森で、隠れずに堂々と寝れるやつなんて、絶対強いに決まってる!
そんなやつと戦ってられるか!
俺は全速力で走って逃げるが、徐々に距離を詰められる。
どこに逃げれば・・・仕方ない。安定はしないが、空に行くしかないだろう。
俺は全力で翼に力を集中させ、翼をバタつかせる。
「がああああ!」
俺に追いついたサイクロプスがその強靭な腕を振りかぶる瞬前、俺の体が浮き上がり、勢いよく空中に射出される!
なんとか、追いつかれるのは阻止できた。
この高度なら、流石のサイクロプスも攻撃できまい。
けど、飛んだからといって、安心はできないのだ。
問題はこの後、俺は安定して飛び続けることが出来ない。
ぐらっ。
やばい、落ちる落ちる!俺は慌てて態勢を立て直す。
このまま落ちたらサイクロプスの餌食。絶対に落ちられない。
そうすると、下でサイクロプスがなにやら動き始めていた。
おもむろに近くの木を引き抜き、精一杯の力を込めて、
「おい!まさか!嘘だろ!」
ビュン! ビュン!
立て続けに巨木が俺に向かって投げ出された。
「おいおいおいおい!勘弁してくれ!悪かったって!謝るから!」
そうは言っても、向こうは話を聞いてくれない。必死に体をねじり、すんでのところで躱していく。
―――しばらく逃げ続けていると、向こうも疲れたのか、面白くなさそうに帰って行った。
やっと終わった・・・てか、あれ?
見ると、体はブレ一つなく森の上空に留まっている。
もしかして、俺飛べてる?
おお、なんか実感湧かねえけど、やっと成功した!
練習しても上手くいかなかったが、やっぱり人間ってのは、追い込まれてできるようになるのかもな。
まあ、今の俺人間じゃねえけど。
飛ぶことが出来たなら、街探しするか。
避けるために下を向いていた俺は、顔を上げる。
するとそこには、綺麗な月明かりと満天の星空が映しだされていた。
「すげえ。」
つい、ポツリと声が漏れだす。それと同時に涙が溢れ出た。
こんな何でもない景色に泣くなんて、訳の分からない異世界に一人で来た弊害かな。
涙もろくなった気がする。
こんなに綺麗な景色が見れるなら、こんな世界も好きになれそうだ。
零れる涙を拭う。
すると、開けた視界の先に何かを見つける。
あったのは、月明かりとは違う、遠くにぼんやりと映る人工的な明かり。
これは間違いない。
「街だ!」
まさかこんな近くにあるとは、幸先いいんじゃないか。
だが、人間の街に行くんだ。吸血鬼の俺が行っても入れない可能性が高い。
とりあえず街の近くまで行って偵察。その後、中に入る方法を考えよう。
考えをまとめ、俺が街に飛ぼうとした瞬間。後ろから風切り音が聞こえる。
振り返ると、俺の数倍はでかい怪鳥が、群れを成して俺のいる方へと向かってくる!
「うわあああ!!やっぱりこの世界は嫌いだ!!!」
精一杯身をよじるが、為す術なくクチバシで体を貫かれ、俺はこの世界で何回目かの死を迎えた。
△▼△▼△▼
また死んだのか。
森を彷徨うようになってからも、多くの死を経験し、いまや死ぬことに慣れてしまった。
死と隣り合わせのこの状況と、死に慣れはじめた自分に嫌気がさす。
早く街に行って安全を確保しなければ。
人間の街だろうし、バレたら街も安全ではないだろうが、この見た目なら、翼を隠せるならバレないと踏んでいる。
「少なくとも、この森よりかは安心できるだろ。」
―――そうして俺は、見つけた街の近くまで降り立つ。
長い時間をかけ、隠れながら街の周りを一周したが、侵入できそうな場所はなかった。
街は、高い壁が周囲を覆っており、特定の場所に門が存在する構造だ。
そこには当然、門番らしき鎧を纏った人がいた。
どうやら吸血鬼の街とかでもないようだ。
さて、どうしたものか。
入るには上から飛んで行けなくもないが、そんな目立つことをしたら一発で撃ち落とされる。
どうせ、空を見張る係の人だっているだろう。
そうなると、一番正規の方法で行くべきだろう。
街での生活を考えると侵入するより安心できる。
ただそのためには門番の人に俺が吸血鬼だとバレないようにしなくては。
俺は森で貯めていたポイントを使い、かねてより考えていた2つのスキルを入手した。
「『擬態Lv1』を獲得しました」
「『偽装Lv1』を獲得しました」
『擬態』:スキル所持者の体の部位を変形可能になる。レベルによって変形可能範囲が変化する
『偽装』:スキル所持者にスキル『鑑定』を使用された際、相手に偽の情報を見せることが可能になる。ただし、相手の『鑑定』レベルが、所持者の『偽装』よりも高い場合、このスキルは効果をなさない。
『鑑定』;スキル所持者が使用した際、視界に映る生物が持つスキルを表示する。
『擬態』は翼を隠すようだ。早速使用してみると、先程まであった翼がものの見事に・・・
いや、ちょっと残ってるな。
どれだけ頑張っても、翼が無くなるように変形はできない。
レベル1じゃこれが限界か。
ただ、服の下に翼を仕舞えば、バレないよな?
そして、『偽装』。これは一応保険のために取っておいた。
と言っても、取得ポイントは地下のゴブリン全員分よりも多いけど。
なぜこれを取ったのかというと、スキル一覧に『鑑定』というものがあり、それは相手のス
キルが分かるらしい。
これほどまでに、門番向けなスキルはそうそうないだろう。
恐らく『鑑定』を持つ門番に、『不死』と『血操術』を持つ俺はあまりにも怪しすぎる。
この二つは吸血鬼専用だと考えられるしな。
何せ、どちらも“スキル一覧にない“のだから。
そのため、『不死』と『血操術』、それと『偽装』を隠して向かうことにしよう。
門番が『鑑定Lv2』を持っていたら『偽装』は無意味だが、『鑑定Lv2』にはレベル1と合わせて1万5000ポイント必要だ。
持っていないと信じたい。
正直運任せなところは大きいが、この森から早く抜け出したい。
後は、夜に少女が一人で来る設定を考えて演技しないとな。
俺は準備を整えると、門に向かって歩みを進めた。
△▼△▼△▼
はあ、今日も疲れたな。最近疲れが溜まりやすくなった気がする。
俺も歳かね。
しがない中年門番の俺は、すっかり暗くなった空を見上げ、自身の倦怠感に思いを馳せる。
そろそろ夜勤の人と交替する時間だな。今日は娘と話せそうで良かった。
すると、門に向かって歩いてくる人影を一つ見つける。
夜は魔物に襲われる可能性が高く、森を抜けて王都まで来る人はなかなかいない。
しかし、護衛付きならまだしも、一人でここまで?
人影をよく見ると、年端もいかない少女だった。
見たところ、少し汚れているが、立派な服を着ている。
すると、その子は俺に近づき、声をかけてきた。
「あ・・・え、えと。私、その・・・」
どうやら、ひどく緊張しているらしい。
恐らく、門を通りたいのだろう。まずはこの子の素性を調べるとしよう。
『鑑定Lv1』発動。
所持スキルは、『身体強化Lv2』、『無音歩法』、『痛覚耐性Lv1』、『再生Lv2』。
このスキルラインナップはなんだ?拷問でも受けていたところを逃げ出してきたのか?
スキル的にも学校には行ってないようだし、訳アリだな。
俺は、目の前の少女に門番の決まり文句を投げかける。
「すいません。ここを通るには身分証が必要となりますが、お持ちでしょうか?」
そうすると、目の前の少女は引きつった表情で、首を横に振る。
そりゃそうだよな。見たところお金もなさそうだし、そうなると・・・
この国の入国には、ざっと三種類の方法がある。
一つが各国共通の身分証を提示すること。
二つ目がお金を払い、魔力を記録すること。
魔力には、各々指紋のように違いがあり、それを管理させてもらえるならば、入ることが可能だ。
そして、三つ目は門番や騎士団などにしか口外されていない方法。
それは、お金を払わず魔力を記録するが、本人には内緒で期限付きの監視をつけること。
道端で倒れそうな人を国で保護するという、王様の優しさからこのような甘い制度が出来たらしい。
「お嬢さん。それでは、魔力測定する場所までお連れしますね。私の後を付いて来てください。」
私が笑顔でそういうと、少女は無言でコクリと頷き、私の後をてくてくと付いて来る。
娘と変わらない年代の少女に思わず癒されてしまう。
今まで辛かっただろうが、この王都で目一杯生きて欲しいな。
でもこの娘、働き口が無いのでは?
不安になり、測定場所までの道中に尋ねてみる。
「そういやお嬢さん。働くアテはあるのですか?」
そうすると、少女は失念していたと、顔にでかでかと書いて慌てていた。
分かりやすい娘だ。ただまずいな、そうなると職種が大方二つに絞られる。
「厳しい話ですが、この国に戸籍が無い人は、身分証は取れません。
そして、身分証がなくてもできる仕事は、遊女か冒険者ぐらいです。」
正直どちらもこの娘に薦めたくはない。
しかし、これは一介の門番である俺に、どうこうできる問題ではないのだ。
すると、現状をまだ飲み込めていないという顔だが、少女は口を開いた。
「冒険者って何ですか?」
本当にどこで生まれ育ったのか気になったが、俺は丁寧に応答する。
「冒険者とは、周囲の人々が出す依頼をこなす何でも屋みたいなものです。しかし、仕事の実態は、命がけで魔物を倒す日雇い労働者。もちろん、薬草探しや街の清掃といった雑務もありますが、基本的に危険な仕事には間違いないでしょう。」
一部、 冒険者として成功したものは国お抱えのものになったりと、稼ぎも良い。
しかし、俺も副業で冒険者をやっているから分かる。
成功者たちの下には、何万、何十万の屍が転がっているのだ。
「あ、あの・・・。」
少女が恐怖を滲ませた顔で話しかけてくる。
流石に怖いよな。命あっての人生だ。
そうなるとこの娘には、遊女になるくらいしか方法はない。
すると、少女は表情とは裏腹に、決意を固めた目で俺の方を見つめ、
「私、冒険者になります!」
そんなことを俺に宣言する。
この娘が考えた末の結論なら、俺は反対できなかった。
『身体強化Lv2』もこの娘にはある。最低限は戦えるだろう。
「・・・そうですか。それなら、王都ヘモグロイにようこそ。ここは良い街です。存分に旅の疲れを癒して、冒険者の仕事、頑張ってください!」
この時初めて、少女の不安げな顔が綻んだ気がした。
△▼△▼△▼
少女を送り出し門に帰ると、後輩が話しかけてきた。
「先輩、あの女の子通しちゃっていいんですか?夜一人で来て、服までなんか変だし、人に『擬態』して殺してくる魔物だっているんですよ。」
普段はだらしないくせに疑い深いやつだ。門番向きではあるが、あの娘が魔物だと思うとは。
門番なのに門の仕組みを知らないらしい。
「あの娘の素性は確かに分からんが、そこはこの国の規則通りにするから大丈夫さ。それに、あの娘は魔物じゃないぞ。」
「なんでそんなことが言えるんですか?」
「門の上を見ろ。」
そうして俺は、門の天井に張り付いた拳大の黒い物体を指さす。
「あれは人か魔物かを判断する古代遺物だ。あれがあるから、俺たちは人間だけに集中しときゃいいんだよ。」
「上のやつ気になってましたけど、そんな効果があったんですね。」
「お前も門番の端くれなら知っとけ。なんでも、先々代の国王様がつけてくれたんだと。こいつは俺が新人の時、魔物を違法取引する輩の侵入を食い止めた実績もある。結構優秀だよ。」
そう聞くと、後輩が訝しげに聞いてくる。
「それ20年前とかでしょ?本当に大丈夫ですか?」
「確かに長いこと機能してるが、古代遺物だぞ?そう簡単に壊れんだろ。」
「確かに、神話の時代の物なら大丈夫ですね。」
それにあの丁寧な言葉遣い、流石にあの娘を魔物とは思えない。
「話変わるんですけど、先輩この前欲しがってた『鑑定Lv2』まで、後何ポイントになりました?」
「あと大体5000ポイントだ。ようやく半分ってとこだな。でも、このスキルがあれば昇給だし、頑張らなきゃな。」
門番は薄給だし、昇給して娘と女房に良い暮らしをさせてやりたいものだ。
そのために、今週末も冒険者の仕事でお金とポイント稼ぎに勤しむとするかな。
「『鑑定』は門番の生命線ですしね~。俺はいけそうならやってみます。」
「俺たちに1万はきついぞ。やるなら徹底的にだ。」
「じゃあ、やめときま~す。」
「全く、これだから最近の若造は。俺はあの娘の書類を書かなきゃならんから、少し残るよ。」
「了解です。それじゃあ自分は先に失礼します。」
「あいよ。気をつけてな。」
結局今夜は遅くなりそうだな。
でも、あの娘の人生の手伝いが出来たなら安いものだ。
そうして俺は、晴れ晴れとした気持ちで書類仕事に向かった。
△▼△▼△▼
銀髪の少女?が道端を疲れた表情で歩いている。
あ~緊張した。
最初は門番の人に、「私は親に森で捨てられて、命からがら森から抜け出して来たんです!」なんて、名演技をかましてやろうと思ったら、人との会話が久しぶりすぎて喋ることすらままならなかった。
でも、なんとかなって本当に良かった。
ただ、身体検査もせず、『鑑定』されたかも不明だし、
意外とあっさりと通れて、肩透かしを食らった気分だ。
ただ、身分証も金もないのに通してくれるのはありがたかった。
門番の人が良い人だったし、温情で入れてくれたのかもな。
ただ、その後にあった魔力測定。
測定できないとかで魔物だとバレると思ったが、結果は何も問題なし。
今は解放され、働くことに決めた冒険者を目指し、冒険者協会に向かっている。
「確か、門番の人が言ってたのはこの通りの右手の・・・」
見ると、外は暗いにも関わらず、騒ぎ声の聞こえる店が見えた。
絶対ここだ。
門番の人の、良く目立つから大丈夫とはこういうことか。
はぁ、なんで街に来てまで危険なことをしなくちゃいけないんだ。
まあ、身分証も何もない、正体不明のやつが働ける場所なんてここぐらいしかないらしいし・・・
もう一つの遊女は、シンプルに嫌なのもあるが、自分の翼と無性別から、吸血鬼だとバレるから却下だ。
森の段階でどうこう出来た問題ではないが、働くことをちゃんと考えておくべきだった。
街探しと侵入に意識が向いて、入った後のことを具体的に考えていなかったのは反省だ。
そうして俺は、暖かい木製ドア奥の騒がしい世界、そして2度目の”人”生へと歩みを進めた。
「スキル『不死』が発動しました」 焼畑営業 @tndask
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。「スキル『不死』が発動しました」の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます