第2話 地下からの脱出

“スキル”


俺が前にいた世界では、入手が不可能な技能。例えば俺自身が使っていた『不死』だ。スキルはゴブリンなどの敵を倒すことで手に入る“スキルポイント”を使って獲得出来る。


ゴブリンと文字通りの死闘を終えて起きた俺は、まずスキルを知ろうとした。そうすると自動的に、所持スキルが頭に浮かぶ。


『不死』、『血操術』、『再生Lv1』


それぞれのスキルを確認すると、


『不死』:スキル所持者の死亡時、所持者本人や所持者周辺の魔力を消費し、一定期間現世に魂を留める

『血操術』:スキル所持者の血液を操作する能力。魔力を込めることで血液の形状や性質を変化することが可能

『再生Lv1』:スキル所持者の体が欠損した際、所持者本人の魔力を使用し、元の形状まで再生する。レベルによって再生速度が変化する。


スキルポイントは、スキルの獲得以外に『再生』などのスキルのレベルを上げるのにも使用される。ゲームをある程度していた俺は、すんなりこのシステムを受け入れることが出来た。


だが俺は最初のゴブリンで2ポイント手に入れたが、好きなスキルを2つ獲得出来るわけでは無い。頭にスキル一覧が浮かび、その情報によるとスキル毎に使用ポイントが違うのだ。例えば空間魔法なんかは、Lv1で1万ポイントもいる。


そんな中、最初に俺が獲得したスキルは『無音歩法』。言い換えると、足音を消す魔法だ。しょぼいが、これで敵に会わずに背後をとる確率が上がる。


それ以降は同じく、孤立しているゴブリンを倒しながら、地下を探索していた。その後何個かスキルを手に入れ、俺も順調に人外の道を歩んでいる。



          △▼△▼△▼



俺がこの世界に来てから大体1ヶ月が経過した。現在の俺の目的は地上に出ること。理由の1つが、人と話したいからだ。


単純にこの世界のことについて知りたいのと、流石に1ヶ月誰とも話さず殺し合いは精神が参る。寂しすぎて、貴重なスキルポイントを『翻訳』に使いゴブリンとの会話を試みたほどだ。結果は失敗。ゴブリンはガウガウ吠えるだけで、地球の動物と変わらないことだけ分かった。


俺の100ポイントが無駄に・・・


こんなことなら、2階の敵用にポイントを割り振るべきだったと後悔するが、将来人間に会う時の投資だと思って前を向く。俺は吸血鬼なのだ。喋れなかったら、会った瞬間殺されるかもしれない。ポジティブでないと地下暮らしはやっていけないのだ。


そして、1ヶ月いると大体この地下の構造が分かってくる。ここの地下は2階層だが、1階がかなり広く、最近ようやく全体を探索できた。


最初、俺がいた地下1階?はゴブリンがいる場所だ。ゴブリンは孤立している方が稀で、基本群れで行動している。ゴブリンの中には、バカなやつもいたりした。


この前は3匹で、互いに裸踊りをしている場面に居合わせた。目と目が合った瞬間襲い掛かってきたが、ゴブリンの殺意が普段より高かった気がする。


そして下に降りて地下2階。この階は敵が一匹しかいないが、以前会ったときはそいつになすすべなく殺された。そいつの特徴は、尻尾が2本あるネコで、いわゆる猫又みたいなやつ。2階はそいつが1匹だけいる気味の悪い空間だ。


そして、2階と1階の両方に仰々しい扉がある。1階は押してもびくともせず、2階は猫又が扉の前に縄張りを作っている状態。そのため、扉の奥は確認できていない。


俺は2階の扉を開ければ1階の扉に繋がって出られると、希望的観測を行っている。なんにせよ、確認のために猫又は倒したい。


そして、そいつを倒す作戦はもう練ってある。方法としては、何回も挑んでダメージを与えるというものだ。俺には『不死』と、ポイントで上げた『再生Lv2』がある。どうしても扉を通したくないのか、猫又が扉の前から動いたことはこの1ヶ月ない。この習性を利用して、ヒットアンドアウェイで倒す作戦だ。


そして、『不死』と『再生』の魔力消費を賄うため、ゴブリンたちを使わせてもらう。ゴブリンの血を飲めば魔力が回復するのが感覚として分かる。そのため、まだ生きている10匹ほどのゴブリンを俺の『血操術』で拘束し、全員から少しずつ血を吸うのだ。


少しずつ吸う意味はゴブリンが死なないため。ネコを倒した後にゴブリンがいなければ、扉の中次第で餓死もあり得る。入念に準備しなければ。


ゴブリンは拘束中はご飯が食えないからいずれ死ぬのでは?と思うかもしれないが、ゴブリンは栄養補給する素振りがない。元々こんな地下にまともな食料はないし、そんなやつしか生き残れないのだろう。


今の俺はその作戦を決行するため、ゴブリンの群れが住む部屋を訪れていた。

見張り役のゴブリンを『血操術』でぐるぐる巻きにし、俺はくり抜かれた壁で出来た部屋に歩みを進める。


部屋を覗くと10体ほどのゴブリンと奥に・・・尻尾が2本生えた大きな黒ネコがふんぞり返っていた。こいつは、2階にいた猫又!なぜここに!?

俺は反射的にそいつを拘束しようと、血を操る!


しかし、軽やかな身のこなしで俺の攻撃を避けた猫又と同時に、10体のゴブリンが俺に向かって襲い掛かって来た。


「「「がぁ!」」」


正直ゴブリンは大丈夫だが、奥のあいつがやばい!扉にいるんじゃないのか!?ゴブリンを拘束している間にあいつが何もしてこないとは思えない!俺は一旦戦闘を回避しようと後ろに逃げる。その瞬間、以前俺を殺した攻撃が放たれる!


ずうううん!


体と地面が平行になり押し潰される。『重力魔法』、指定した範囲の重力を上げる攻撃だ。あまりの衝撃に骨がメリメリと潰れる感覚が襲う。『痛覚耐性Lv1』が無ければ、痛みで気絶していたかもしれない。


だが俺も以前とは違う!『身体強化Lv1』を発動して、魔法範囲内から必死の逃走。横を見ると、ゴブリンは完全に押し潰されて死んでいた。クソ!これじゃまずい!だが、今は一旦逃げるしか。


「しゃあぁぁ!」


逃がすまいと俺の後を追い、猫又は少しずつ距離を詰めて来る。やっぱり速い!ようやくゴブリンより速く動けるようになったのに、この世界は化け物しかいないのか!


このままでは追いつかれる!そう考えた俺は猫又のいる方に向き、『血操術』で格子状に通路を塞ぐ。足止めに使えるし、強引に突破しようにも、皮膚が切れてしまう。これで時間稼ぎをして逃げ切ってや・・・


ゴブリンにしかこの技を使っていなかったため忘れていた。相手は地球のネコに近い生き物だ。俺の時間稼ぎを容易く潜り抜け、その鋭利な爪が眼前に迫る!


「ちっ!なめんな!」


俺はその攻撃をゴブリンから奪ったナイフで防ぎ、ガキン!という音が地下に響き渡る。そのまま間髪入れずに、もう片方の腕で2本目のナイフを振るい、敵の頭を攻撃する。が、すんでのところで回避され、右足の爪を切り落とすにとどまった。


だが、いける!俺はそう思った。以前は相手にならず殺されたが、今回は違う。ゴブリンもこいつのせいでいなくなったし、今日のご飯はお前に決めてやる!


人間でなくなった俺の考えを他所に、猫又は両足で掴みかかるように襲って来る!俺は先程と同じようにカウンターで倒すと決め、爪のない右足は防御しないことした。食らっても大したダメージにならないなら、『再生』と『痛覚耐性』でどうにでもなる!


そして左足の攻撃を防ぎ、同じく頭を攻撃しようとしたその時、


グサッ!


体のどこかで何かが刺さったような感覚がして俺は動きを止めてしまう。猫又は既に俺から距離を取っていた。しばらくして、俺はひどい嘔吐感に襲われ大量に吐血する。腹の中身が出たようだ。ドンドンドンドン・・・心臓がひどくうるさい。


なんだこれは!?もしかして毒なのか?クソ、やられた!よく見ると、右足の肉球から1本爪が伸びている。あれに毒があるようだ。すると、突然重力魔法が展開される!


ずうううん!


体が重くなり、立っていられなくなる。『身体強化』のおかげで片膝立ちで済んでいるが、毒で上手く動けない。恐らくこいつは本来、この戦い方で相手を追い詰めるんだ。重力で動けなくし、毒でジワジワ殺す。


考えろ!少しぐらいならまだ動ける。早くしないと本当に詰むぞ!『不死』は魔力を消費して死なない能力だが、『身体強化』と『血操術』で魔力を使っている俺の体で生き返るか分からない!


その時、なぜ猫又が戦いの最中に『重力魔法』を使わなかったのかが気になった。俺が逃げてる間やナイフで応戦した時に使っていれば、俺は上手く動けずやられていた可能性が高い。

・・・そうか!俺は全身全霊で猫又に向かって駆けだした。


当然、速度は遅い。俺は毒と重力魔法を貰い、動きの鈍い脅威なしの吸血鬼。猫又としては、近づかれたらお得意の爪で攻撃すれば良いだろう。だが、猫又は大きく後ろに下がり、俺から距離を取ろうとする。


「やっぱりそうか!『重力魔法』はお前も対象内なんだな!?」


『重力魔法』:指定した範囲内の重力を高める魔法。

“範囲内にスキル所持者がいた場合、所持者本人も影響を受ける”


俺が逃げる時にゴブリンを巻き込んだことから、範囲を狭めることも出来ないらしい。なら鬼ごっこしてる間と、近接攻撃を仕掛けた時に使わなかったことが説明できる!


猫又としては、『重力魔法』で俺を押さえ付けていれば安全に勝てるため、逃げの一手を繰り出す。逃がすか!俺はもう一度手首を切り、『血操術』で猫又の奥に格子状の壁を作る。相手がこれを潜り抜けるのは重々承知だ。俺の狙いは足止めじゃない!


「やっぱそこに逃げるよな!」


俺は壁の左下だけ、格子の密度を甘くする。その分他をキツくすることで退路を限定させた。


その場所目掛けて全身全霊でナイフを投げる。重力の影響が気になったが、『身体強化』のおかげで真っすぐ飛んでいく!


びゅう!


ナイフが風を切りながら、飛んでいく。問題はあいつの逃げ足に追いつくかどうかだ!猫又の足が壁に差し掛かる。まずい!後少しで壁を潜り抜ける!このままじゃ間に合わない!


ぐぎゅるるる~


突如俺の腹の音が盛大に鳴り、予想外の出来事に猫又は一瞬足を止めてしまう。その隙にナイフが貫く!


ぐしゃああぁぁぁ!


「スキルポイントを38獲得しました」


腹の辺りまで貫かれ、猫又は死亡した。腹の音は毒で吐いたのと、『血操術』で体内の血が無くなっていたせいみたいだ。あまりの馬鹿馬鹿しい結末に少し苦笑してしまった。


だがようやく『重力魔法』が切れて、俺は猫又の血を飲み干した。毒が回っているため吐きそうだったが、『不死』を発動するために少しでも魔力を回復させておかなければ。てか、毒は死んでも残り続けるのかよ。厄介極まりないな。


毒をもらってからそこそこ時間が経ち、そろそろまずい。毒が全身を回って動けなくなった。これからの食料はどうしようかなと考えていたところで、またしても世界が崩れ、暗転していく。



          △▼△▼△▼



黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒

―全てが黒に染まった世界―


「生きて。あなたは私の・・・だから。」


純白の女性が、私の耳元にそっと囁いた。



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