49(2024.11.18)
「それじゃあ、お留守番よろしくね。サム」そう言って、お母さんは買い物へ出かけました。
家の中にはサム一人だけ。怒られる心配のない、自由の身です。
さあ、何をして遊ぼうか。
サムはおもちゃ箱をひっくり返しました。沢山のおもちゃがやかましく音を立てて床に散らばります。どれも自慢のお宝です。
そこからドミノの入ったケースをひとつ、手に取りました。ピアノの鍵盤みたいに四角くて滑らかなドミノです。
ケースを開けて、さっそくドミノを床に並べ始めるサム。うっかり倒さぬよう、細心の注意を払いながら。三十個ほど並べ、さあ次のドミノを置こうとしたところ、何かが進路を阻むかたちで割り込んできました。それは、小指の第一関節ほどの背丈しかない小人でした。
小人は言いました。「その家に住まわせていただけませんか」
これは倒すために並べているんだよ。やんわり断るサムですが、小人は食い下がります。「構いません。束の間でも雨風をしのげればよいのです」
ならいいけど。サムはしぶしぶ許可しました。でも、倒すときはちゃんと出て行ってね。
「もちろんです。ありがとうございます」小人は一礼して、ドミノの中へと消えました。
小人が住んだ『家』は、照明でも点けたのでしょうか、内側からぼんやり光っています。耳を澄ませばテレビの音声すら聞こえてきます。
黙々と作業を続けるサム。ふう、と一息ついて、何気なく辺りを見渡すと、おやおや、ここまで並べたすべてのドミノが光っているではありませんか。それぞれの『家』からは、異なるテレビ番組の音、異なる楽器を練習する音、異なる言語での喋り声、異なる動物の鳴き声、その他のあらゆる雑音が漏れており、やかましい限りです。
サムは三十一件目の『家』を探し出すと、ベルを何度も鳴らしました。
「いったい何の用ですか」出てきた住人は、しかし最初に遭遇したあの小人ではありませんでした。「前の住人ですか? あの人、この一帯の管理人ですよ。格安で貸してくれるので最近評判なんです。今はほら、そこの豪邸に住んでいるらしいです」
賃貸にした覚えはない、出て行ってくれ。有無を言わせぬ気迫で迫るサムでしたが、
「あなたにそんな権利はないですよ。ほら、賃貸契約書もちゃんとあるんですから。あまりしつこいと警察を呼びますよ」唸り声が聞こえて振り返ると、頭部がベーコンピザの警官が二人いて、警棒ならぬ麺棒を片手に建物の影からこちらを監視していました。
引き返すも、怒りが収まらないサム。不意に、ある企みが浮かびました。ほくそ笑み。
次の日、サムは何事もなかったようにドミノ並べを再開しました。新たな『家』が建つたび、新たな小人がこそこそ侵入しました。その次も、そのまた次の日も同様でした。
ついに、ケースの中のドミノをすべて並べ終えました。最初の『家』の前までやってきたサム。立ち退き勧告もなしに、人差し指で『家』を倒しました。数多の悲鳴と怒号を巻き込んで『家』は次々に倒れ、川の流れのようにうねうねと蛇行して進みました。水流が向かう果てには、一軒の豪邸。最後に倒れた『家』がそこの門扉に衝突、見事に破壊しました。
「何事だ」純白のバスローブを着た例の小人が、咥えた葉巻を落っことしながら外に出てきたと同時に、新たな住居を求める元ドミノ住人どもが豪邸内へと一斉に雪崩れ込みました。収容限界を大幅に超えた豪邸はあえなく崩壊、小人は皆あっけなく圧死。ほくそ笑み。
とはいえ、倒れたドミノの片付けは、サムが一人でしなくてはいけないのですけどね。
サムズ・デイズ 間貝瞑 @MagaiTsumuri
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