48(2024.11.11)

「それじゃあ、お留守番よろしくね。サム」そう言って、お母さんは買い物へ出かけました。

 家の中にはサム一人だけ。怒られる心配のない、自由の身です。

 さあ、何をして遊ぼうか。

 サムはおもちゃ箱をひっくり返しました。沢山のおもちゃがやかましく音を立てて床に散らばります。どれも自慢のお宝です。

 そこから☆飾りをひとつ、手に取りました。ぴかぴか光る、でもどことなくくすんだ印象を受ける偽物の☆です。

「失礼な。ボクは偽者なんかじゃないやい」★がすかさず文句を言いました。

 では本物なのかとサムが問うと、「とーぜん」★は胸を張って答えました。「ボクは正真正銘、この次元の宇宙を統べる九垓八京七兆六億五千四百三十二人の天体兄弟姉妹の一人さ」

 ではどうして地上にいるのかとサムが問うと、「それがね」★は肩を落としました。「飛べなくなっちゃったんだ。いきなりフッ、ってなって、それからヒューッって」

 ★の話を要約すると、それは次のようなものでした。

・☆=『大宇宙の普遍にして無窮なる母』の営み(例:瞬きや欠伸、抜け毛に指パッチン)に伴い生成される、それら行動の残滓が永続的な実在性を得たもの

・☆の有する性質は千変万化(例:高速で回転する、周囲を冷却する、増殖する、裁縫上手)だが、飛行能力は本来あらゆる☆に共通している

・『大宇宙の~母』の思惟の拡散を受けて、☆達は隊列を変えて大移動(「転居」)を行う → 直近の「転居」において、ひとつだけが飛行能力を喪失し、この家へと落下した

 そこまでホワイトボードに書いたところで、サムはマーカーのキャップを閉め、

 で、結局なんで飛べなくなったの。そう尋ねると、

「ボクの体をよく見て。汚れているでしょ? (サムが頷くのを確認して)これが原因。宇宙を飛んでいるうちに付着する粒子――ヒッパリウム――が引力を増大させるんだ」汚れを落とせればまた飛べるんだけど、と説明したところで、★は頭から水を勢いよく被りました。サムがバケツ一杯の水――いっぱいの水をきっかり一杯――を浴びせたのです。

「何するんだ」ぺっぺと水を吐く★。← 落ちていない汚れ

 キレイにしようと思って。答えながら、絞ったばかりの雑巾を手に★へと迫るサム。

「こんなやり方じゃダメだよ。ぺっぺ」水とともに口から零れる魚。その生臭さを嗅ぎつけて集まってきた漁師たちが手に手に銛を持って争いだしたのを尻目に、「手順があるんだ」

 こんなところまで来てしまいました。天の川のほとりです。上下左右、どこを見渡しても一面の宇宙のなか、★を手にしたサムが漂っています。飛べない★と飛べないサムで、どうして天の川まで来ることができたのでしょうか? サムに訊いてみましょう。

 僕をよく見て。宇宙服を着ているでしょ? (●●が頷くのを確認して)これが理由。僕、宇宙飛行士になったんだ。すごいでしょ? (●●が頷くのを確認して)ふふん。

 宇宙飛行士サムは、天の川のほとりにしゃがみ込んで★を洗い始めました。頭頂部から順番に。すると、アラ不思議、みるみる汚れが落ちていくではありませんか。頭頂部の▲が△になり、左右の▼が▽になり、以下同様にして、汚れた★は輝く☆へと再生を果たしました。

「まさに生まれ変わった気分です」マイクとカメラの前で超新☆が嬉しそうに語ります。

「こんなに便利なこちらの洗剤、今だけ、お値段たったの、」お母さんは、テレビのリモコンを操作して、通販番組を天気予報に変えました。今夜は星がよく見えるでしょう。

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