47(2024.11.4)
「それじゃあ、お留守番よろしくね。サム」そう言って、お母さんは買い物へ出かけました。
家の中にはサム一人だけ。怒られる心配のない、自由の身です。
さあ、何をして遊ぼうか。
サムはおもちゃ箱をひっくり返しました。沢山のおもちゃがやかましく音を立てて床に散らばります。どれも自慢のお宝です。
そこからストローを一袋、手に取りました。喫茶店などで使われていそうな、淡い色彩の縦縞が入ったストローです。ピンクのものと黄緑色のものを一本ずつ袋から抜き出すと、それらを飲み口のところで直角に曲げました。L字型になったストローを両手に持てば、自宅で簡単! ダウジングマシンのできあがりです。
探検家が地下に眠る水脈を掘り当てる様子を、昨晩テレビで観て影響されたのでした。
ダウジングマシンを持って、さあ、お宝探しの始まりです。一階に下りて、リビングをうろうろ。台所を、風呂場を、物置をうろちょろ。何周したとて、ぴくりとも反応しません。やはり良質な金属でないとダメなのでしょうか? 貧者に富は門前払いなのでしょうか?
休憩がてらに入ったトイレ。純白の便器の前で、ひとりでにピンとまっすぐ伸びるストロー。水に浸してもいないその先端から、とめどなく流れる桃ジュースとメロンソーダ。反応アリ! しかしどこに? 桃メロン炭酸をごくごく飲んで腹を膨らましながら(飲み物を粗末にしてはバチがあたりますからね)、サムは採掘へのとっかかりを探しました。
洋式便器の背中側、水洗タンクの蓋を開けると、なんとそこには梯子がかかっていました。驚きで開いた口からストローが落ち、遥か地下深くへと音もなく呑まれてゆきます。水洗タンクの内側は古びた黄土色の岩で覆われ、底から微かに黴臭い風が吹いてきます。遺跡の予感、いえ、確信に震えたサムは、便器によじ登ると、苦労して梯子を下り始めました。
二時間か、二時間半ぐらい下り続けたでしょうか、ようやく地面に足が着きました。あちこちに苔が生しており、暗がりで茫、と黄金色に光っています。懐中電灯を持ってこなかったサムにとってはありがたい環境です。空間は思ったよりも広く、内壁は迷路のように分岐し、折れ曲がっています。足元に横たわる二本のストローから未だ流れる液体が、同じ方向へ向かって細糸状に伸びているのを見たサムは、それを辿って歩き始めました。
行き止まり。広間。壁にびっしりと刻まれた解読不能の文字や、何らかの規則に従って配置された人骨から察するに、祭祀場なのでしょう。そこに座す異形を認め、サムの背筋に緊張が走ります。それは、巨きな牛の頭を有していました。首から下は屈強な人間、ではなく、そこにも同じ牛の頭がありました。その下にも牛の頭、その下にも、さらにその下にも……。一番下の、ほとんど潰れた頭の両脇から申し訳程度に人間の手脚を生やした、生きたトーテムポールが、桃メロン炭酸の水溜まりの中心に君臨していたのでした。
一番上の牛頭が歌い始めると、他の牛頭たちも上から順に続けて歌いました。低く唸って空気を震わせ、聴いた者にすべからく鳥肌を起こさせる、詞のない輪唱でした。鳥肌はサムの皮膚から剥がれると、地面を軟体生物のように這い進みました。水溜まりに頭から突っ込み、一番下の潰れた牛頭の口内に潜りました。咀嚼する歪んだ口。鳥皮の香ばしい匂い。
その時、サムに天啓が宿りました。桃果汁とメロンソーダを混ぜた汁に牛肉と鳥皮を漬けた、未知なるグルメ。この遺跡に隠されたお宝を、サムは見事に獲得してみせたのでした。
梯子を上るサムの心はワクワクでいっぱい。帰ったらさっそく作ってもらおう。
「食べ物を粗末にしてはバチがあたるのよ」お母さんは、強弁するサムを窘めました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます