40(2024.9.17)

「それじゃあ、お留守番よろしくね。サム」そう言って、お母さんは買い物へ出かけました。

 家の中にはサム一人だけ。怒られる心配のない、自由の身です。

 さあ、何をして遊ぼうか。

 サムはおもちゃ箱をひっくり返しました。沢山のおもちゃがやかましく音を立てて床に散らばります。どれも自慢のお宝です。

 そこからお皿を数枚、手に取りました。おままごとで使う、木製のお皿です。

 サムは台所へ行き、戸棚からマシュマロの袋を取り出しました。開封済で、中身はあと四つしかありません。「残りはおやつに食べていいからね」お母さんの言葉をしっかり覚えていたサムは、さっそく食べることに決めたのでした。

 とはいえ、量が少々物足りません。サムはある方法を試してみることにしました。成功すれば、おやつを無限に生成して、魅惑の食べ放題へと至ることのできる魔法です。

【☆口外厳禁☆ おやつの増やし方】

 《要るもの》 ・お皿………四枚  ・おやつ……四個

 《準  備》① 部屋の四隅にお皿を一枚ずつ置きます。

       ② ①で置いたお皿の上に、おやつを一個ずつ載せます。

       ③ カーテンを閉め、照明を消して、室内を真っ暗にします。

 《作  業》① 出発地点の隅を決めて、そこにあるお皿を手に持ってください。

       ② 壁に沿って、反時計回りにまっすぐ進んでください。

       ③ 隣の隅まで着いたら、手にしたお皿と床のお皿を交換してください。

       ④ ②と③を、部屋を一周するまで繰り返してください。

 成功だ。暗闇でサムは喜びました。一周して出発地点に戻ってきたサムの手には、今しがた床から拾い上げたお皿と、その上に鎮座するマシュマロがありました。通常であれば、出発地点のお皿を隣に移動させたのですから、一周した後の出発地点には何も残っていないはずです。しかし、このように暗闇の中で行うことにより、ないはずの五個目を生成することができるのです。先日読んだ怪談本で得た知識を応用したのでした。

 実験の成果であるマシュマロを抓んでぱくり。うん、甘くておいしい。

 サムは意気揚々と二周目に出かけました。戻ってくると、新たなマシュマロがお皿の上にありました。お皿は、一周目が終わった時に置いたものとは別に、そこに重ねるかたちでもう一枚、出現していました。深くは気にせず、サムはマシュマロを食べました。

 サムは三周目を終えて、新たなマシュマロを食べました。お皿は三枚重ねになりました。

   (中略)

 サムは十周目を終えて、新たなマシュマロを食べました。お皿は九枚重ねになりました。

 九枚? サムは訝りました。さきほど九周目に出発した時も九枚だったような気がしたからです。なんとなしに気になって、お皿の枚数を数え始めました。

 一枚、二枚、三枚、四枚、五枚、六枚、七枚、八枚、九枚。一枚足りない。

「一枚足りない」誰かが後ろから肩を掴みました。振り返ると、そこにいたのもサムでした。さらには、サムBの肩をサムCが掴み、サムCの肩をサムDが掴み、サムDの……(後略)

 壁に沿って、サムがずらりと数珠繋ぎになっているのでした。

 なにこれ、どういう状況? サムAが訊きました。

 さあ? サムB/C/D/E/F/G/H/I/Jが言いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る