38(2024.9.2)
「それじゃあ、お留守番よろしくね。サム」そう言って、お母さんは買い物へ出かけました。
家の中にはサム一人だけ。怒られる心配のない、自由の身です。
さあ、何をして遊ぼうか。
サムはおもちゃ箱をひっくり返しました。沢山のおもちゃがやかましく音を立てて床に散らばります。どれも自慢のお宝です。
そこから鈴をひとつ、手に取りました。透明感のある音を鳴らす、黄色い鈴です。別室から、使われていない古いベルトと糸を持ってくると、ベルトの穴に糸を通し、その先に鈴を結びつけました。あっという間に首輪のできあがりです。
首輪を用意したからには、それを装着するペットも必要なのは言うまでもありません。サムは首輪が似合うペットを探しに行くことにしました。
「今日はもう品切れだよ」ペットショップの店長はすまなそうに言いました。「最近は空前のペットブームでね、入荷するそばから売れてゆく毎日さ」確かに、道中、羚羊やイグアナ、ピグミーマーモセットなどの珍しいペットを連れた人を多く見かけました。
買うのは潔く諦めて、拾うことに決めました。こうも流行っていれば、世話できずに捨てられた動物もいるはずです。サムは左右に目を光らせて路地をうろつく童子となりました。
いました。電柱の脇、『ひろってください』と手書きされたダンボール箱に、アリクイの子供が収まっています。驚かせないようにゆっくり近づくサム。そこに、電柱を伝い下りてきた三人の少年が割り込み、アリクイを箱ごと奪いました。なんだなんだと憤るサムに、
「俺たちゃ動物蒐集団」「すべての動物が僕らのものさ」「欲しけりゃバトルに勝ってみな」
悪ガキどもはふてぶてしく言い放つと、
「いけっ、ジャガー」「ゆけ、雲豹」「出でよ、モンゴリアン・デス・ワーム」どこからともなく出現した猛獣たちをけしかけてきました。サムはたまらずその場から逃走しました。
その後も、あちこちで捨てアニマルを発見しましたが、いずれもそのエリアでシマを張っているグループによって阻まれてしまいました。
茶色い絵の具をぶちまけたような空の下を、一人とぼとぼと歩くサム。度重なるドタバタによって、元から古い首輪がいっそう草臥れてしまいました。もう、帰ろう。家路を辿る途中、その足がはたと止まりました。視線の先にあるのは何の変哲もない不法投棄場です。山と積まれたゴミの麓で、サムの茶色く染まった瞳が怪しくひらめきました。
あくる日。フタユビナマケモノの入ったダンボール箱を抱えて秘密基地へと走る悪ガキ三人衆の前に、立ち塞がる者がいました。
「なんだなんだ」「こいつ、昨日の弱虫じゃないか」「懲りない奴だな。そこ退けそこ退け」
猛獣三匹衆を召喚して一斉にけしかけました。しかし、それらはたちまち悲鳴を上げて、各々の生息地域へと逃げてゆきました。後に残ったのは、無傷の少年と、その傍らに立つ一匹の獣でした。傘や鉄パイプを組み合わせた骨格を古着や布団で肉付けし、極彩色の塗料を吹き付けたブルーシートの皮膚で覆ったその獣は、ガラス片や包丁でできた牙の間から油と残飯を滴らせていました。廃エンジンによる不安定な唸り声に混じって、眼球の位置に埋め込まれた知育玩具が童謡のメロディを歌い、喉元の鈴がそれに応えるように鳴りました。
「うわああああああああああ」「うわああああああああああ」「うわああああああああああ」
その日から、珍獣ハンターを狩る奇妙な少年と獣の噂が町に流れ始めました。
お母さんは、寝落ちしているサムの顔の下から動物図鑑をそっと除けました。
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