33(2024.7.29)

「それじゃあ、お留守番よろしくね。サム」そう言って、お母さんは買い物へ出かけました。

 家の中にはサム一人だけ。怒られる心配のない、自由の身です。

 さあ、何をして遊ぼうか。

 サムはおもちゃ箱をひっくり返しました。沢山のおもちゃがやかましく音を立てて床に散らばります。どれも自慢のお宝です。

 そこからUFOを一機、手に取りました。大皿をひっくり返したような形のアダムスキー型UFOです。銀色の機体にサムの顔が歪んで映り、まるで宇宙人みたいに見えます。

 サムは、UFOを掴んだ腕を高く上げて、(キィィィンというUFO特有の怪音を口で再現しながら)家のあちこちを駆け回りました。時にジグザグに、時に床すれすれまで急降下。思いつくままに飛ばして満足したサムは、遊びをやめて昼寝に突入しました。すやすやぴー。

 町外れの小さな山で立ち尽くす青年。彼は、カメラで撮ったばかりの画像を何度も見返していました。そこには、民家の真上を自在に飛ぶUFOの姿が鮮明に映っていたのでした。

「こ、こ、これは大発見だ!」鶏みたいに両手を羽ばたかせて青年は山を駆け降りました。

《緊急特番 空飛ぶ円盤街中に現る! 地球外生命体はやはり実在した! 人類とのコンタクトか? はたまた地球侵略への第一歩か? 世界初となる証拠写真を大公開!》

 夜、テレビの特番をかぶりつきで観ていたサムは、画面に映った写真が明らかに自宅であることに仰天しました。それと同時に、玄関のチャイムが猛烈な勢いで鳴らされました。ベランダの窓を何台もの車のランプが照射し、ヘリコプターの羽音まで近づいてきています。

「何事かしら?」玄関へ向かうお母さんを全力で止め、テレビ画面を指さすサム。怪訝な顔もつかの間、お母さんはハッとして、「潜伏場所がばれたというの? サム、まさか……」

 ごめんなさい。サムは涙声で謝りました。どうしてもUFOを飛ばしてみたかったんだ。

「謝ッテイル場合ジャナイ」お母さんは、みずからの顔の皮膚を首筋からベロリと剝がしました。その下には、ツルリと銀色に輝く肌と昆虫めいた巨大な複眼がありました。「急イデココヲ脱出シナクテハ」そう言うと、宇宙人は早足で歩きだしました。

 洗面台の前に立つ、宇宙人(エプロン着用)とサム。宇宙人が蛇口を右に三回、左に四回ひねると、洗面台が鏡ごとスライドして、地下へと続く階段が現れました。無言で下りてゆくと、デパートの駐車場じみた空間に辿り着きました。車は一台もなく、代わりにUFOが停まっています。宇宙人は首から下の皮膚も全部脱いでしまうと、UFOの傍らに置かれた大きめの檻を生体認証で開錠して、そこに皮膚を投げ入れました。

「返スゾ」檻の中でうずくまっていた肉の塊が皮膚に向かって這い寄りました。

 それから、宇宙人はUFOの前に立ちました。すると、自動で出入口らしき穴が空きました。機内に消えた宇宙人にサムが続こうとすると、「来ルナ」制止されました。

 どうして。サムは戸惑いました。君の母星に連れてってくれる約束だったじゃないか。

「オ前ノ寝相ガ悪イカラダ」シートベルトを締めながら、宇宙人はにべもなく告げました。「ソレニ好キ嫌イモ多イ。生活規範ヲ何ヨリ重ンジルワレワレノ星デハ、今ノオ前ハ生キテユケナイダロウ」UFOが宙に浮かびました。「デハサラバダ。ワタシガイナクテモ、キチント歯ヲ磨ケ、早起キシロ。アト……」最後まで言い終わる前にUFOは消失しました。

 夕食の後、お皿を台所に運んできたサムを見て、お母さんはびっくり。

「偉いじゃない。食べ残しもないし、どういう風の吹き回しかしら」

「決めたんだ」歯ブラシを取りに向かいつつ、サムは言いました。「いつか遊びに行くって」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る