13(2024.3.11)

「それじゃあ、お留守番よろしくね。サム」そう言って、お母さんは買い物へ出かけました。

 家の中にはサム一人だけ。怒られる心配のない、自由の身です。

 さあ、何をして遊ぼうか。

 サムはおもちゃ箱をひっくり返しました。沢山のおもちゃがやかましく音を立てて床に散らばります。どれも自慢のお宝です。

 そこからロボットを一体、手に取りました。箱から手脚が生えたみたいな、ブリキでできたロボットです。青く塗られた原色ボディがヒンヤリとして無機質です。

 背中のネジをキリキリ巻くと、四角い眼が黄色く光り、

「ゴメイレイ ヲ ドウゾ」と、抑揚のないモノラル音声で訊ねました。

 サムはロボットに命じました。掃除をしておくれ。

「カシコマリマシタ」表情ひとつ変えずに答えると、手足をギイギイ軋ませて掃除にとりかかりました。お菓子の袋をごみ箱にポイ。食べかすをポイ。皿の上のお菓子もポイ。

 サムはロボットの腕を押さえました。皿に載ったお菓子は捨てちゃだめ。

「カシコマリマシタ」腕を縦回転させてサムの手を振り払うと、ロボットは掃除を再開しました。お菓子の袋をポイ。お菓子の下から皿を引っこ抜いてポイ。散らばったお菓子もポイ。

 サムはロボットの肩を掴みました。皿も、まだ食べてないお菓子も捨てちゃだめ。

「カシコマリマシタ」上半身を横回転させてサムの手を振りほどくと、ロボットは掃除を再開しました。お菓子の袋をポイ。食べかすをポイ。お菓子の袋をポイ。食べかすをポイ……。

 変だな。サムは訝しみました。いくらなんでも、こんなにお菓子ばかり食べていたっけ?

 その時、部屋の隅でうごめく小さな影。それは一匹のネズミでした。サムの目の前でビスケットの袋を新たに開封すると、中身を出っ歯でカリカリ齧ってニヤリと笑いました。

 サムはロボットに命じました。あのネズミを退治しておくれ。

「カシコマリマシタ」捨てる寸前だった食べかすを放り投げ、ロボットはネズミの元へとギクシャク向かいました。飛来した食べかすがサムの鼻先に当たって砕けました。

 ネズミが壁の巣穴に向かって甲高く叫びました。「あのロボットを退治しておくれ」

「カシコマリマシタ」巣穴から、一体のネズミ型ロボットが出現しました。銀色のボディがスナック油でテカっています。鼻腔らしき穴から水蒸気がプシュッ、と噴き出しました。

 サムのロボットがネズミ(生身)めがけて突撃すると、ネズミ(ロボット)が素早く割り込んできて、足元に華麗なヒット&アウェイを決めました。哀れ、転倒するサムのロボット。虚しく空を切る歩行動作。前脚を取り合って喜びのダンスを踊るネズミ(生身&ロボット)。

 性能が、時代が違いすぎる。サムは呻きました。両者の製造年には、実に三十年もの開きがありました。ついでに言うと、サムのロボットは型落ち特売品で売られていたものでした。

 なにか、なにか弱点はないか。目を凝らしたサムは、ふと、ネズミ(ロボット)の尻尾が異様に長いことに気づきました。コードみたいなそれは巣穴の中まで続いています。

 一向に起き上がれないポンコツロボットをまたいで、サムはみずから巣穴へ手を伸ばしました。「やめろ」ネズミ(生身)の悲鳴も構わず、尻尾を巣穴から引っこ抜きました。

 ネズミ(ロボット)がたちまち動作を停止しました。コンセント式だったのです。

 勝どきの雄叫びをあげるサムの鼓膜に、鋭く刺さるホイッスルの音。

 レッドカードを掲げた審判がサムに向かって宣告しました。「退場!」

 夜になっても拗ねているサムを、お母さんは夕食へとズルズル引っ張ってゆきました。

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