第12話
芽亜は薄暗い学生寮の廊下を歩き、自分の部屋に戻る。部屋には六花がいるはずだが電気はついておらず、ベッドが置いてある辺りで光が灯っているのが見えた。
「ただいま、六花さん。何してるの?」
芽亜は暗い部屋を進み、ベッドの上で横になっている六花の隣に寝そべる。六花は淡く光るペンダントを手に、それを眺めていた。
「魔力器官も魔法石も毎日使ってないと段々と鈍っていくんだ。だからたまにこうして石に魔力を流し込むの」
少し形が違うが、六花の持つペンダントは、芽亜が以前彼女から渡されたものと同じ、星明りの石で作られたものだった。
「私が前に光らせたときと少し光り方が違う気がする……」
芽亜は光る星明りのペンダントを見つめる。
「光は石の純度とか流し込む魔力の質で変わるんだ。魔術学校だと、星明りの石を使った性格診断みたいなやつが流行ってたなぁ」
「へえ。六花さんはどんな結果だったの?」
芽亜は興味津々のようだ。
「何だったっけなぁ。それ自体、かなりいい加減な診断だった気がするけど。私は狩人が向いてそうとかだった気がする」
「それ性格じゃなくない? まあなんか六花さんって普段冷めてるけど意外と情熱的と言うか、そんなイメージはあるけど」
「え、そんなの初めていわれたんだけど」
「えええ、そういう感じの意味じゃないの?」
「なんだっけな死角から急に殺してきそうとか、そういう意味の狩人だった気がする」
「……確かに。それは当たってるかも……」
「えー何それ、全然さっきと言ってることが違うじゃん。私自分では包容力のある慈愛に満ちた人間だと思ってるんだけど」
六花は芽亜の事を両手で抱きしめる。
「へ、六花さん!? だ、駄目ですよ!」
芽亜は六花から逃げるようにベッドから離れる。
「で、電気付けましょう! 部屋に戻って来たのに消しっぱなしも変ですし……」
「えー、折角一日留守番してたのに今日はお預けかぁ」
六花はベッドの上で駄々をこねるようにごろごろと転がる。
「これから夕ご飯もあるし、駄目です! つけますよ! 電気!」
芽亜は部屋の明かりをつける。
「あれ? 朝そんな恰好だったっけ?」
六花は芽亜を見て何かに気付いた様子だ。
「え、あの……。そういえば、このカーディガンずっと部室に置きっぱなしにしちゃってて、今日思い出して持って帰って来たんですよ……」
余計なことを口走ってしまいそうなので、芽亜は適当に話をはぐらかす。
「へえ、そうなんだ。まあ私一言もカーディガンなんて言ってないけど。まあいいか。あ、そういえば五月から聞いたんだけど、璃子が保健室の先生やってるんだって?」
「知ってたんですか。まあ、そうです。私もびっくりしましたけど」
「よっと」
六花はベッドから起き上がり、顔を近づけて芽亜のカーディガンをじっと凝視する。
「やっぱり。これ、夜の帳でできてる。こんなの芽亜が買い物に行くようなお店じゃ売ってないよ」
「それは……そうかもです。璃子さんからもらいました……」
そこまで言われると何も言い返せずに黙り込む芽亜。
「つまり他の女からもらったプレゼントの事を必死に隠していたと」
「な、なんでそうなるんですか! 私はただ……、なんていうか色々あって……」
芽亜は少しだけ向きになる。
「何かあったの?」
六花は諭すように言うと、芽亜の頭を撫でる。芽亜は保健室で璃子にされた話を思い出す。六花に吸血鬼だと知られたらどうなるだろうか。そもそも吸血鬼の事を芽亜自身よくわかっていない。芽亜は先の事を考えて、少し恐くなった。
「な、なんでもありません。いえ、ありますが、今は少し気持ちの整理ができてません……」
芽亜は再び黙り込む。
「……ごめんごめん。あまりにも芽亜が必死で隠そうとするからさー。ちょっと意地悪したくなっちゃったみたいな」
六花は何事もなかったように明るく言った。
「本当に悪いと思ってますか?」
芽亜はいぶかしむ。
「思ってる思ってる。超思ってる! ほら、証拠のちゅー」
六花は芽亜に顔を近づける。
「もう、いつもそうやってごまかすんですから! わかりました。わかりましたから。……ねえ六花さん、なんで璃子さんが私にこんなものくれたのか聞かないんですか?」
「え、わかんない……。寒かったから? まあ夜の帳ってちょっと値段は張るけど結構暖かいし、芽亜みたいにちょっと霊的な才能がある人が身に着けてると、自衛にもなるんだよね。璃子が芽亜の事気に入ったって事じゃない? 違うの?」
「ま、まあ大体そんなところですが……」
確かに気に入られてはいるかもしれない。この六花の様子を見るに、彼女ほどの魔術師でも吸血鬼を見破るのは難しいようだ。鋭いんだか鈍いんだか、拍子抜けしてしまう。芽亜は吸血鬼の事を六花に話すか少し考えるが、今はまだ少しだけ勇気が足りなかった。芽亜がごろっと横になると六花もすぐ隣に寝そべる。芽亜は自然と六花の手を握る。六花はそれを握り返す。芽亜はほんの少しだけ心に余裕ができた気がした。
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