Vol:13 刑務所
ーーなっ...!?一体、な...何を...!
聖女の軽やかな発言とは、真逆で、
とても穏やかではない、非人道的な発言。
いくら夢の中とはいえ、人命を奪うのは、あり得ない。
ーーこ..この人...!
ーー本当に...アブない...!
とうとう、真性のサイコパスだと認定する竜司。
「誤解がない様に、お伝えしておきますが、
何も、必ず命を奪えとは、言っていません。」
「竜司さんの命が危機に瀕した時。」
「つまり、身を守る為の非常手段、
正当防衛の結果、もしくは、やむを得ない、
例外的な処置をする場合であればという、結論です。」
「無抵抗の相手に、反人道的な行為は、求めません。」
「人道的な相手がいれば...という話ですけどね。」
聖女は、さも当たり前に、倫理を述べた。
「ハァ...。」
ーー良かった...。
とりあえず、首の皮一枚が繋がった様で、
ピークだった緊張も、多少、和らいできた。
だからといって、聖女が、サイコパスという
竜司の中での認識は、変わってはいないが。
ーーえぇ...、倫理ぃ...。
「あなたが、それ言うの?」とも言いたげである。
ただ、自分達のいる場所にいるせいで、
未だ、不愉快の気持ちは、拭えていないまま。
憂いしかない、苦い思い出のみのドン詰った土地。
彼にとって、ここは、刑務所だ。
いつまでも、無期限に、己を拘束し、
幽閉する、身体の自由を奪われる息苦しさ。
何十苦も感じさせられる、無限地獄。
これまで、竜司が、延々とループを繰り返し、
辛酸を舐めた、神話のシンボルでもあるのだ。
そして、今、聖女から、最初の
彼を支配し、巣食ってきた悪夢の終焉。
我が物顔で、自身の心に居座り続けてきた
ターゲットの始末、もとい、調教していくのだが、
それでも複雑な心境である。
ーー...ってあれ?
ここで、竜司にある疑念が浮かんだ。
ーーターゲットって、一体、誰だ?
ミッションを下されたはいいものの、
まだ、具体的な内容は伝えられていない。
それに、どこに潜んでいるかさえも、
分からない、正体不明の相手に、どうしろと?
立ち往生するしかない竜司に、聖女は、ただ一言。
「それは、行けばわかりますよ。」
すでに、答えを知っていそうだが、
さも意味深な、メッセージなのだから、
煽られた感じをした竜司は、イラッとした。
「もう!わかりましたよ!」
「行きゃいいんでしょ!行きゃあ!」
ヤケクソ気味に、開き直った。
改めて、立ち塞がる、4F建ての鉄筋コンクリートで、
築かれた要塞を、竜司は、上から下に、じっくり眺めた。
彼が生活していたのは、1Fの右にある102号室。
10秒もかからない距離に、玄関は、目の前にある。
このドアを開けた先には、悪夢の元凶が、占領している。
ーーまさかな...。
しかし、その人物は、竜司自身、心当たりがある。
彼の予感は、小さな確信を告げているが、
一方で、外れて欲しい様な、当たって欲しい様な、
様々な願望が、入り混じっている。
このまま、何も考えずに、進んでしまってもいい。
が、まだ、心の準備はできていない。
高鳴る心臓の鼓動音が、竜司の心情を表している。
「私は、いつまでも、ここで待っていますよ。」
竜司の状態を鑑みてか、聖女は、一旦、間を取って、
整える時間を作る様に、促した。
「時間なら、いくらでもありますから。」
穿った見方をすれば、竜司が前を進むまで、
この夢から抜け出せず、目が覚めないのだろう。
実質、進む以外の選択肢は、ない。
そういう事情も竜司は、それとなく嫌でも、
わかっているので、ひとまず、このディープで、
憎々しい夢の世界を、散策する事にした。
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