Vol:12 ミッション



「ギャァー!」



「あぁ、目がぁ!目がぁー!」



目潰しをされた様な強烈な痛みで、

その場に疼くまる竜司だったが、

しばらくして、収まってきた。



ようやく、瞼を開ける程にまで、回復した。



「いきなり目の前で、ピカッと光るとか、反則だろ...。」



危うく、失明するじゃねぇかと、ブツクサと文句を垂らしている。



どうやら、口が減らない分、元気な様子だ。



クレームを出してやりたい気分でもあり、

聖女に、どういうつもりなのか問い詰めてやろうと、

ゆっくりと、目を開き始めた。



ーーまったく、何をしてくれたんだ..。



ぼんやりとしていた視界は、

徐々に、目の前の光景を鮮明にしていく。



ーーどういう了見なんだと...。



ーーああいう注意をしてくれたっていいんじゃ...。



未だ、苦情の絶えない竜司であるが、

瞳に入ってきたものが、彼の思考の声を

シャットダウンした。



「ここは...!?」



目に入ってきた情報が、彼の脳が処理して、

理解するのに、少々の時間を有した。



そして、分かってしまった。



いや、分かりたくなくても、分かる。



それは同時に、彼の古傷を、またもや、抉った。



「オェェェ...!」



過去の記憶がフラッシュバックし、吐き気を催した。



竜司が見た「ここ」とは、過去。



それも、思い出したくもない、記憶から抹消し、

存在自体も無かった事にしたい、忌々しい場所。



幼い頃、彼の過ごしたマンションが、聳え立っていた。



ーーな...んで...?



真向かいにある保育園、後ろに広がる

一反の田んぼ、徒歩5分もかからない距離の

通っていた小学校や遊んでいた公園...。



全ての環境が、当時のままに、再現されていた。



それは、竜司の過去、そのもの。



時を超えた風景が、彼の心の琴線に触れてしまった。



ーーな.....な..ん...で...!?



「ウゥゥ...!」



胃から逆流してくる酸っぱいモノが

口から出てくるのを、必死に堪えるが、

竜司は、意味がわからなかった。



「ここは、竜司さんの夢の中の、夢です。」



その時、苦しむ竜司に、語りかける声がした。



「つまり、より深い、夢の層にいます。」



どこからともなく、聖女が、彼の前に現れ、

自分達のいる場所を伝えた。



「グッ...!」



ーー何で...よりにもよって...!



竜司の言わんとするのは、より一段、

深い夢の世界に来た事はわかれど、何故、

彼の少年時代の過去、



つまり、胸糞悪い、掃き溜めなのか?



ーーここ...なんだよ...!?



別に、描いたイメージの通りにできるのならば、

他の夢でも、よかったのだ。



しかし、よりにもよって、悪夢を蘇らせた。



その必要性や正当性は、あるのだろうか。



竜司の嗚咽を漏らしながら、問いかける目線に、

聖女のアンサーは、彼に、過酷な試練を与える。



「竜司さんの、最初のミッション、です。」



「あなたの心に巣食う、ターゲットがいます。」



「これから、その対象を、攻略調教してください。」



「場合によっては...」



「ご自身の手で、終わらせる事も、許可します。」



「世界を救う、第一歩ファーストミッションです。」


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