Vol:11 神話
竜司の激しい情緒の乱高下で、
空間に、裂け目が発生、ミシミシと軋んだ。
ヨーロッパの街並みの風景が、再び、震撼し始める。
精神のアップダウンに、耐えかねている竜司の心は、
今にでも、爆発して、崩れ落ちそうであった。
彼の心情を表すかの様に、街のあちらこちらで、
爆発音が鳴り、建物も、破裂していた。
竜司は、呻き声を上げ、頭痛を堪えている。
「グゥ...!」
苦悶の表情を浮かべ、その場に、悶える。
誰にも見られたくない、ひたむきに隠し続けてきた、
竜司のトラウマを、聖女は、見抜いている。
しかも、実際に、言葉で暴露され、古傷の再発、
その生じた激痛は、想像以上であった。
思い出したくもない。
向き合いたくもない。
見たくも、聞きたくもない。
脳の保存されてしまっている、記憶のデータから、
完全消去し、人生からも、なかった事にしたい。
嫌悪する程に、その痛みを、大なり小なり、人は、抱えている。
竜司の場合、それが色濃く、残存していた。
彼もまた、ループの罠に、陥っていた一人なのだ。
まるで、壊れたラジカセが、ピーと同じ音を
繰り返すのみの機械と、成り果ててしまった様。
負の連鎖が、形を変えながら、続いていた。
「竜司さんは、事あるごとに、ご家族に対する
感情や記憶をフラッシュバックしては、同じループを
辿り、今日の状況へと至っています。」
「たとえ、夢から覚めても、これは変わりません。」
「竜司さんの紡がれてきた神話を手放さない限り、
永遠に、同じ夢が、繰り返されていきます。」
「その事を、重々、承知しておいて下さい。」
苦痛に苛まれる、竜司にとって、悪夢そのもの。
聖女の言葉は、竜司の幻影を、より鮮明に、
浮き彫りにする形となった。
未だに、ズキズキと頭が痛み、
額から脂汗を流している竜司。
ーークッソ...!
しかし、ここで、立ち止まっている場合ではない。
彼は、捕われの囚人の様に、鎖で繋がれた足枷をはめられている。
この縛りがある限り、自由はおろか、
己の使命さえままならない、問題外だ。
いわば、呪いの武器を装備している状態。
まずは、この悪夢を、終わらせる必要がある。
どこに逃げても、隠れても、いつまでも、追跡してくる。
ーーこんな理不尽な事が、あっていい訳ないだろ..!
ーー俺は...
ーー俺の、夢を、歩いていきたいんだ!
彼の意志が、脈々と、連なった永遠の夢を終わらせる、
決意へと至らせる。
されば、自らの手で、終止符を打たなくてはならない。
自身を救えない、大切にできない人間が、
世界はおろか、自分以外の人に、手は差し出せない。
拳を強くを握りしめ、竜司は、疼く痛みと共に、前を見据える。
その瞳に宿る決心は、竜司の人間という、矜持を物語る。
竜司の変化に、聖女は、満足げに見守っていた。
そして、次の段階へと進める、手筈を整える。
「今、竜司さん、ご自身でも体感しましたが、
これは、まだほんの一部にしか過ぎません。」
ーーえぇ...。
ーーまだあるのかよ...。
ここまで、辛い状態に晒されても、尚、
スタートラインにすら、立てていない事に、
ガックリと、項垂れる竜司。
だが、ここで文句を言っても、始まらないので、
聖女の続きの話に、耳を傾けるしかない。
「これから竜司さんが出会っていく人達は、
皆、何かしらの傷を抱えています。」
「延々と繰り返す、夢という檻に閉じ込められています。」
「その悪夢を終わらせる、その意識で、臨んで下さい。」
ーーそりゃ、そうするけども...。
ーー終わらせるって、どうすれば..?
物言いたげな竜司であったが、その時だった。
「習うより、慣れろ、です。」
「実際に、その身をもって、体感するのが、早いでしょう。」
聖女は、右手を、スッと上げる。
ーー何をするつもりだ...?
聖女の一挙手一投足に、竜司が、注意するのも束の間、
ーーパチン!
そして、聖女は、指先で、これからショータイムが
始まんばかりの鋭い音を鳴らした。
その瞬間。
聖女の右手を中心に、空間全体を包み込む、閃光が放たれた。
一瞬の眩ゆい輝きに、竜司は、思わず、両手で顔を隠す。
やがて、光は辺り一面、夢の世界そのものを、包み込んだ。
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