Vol:10 どうせ
「たとえ、失敗し、その命を落としたとしても、
それで、終了した事にはなりません。」
「また、もう一度、やり直せます。」
「ただし、ターゲットの調教が終わるまで、
次には、進めませんので、注意して下さい。」
ーー死にたくても、死ねない、ループとか笑えねぇ...。
竜司は、終わりのないのが、終わり、
はたまた、調教完了するまで、帰れません的な、
いわゆる、ループをやるハメになるとは、予想だにしなかった。
つまり、ゲームオーバーは、許されない。
それは、賽の河原で、死んだ子供が、
石を積んでも、すぐに壊され、また、
石を積み直しても、たちまち、壊される。
決して、終わりを、迎える事がない。
きっと、聖女は、あまりに不憫な自分を想い、
ケアの言葉をかけてくれたのかもしれないが、
サイコパス度、100点の人の事だ。
むしろ、より自分を窮地に追い込ませ、
苦しませる事を楽しんでいるに、違いない。
あらぬ妄想で、聖女が鬼に見え、笑えない竜司だった。
ーー待てよ...。
ただ一つ、気になったのが、なぜ、失敗しても、
またもう一度、やり直す事が出来るのか。
ーーそんなに、都合良くできるものなのか?
そう疑問に思うのは、当然であった。
竜司の抱いた謎に、聖女は、人間の深層心理のタネを明かした。
「元々、人は、同じ事を繰り返す習性のある生き物です。」
「例えばですが、竜司さんの部屋に、1週間、
ビデオカメラを置いて、ご自身の暮らしぶりを
観察するとしましょう。」
「おそらくですが、同じ事を繰り返していますよね?」
言われてみて、竜司は、私生活を振り返ると、
同じ時間に起床し、スマホの画面を明け、
出勤の準備、同じ時刻の電車に乗り、出社、
決まった業務をして、帰宅し、ご飯を食べ、
シャワーを浴び、ネットサーフィンして、就寝...
ーー同じ事しかしてないな...。
特段、何かをしている訳でもない。
毎日、ほとんど同じ事の繰り返しで
生活をしている事に、今更ながら、気づいた。
「表向きで、目に見える事を反復している様に、
裏の面、つまり、目に見えない、感情や精神も、同様です。」
「例えば、恋愛で、痛い目に遭い、失恋をして、
それがキッカケで、人間不信になったとしましょう。」
「たとえ、魅力的な人に出会えても、
当時の感情を、ぶり返してしまいます。」
『どうせ、この人も自分を裏切るから、信じない。』
『どんなに素敵な人も、必ず、自分を裏切り、別れる。』
『そうなるならば、最初から、関係なんて持たない方がいい。』
「心の中で、ある種の神話を、でっち上げてしまい、
自らを悲劇の主人公に、位置付けてしまうのです。」
「ちなみに、ロクな恋愛をしていない人程、この傾向が強いです。」
「竜司さんの場合、家族で、そのきらいがありますね。」
いきなり、核心に迫る内容に、竜司は、動揺した。
彼自身でさえ、触れられたくなかった領域だからだ。
忌々しささえ感じる、家族にまつわる、黒歴史。
彼の神話は、こうである。
『血の繋がった家族でさえ、自分を裏切る。』
『故に、血の繋がらない、赤の他人が裏切るのは、当然だ。』
『自分は、もう二度と、そんな辛い目に遭うのは、ゴメンだ。』
『だから、始めから、人との関係なんて、持たない方がいい。』
幼い竜司の身に起きてしまった事件は、
今も続く、不滅の物語を作り上げてしまった。
そのシナリオに沿って、竜司は、孤独を選び、
誰とも交流しようとしなかった、正体だ。
これが、とうとう、白日の元に、晒された。
竜司にとっての禁忌、一線を超えられてしまい、感情が荒ぶる。
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