Vol:7 スパイ
「極端にお伝えすると、相手からすれば、
こちら側は、ウイルスやバイ菌の類です。」
「人間の体にある白血球が、体内に異物が侵入した
細菌などを撃退、殺菌するのと、同じです。」
「すぐさま、異分子を葬るべく、相手の潜在意識が、
本能的に、守ろうと、命を狙いに、襲いかかってきます。」
「銃やナイフ等、その手段は様々です。」
「その様な防衛システムが備わっている事を、理解して下さい。」
ーーマジかよ...。
聖女の発言に、竜司は、愕然とし、身震いした。
バーチャルの世界で命を落とせば、リアルでも亡くなる、
いわゆる、デスゲームの設定がないのが
せめてもの幸いにしても、いざ、その首を狙われる
当事者となれば、身の毛もよだつ話である。
竜司は、形は違えど、死を体験をしたが、
やはり、何度も、自らの命を失いたくはないし、
あの時の臨死体験は、御免被りたい。
それが、たとえ、夢であったとしてもだ。
その為には、まず、体の内部に侵入してきた
ウイルス達を、冷酷に排除する白血球の様な
免疫のガード機能を、どうにかしなければならない。
ーーさっきから、気になっていたけど...。
竜司は、薄々とであるが、飲み込み始めていた。
先程から、彼や聖女の近くを通る
ヨーロッパの人達の視線が、やけに、
自分へ向けられているのを感じているからだ。
それも、もれなく、全員からである。
まるで、場違いだと、言わんばかりに、
全方位からの目線が、彼に注がれていた。
まだ、訓練の段階だからいいものの、
これが、実際であったならば、ただちに、
襲撃に遭っていたであろう。
最悪、蜂の巣にされていても、不思議ではない。
ーーどうにかしないとだな...。
改めて、夢の怖さを思い知る竜司は、
早急に、対策を練る必要性を感じた。
「システムの突破口ですが、要は、
相手の潜在意識に溶け込めばいいのです。」
その攻略法は、聖女が、示してくれた。
「違和感を抱かせず、同じ住民だと、思わせれば良いです。」
「いわば、スパイみたいなものですね。」
「今回でいえば、欧米人に変装すれば、問題ありません。」
「方法は、以前、お伝えしましたが、
復習がてらに、やっておきましょう。」
ーーあのやり方で良かったのか。
竜司は、最初の夢の時に、聖女から言われたやり方、
自分のイメージする、欧米人を描き始めた。
オッドアイに、身長は195cm、
肉付きが良くて、猫背気味、色白の肌...etc
一般的なステレオタイプであろう、白人の
ルックスを想像し、自らにトレース。
「上々ですね。」
変装を終えた竜司に、聖女のスコアは、及第点。
「これで、周りの注目も無くなるでしょう。」
聖女の言葉通り、竜司がイメージを終えた頃には、
彼のイマジネーション通りの、白人になっていた。
ーーできているのか...?
ちょうど、近くに、鏡張りの展示品があり、
その映された全身を、竜司は、チェックすると
問題なく、変身の完了を確認できた。
ーーなんとか、成功したみたいだな。
それから、街中にいる人達を、警戒する様に見渡す。
アイコンタクトしてくる人は、誰一人いない。
直前まであった、痛くなる様な視線が、
波が引いていく様に、無くなっていた。
ーーこっちも、大丈夫みたい。
ひとまず、第一段階は、クリアといった所だ。
「夢は、とても繊細です。」
「故に、細心の注意が、重要です。」
「まずは、相手の夢に、違和感なく溶け込み、
そこから、攻略の糸口を探していきましょう。」
「上達すれば、相手が公に隠している
情報や秘密を盗み出す事も可能です。」
「実際、それを生業にしていた人もいました。」
ーーそれって、危ないんじゃ...。
竜司は、大きく孕むリスクを危惧したが、
事実、限りなくブラックな、汚れ仕事だろう。
相手の夢に、盗人猛々しく、忍び込み、
トップシークレット級のとくダネを入手。
きっと、悪魔に魂を売る様な人達からして、
そんな希少な能力者がいたら、喉から手が出る程、
血眼になって、勧誘するだろう。
ーー権力者や野心家が好みそうだな...。
例えば、ライバル他社の企業秘密を盗み、
また、権力者の秘匿された情報を公にし、
社会的な抹殺など、好き放題にできる。
それは、全財産をはたいても、手に入れたい価値だろう。
少なくとも、その稀有な力の持ち主の竜司を、
手中に収めるべく、血みどろの争奪戦になるのは
避けられないかもしれない。
あるいは、現代ならば、SNSの暴露系として、
勧善懲悪のカルトヒーロー、ある種の神に、
崇められる線もあり得るだろう。
ーーどの道、公にするものじゃないな。
しかし、結局、竜司自身の命が、危ぶまれ、
決して、穏やかな現実世界には生きられない。
危険な橋を渡る行為であるし、加えて、
竜司には、それをやる動機も、さらさらない。
ーー凡人のやる事に、興味はない。
くだらない煩悩の為に、この世界にいる訳ではないからだ。
むしろ、聖女のこの後の話が、彼にとっての
関心事であり、度肝を抜かれる内容であった。
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