第二章 ファーストミッション

Vol:1 帰還



「あぁぁぁ!!!」



雄叫びと共に、上半身を跳び上がらせて、

竜司は、目を覚ました。



身体を動かしていないのに、

肩で息をしている程、体力が消耗しており、

額からは、大粒の汗が溢れ出していた。



そして、無我夢中に、両手で身体の至る所に触れた。



「生きてる...。」



自身の命が、現実に、この瞬間、

確実に存在する事を確認した所で、

緊張で固まった身体は、ようやく、緩んだ。



若干、手が震えている。



落下の時を思い出し、あの時の感覚は

本物で、身体が、まだ恐怖を覚えている。



「夢...だったんだよな?」



竜司は、ゆっくりと、部屋を見渡した。



床に転がっているビール缶、空のコンビニ弁当...etc



一通り目視をしたが、眠りにつく直前の状態と

何ら変わりばえはしなかった。



異変は、ない。



突然、空間に亀裂が走ったり、

天井や床が、崩れ出す事もない。



ーー帰ってきた...。



少しずつであるが、現実世界に戻った事を

竜司は、実感しつつあった。



しかし、夢の崩壊と共に転落し、

猛烈なスピードで地面に激突した瞬間、



全身に広がるあの痛みは、体感として覚えていた。



まるで、本当に、実体験をしたかの様にだ。



本来ならば、彼の命は、もうこの世にはない。



ダメージを、致命傷レベルで負っていたのだから、

当然といえば、当然であろう。



ーー身体も、問題ないみたいだな。



しかし、それは、夢の世界での体験に過ぎず、

現に、竜司は、五体満足の状態で帰還している。



その為、落命したけど、生存している。



あり得ない、矛盾した経験を共有できる人間は、

彼以外に、まず、いないだろう。



もし、そんな事を公表でもしようものならば、

周りからは、危険人物と認定されてしまうのは、

確実であろう。



最悪の場合、違法ドラッグの摂取や

メンタル面の疾患を抱えていると疑われ、

精神病棟へ、強制入院もあり得る。



竜司は、自分だけの内密にすると、決意した。



しかし、不思議な感覚ではあるが、これも、

夢の世界に入った事による、副産物なのであろう。



とても稀有で、奇妙な体験をしたのである。



「それにしても...」



えげつないモノを見聞きしてしまったと、

改めて、夢の中での出来事を振り返った。



聖女との出会い、世界の危機、夢と現実、

男性の絶滅、結婚、調教、魔王...etc



「意味がわからん...」



こうして単語だけを羅列すると、

文脈の流れを読む事は、困難を極める。



受験生が一夜漬けで、情報を脳に詰め込み、

いきなり、試験に臨んでも、無理がある様に、

一つ一つ理解するのには、時間がかかる。



「うっぷ...。」



あまり考え過ぎると、脳がオーバーヒート、

胃もたれや胸焼けを起こしそうだったので、

竜司は、考えるのをやめた。



考えても、答えは出ないし、ムダだと悟ったあたり、

彼の諦めという名の潔さに、一種の清々しさがある。



思考をシャットダウンすると、竜司は、ふと気づく。



「今...何時だ?」


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