Vol:23 タイムリミット



「時間ですね。」



この時が来るのを待っていた。



その様な口調で、聖女は、終わりを告げた。



竜司の方は、一体、何が起きているのか、

状況を把握し切れていない。



しかし、空間が音を立てたのを合図に、

今、彼のいる部屋が、徐々に、

異変が起き始めている事には気づいた。



ーー外が...!?



視線を窓の外に移すと、あれほど綺麗だった

ヨーロッパの街並みの建物があちらこちらで、

崩落していた。



ーーガシャーン!



ーーガラガラドゴーン!



一つ、また一つと、ドミノ倒しに崩れている。



地割れによって、地面には大きな穴が空き、

道路も陥没している。



建築物の破片が、洪水の様に、

流れ落ち、砕け散っていく。



ーー長くは保たない...。



誰の目で、どう見ても、自明であった。



ーーこのまま閉じ込められて...?



竜司は、刻々と迫る終焉に、恐怖した。



彼自身の夢に、一生、幽閉されてしまう恐れを

ヒシヒシと、肌身で感じ取っていた。



気づけば、竜司と聖女以外、

誰一人、気配も、姿、形すら、

残さずいなくなっていた。



「これから、どうなっていくのですか?」



これからの不安を、無理矢理にでも、

振り払おうと、助けを乞う目線を、聖女に向けた。



「元の世界に、帰る時間がきました。」



「この夢の世界の崩壊、そのタイムリミットが

訪れたというサインになります。」



夢の終わり、そして、それは同時に、

聖女との別れも意味する。



ひとまずは、元の世界に戻れる事に、安堵した。



「ちなみにですが、出口はありません。」



しかし、肝心なはずである重要事項を、

おまけ程度の説明に、添えるだけだった。



ーーじゃあ、どうやって戻るんだよ!



ホッとしたのも束の間、天国から地獄へと

真っ逆さまに、感情が落とされた。



命の危機を感じた竜司であるが、

今となっては、もはや、手遅れ。



逃げ場を失い、彼には、解決不可の状況だ。



せいぜい、その場で地団駄を踏むのが、関の山。



ーーこのまま、死ぬしかないのか...?



夢でも、アンラッキーな属性の自身に、

竜司は、己の行く末を悲観した。



聖女は、更に、ダメ押しで、絶望の谷底へ突き落とす。



「心配しなくても、ちゃんと戻れますよ。」



「今回は、死に戻りという方法になりますが、

状況を考慮すると、建物の崩壊による圧死か、

高所からの転落死になるでしょうね。」



ーー死に戻りの呼称は、少々、面倒事になりますね。



ーーでは、ヨミガエリ、とでも言い換えておきましょう。



メタな発言をしている聖女であったが、

竜司にとって、指摘していられる余裕はない。



ーーやっぱりこの人は、サイコパスだ!



むしろ、聖女の印象が、決定づけられた瞬間であった。



今まさに、命が危機に瀕してしているというのに、

全く動じず、しかもご丁寧に、死亡に至るまでの

フラグを、説明しているではないか。



良心が欠如していると指摘されても

文句は言えない問題発言である。



しかし、その次元は、とっくに通り越している。



堂々とした、鋼メンタルを超えた

絶対的な精神性の聖女に関わった自体に、

改めて、悩ませる竜司であった。



しかし、まだまだ聞きたい事は、たくさんある。



ーーこれから、どうしていけばいいのか?



ーー他にできる事は?



ーー聖女との連絡手段は?



ーーそもそも、また夢に戻る機会は?



...etc



聖女の存在がどうであれ、この未知の世界に対する

謎や疑問が、残されたまま。



未解決状態のまま、あっけなく

幕切れとなるのは、竜司にとって、

不本意であり、不完全燃焼だ。



複雑な心境の彼に、追い討ちをかける様に、

遂に、足場の床が崩れた。


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