Vol:22 コンマ0%



だが、その心理的な拘束は、解かれた。



まるで、永い年月の封印から

目を覚ました地獄の帝王の様に、

少しずつ、力を取り戻していく。



ーーグッ...。



ゆっくりと、竜司は、手を開いたり

閉じたりしながら、感覚を確かめている。



ーーわからん...。



現実と同じ体感ではあるが、

未知の力は、一寸の先は闇。



1歩誤れば、闇に染まるリスクがある。



もし、適切なプロセスを経ず、

無理矢理にでも、心理的な呪縛を

解こうものならば...



ほとんどの場合、犯罪や不正に手を染めるだろう。



爆発寸前の溜めてきたモノを、

いきなり、その全部を一気に解放、



必ず、大きな反動が起き、歯止めが効かなくなるのだ。



その方法が、ダークサイドであれば、

なおさらで、本来ならば、禁書レベルである。



竜司の場合、幾つもの幸運や偶然という

要素が重なったからこそ、堕ちずに済んだ。



いわば、コンマ0%の、天文学的な確率の

アタリを引いたに過ぎない。



それは、奇跡そのもの。



1度ならず、二度はない。



おまけに、聖女というガイド《監視》がいる。



仮に、彼が間違った事をしようものならば..



ーー考えたくないな...。



その想像すら、恐怖で身震いしてしまう。



だが、心理的なブレーキが、彼にはある。



例えるならば、聖女の存在は、竜司にとって、

核兵器よりも、強力な抑止力となっている。



そして、本当に、才があるからこそ、

聖女は、一見、常軌を逸したアドバイスを

あえて、彼に伝えたのだ。



まるで、毒には、毒を持って制すかの様に。



ーーちゃんとしよっと...。



ちなみにだが、彼が女性を性的に

調教していたイメージは、方法論としては、

あながち、間違ってはいなかった。



むしろ、魔王として君臨するならば、

好みがどうであれ、お茶を嗜むレベルでやれる

器量が、必要になってくるであろう。



ただ、この時は、動機が不明確で、

不純でもあったので、的外れに

なってしまっていただけなのだ。



これらの内容や違いを自覚しない限り、

そのまま目が覚めても、性犯罪者や、

変質者になるのが、オチである。



だから、本人は気づいてはいないが、

竜司は、とても幸運だったのである。



いつか、彼が大魔王としての器に到達した時、



とてつもない、現実の変化が起こるのは、

まだ先の話になる。



RPGゲームのスタートボタンを押して、

彼のステータスの一部を表示するならば、



【職業:魔王(見習い)】



【スキル:調教(レベル1)】



といった所であろうか。



今はまだ、駆け出しの1年生である。



産まれたばかりのヒナで、不完全、赤子も同然。



しかし、その才能は、確実に、芽吹いた。



これは、とある非モテ男子のモブキャラに

過ぎなかった童貞が、聖女との邂逅、

これから出会う様々な人達との遭遇、



そして、無理ゲーだった現実世界を

変えるべく、数多の夢の世界を巡る、



覚醒の物語である。



ーーといった具合だな。



もし、異世界物語があったならば、

この様な表現がピッタリだろう。



竜司は、聖女の言葉を噛み締めながら、

ゆっくりと、頷いた。



「頑張ります。」



その瞬間。



ーーピシッ!



割れた音が、空間全体に響き渡る様に、鳴った。



「時間ですね。」


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