Vol:19 覚醒
「俺は...」
「俺の人生が、大嫌いだった。」
竜司の独白。
誰もが、蓋をしてひた隠ししたくて、
たとえ、家族であろうと、恋人であろうと、
墓場まで持っていきたい秘密はある。
そして、一生、日陰に閉じ込め、
日の光を拝まない様、なかった事にしたい。
「死んだも同然の命だった。」
それが、人生であったならば、
生きるそのものが恥部だとしたら、
耐えられる人は、いないだろう。
「それを...何もできなかった...。」
だが、竜司は、今、勇気を発露する。
たとえ、他人から後ろ指を差され、
憐れみや同情、蔑まれたって構わない。
社会からの爪弾きされたって、それがどうした?
「クソみたいな現実を変えられる
キッカケを、探していたんだ。」
「小さい時からずっと、心の底で。」
「ほんと、気づくのが遅かった。」
「まさか、自分の夢だなんて。」
「こんなにも...近くだなんてね。」
「一人じゃなかった。」
少しだけ浮かべた笑みには、
嬉しさの他に、これまでの悲しみや
寂しさを含まれている。
だけど、もう、孤独じゃない。
生まれて初めて、竜司自身の意志。
その本音が、内から外へ、溢れ出していく。
「正直、世界を救うとか、調教とか、
現実を変える力があるとか。」
「全っ然、わからない。」
「今、自分ができる事さえ、
何かも、わかっていないしさ。」
「使命とか役割とか、勇者でもないのに、
特別なスキルや魔法もないのに、
どうしろっていうのが、本音。」
「実感もないし、余裕だってない。」
「けど...。」
彼の核心となる、コアが、鼓動する。
「これだけは、わかる。」
「自分を救わない、弱さを認めない人間が
今日という現実を、明日という未来の夢を
生きる事なんててできない。」
「心をよそ見する奴に、そんな資格はない。」
「俺は、俺の夢を、生きていく。」
自然と、彼の握る拳が強くなる。
「俺は、弱い。」
「不幸な人生だったかもしれない。」
「ずっと、悪夢を見ていたかもしれない。」
だけど、それが現実だと、誰が決める。
「そんなフザけた
強く握った右手の拳を、正面に突き出した。
ーーピシッ!
すると、目の前の部屋の空間に、
突如、ヒビが入った。
その空間の裂け目は、あっという間に、
全ての空間、四方八方へと行き渡る。
ーーガシャーン!
そして、ガラスが割れたかの様に、
粉々に、砕け散っていった。
それは、新しい舞台の幕開けを告げる様だった。
覚醒を迎える瞬間。
その光景に、これまで無表情だった
聖女は、微笑みを浮かべている。
新たなる門出を祝福する様に、見届けていた。
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