Vol:16 調教



「ハァッ!?」



女神の様な、神聖オーラを放つ聖女とは

かけ離れた、パワーワード。



まさか、そんな単語が出るとは、

予想だにしなかった。



竜司は思わず、うわずった声で、叫んだ。



「調教...?」



「って...えっ!?」



「俺が?女性に!?調教!?」



「一体、何をやらせるんですか!」



よからぬ想像がよぎり、頬を赤らめ、

素っ頓狂な声を出していた。



取り乱すものの、彼の言葉は、正直そのもの。



「調教」と聞いて、彼の脳内に広がった、

イメージは、赤い照明の灯る個室。



そこに、女性が、閉じ込められるシーン。



妖しくも、艶かしい雰囲気の中、相手は

タオルで目隠し、口を猿轡(さるぐつわ)で塞ぐ。



ゆっくりと脱衣、そして、全身を黒の縄で縛るのだ。



いわゆる、亀甲縛り。



薄ら明るい蝋燭の火で、溶けたロウを

背中に、ポタポタと、落としていく。



縛られた女性は、「うぅ..」と、うめき声。



その声は、とても艶かしい。



「誰が、声を出していいと許可した?」



ドSなキャラクターで、竜司が、

ニタッと、笑みを溢し、支配している。



他にも、用意したムチを使ったり、

おもちゃで、あんな事やこんな事を...。



「うぅぅ...。」



18禁の卑猥な映像が、脳内に放送され、悶えた。



未体験な彼にとって、これまでの人生で、

見知った中で、描いたイメージだ。



アダルトな漫画や動画でしか観た事のない、

偏ったシーンが浮かんでしまった。



動揺が、全身を駆け巡り、部屋が激しく揺れる。



たとえ、調教が、彼のユニークな力だとしよう。



しかし、性格的に、真逆の行為をするものだ。



童貞で、奥手で、チキンハートの持ち主。



そもそもが、ムチャな内容である。



ーーえぇウソ!?



ーー絶対に無理!



ーーやれっこない!



拒絶反応が起きても、おかしくはない。



未だに、空間全体が震動している状況で、

聖女は、微動だにせず、冷静に言葉を返した。



「厳密には違いますが、迷える雌豚ちゃん達に

鞭を打つ意味では、近いかもしれませんね。」



ーーメスブタ!?



ーー昼ドラでしか、聞いた事のないセリフ!



竜司の感情を刺激する、トリガーワードが、

わんさかと、彼女の口から、次々と出てくる。



慈愛に満ちた、唯一無二の美貌。



「清楚」という言葉が、この世に存在するのは、

彼女の為に用意されたといっても過言ではない。



その聖女の口から出た言葉が、「調教」、



しまいには、「雌豚」ときた。



おまけに、意味が近いと、意味深な発言のおまけ付きだ。



もし、某Youtuberの企画にありがちな、

NGワード選手権に参加したならば、

彼女に勝てる人物は、一生出てこないだろう。



もしくは、炎上やバズッて、トレンドになるだろう。



見た目と発言内容の、計り知れないギャップ、

その衝撃を、竜司は、肌身で体感したのだ。



ーーどうしよう...。



次第に、ガタガタと、身体が震え始める。



ーーヤバイ人に、絡まれたかも...。



ーー実は、サイコパスとか...?



竜司は、聖女と関わりを持った事に、

今更ながら、後悔の波が襲ってきた。



ーーヤバい実験に参加させられる?



ーーいや、実はもう、寝ている時には、

部屋にいて、その隙に、ヤバいモノを

注射されて、ここにいるんじゃ...?



ある事、ない事の想像のがんじがらめで、

心の底から、戦慄していた。



しかし、過程が何であれ、もはや後の祭り。



すでに、この世界に、足を踏み入れてしまっている。



その現実は、決して変わらない。



しかも、すでに、その当人である

聖女と、邂逅してしまっている状態だ。



運の尽きか、悪運とも呼ぶべきなのか、



ーー不幸だ...。



さっきまでの高揚感は、どこへいったのやら、

再び、部屋の隅で体育座りをしたくなる程、

竜司は、憂鬱になった。



現実逃避ならぬ、夢逃避だ。



ーーこれは...きっとそうだ。



ーー夢なんだ...。



ボソボソと、小声でボヤく。



「はい、夢ですよ。」



「現実世界の人目を気にせず、思う存分、

腕を振るって、雌豚共を調教できますよ。」



ここまでいくと、聖女の言葉は、もはや痛快だ。



ーーそういう言葉遊びに、付き合っている場合じゃなぁい!



開き直って、ツッコミんだはいいものの、

己に降りかかる運命に、逆らえないと悟る。



「今の喩えは行き過ぎましたが、

竜司さんは、それだけ強く、リードできる

男性になる必要があるという事です。」



「それだけの力があります。」



「見方を変えれば、王になる資質を持っています。」



「悩める人達の世界を救い、希望の光を

もたらすのは、王の器たる人物のみです。」



「その大きな可能性は、竜司さんの選択次第です。」


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