Vol:15 豆腐メンタル
「...。」
聖女の言葉に、竜司は、押し黙った。
とにかく、内容が重い。
何を、どこから、どう、話せばいいのか、
皆目見当がつかず、口が開こうとしない。
世界を救うだって?
そんな大それた事は、政治家や著名家など、
権力や権威のある人間が、やればいい仕事だ。
しかも、その為の専門的な知識もなければ
スキル、人脈、金銭、先立つモノがない。
ーー何故、非力な一般人に過ぎない自分が?
疑問や戸惑いがあるのは、無理もない話だ。
RPGゲームのプロローグで、
ある日、突然、勇者の素質があるから、
魔王の討伐をしてこいと言われる、
青天の霹靂、そのものだ。
そして、モンスターが出現する草原や
洞窟、ダンジョンや城などの危険極まりない
フィールド、
そこに、武器や防具を装備なしの状態で、
放り投げ出された様な状況である。
アフリカの猛獣達のいるサバンナに、
裸一貫で、放置された様なものである。
ーーこれで、どうしろと?
途方に暮れるのが、自然であろう。
しかも、勇者でもない、村人Aのモブキャラだ。
ブラック企業の社員も、顔が真っ青のレベルだ。
皮肉にも捉えられる、聖女の言葉に、
竜司は、項垂れるしかない。
メンタルは、豆腐の様に脆い。
「不幸だ...。」
ーーバカップルの盛んな声を、毎晩、聞く方がマシだ。
心の嘆きを、竜司は、漏らさずにはいられない。
しかし、聖女は、お構いなく、淡々と言葉を綴る。
「その使命を果たす為に、あなたの力が必要です。」
ーーハイハイ...。
ーー世界を破滅から救うの次は、力ですか...。
目の前で、大風呂敷を広げられた話に、
半ば、呆れの気持ちも湧いてきた。
稲妻や炎を出す呪文、回復したり蘇生する
ヒーリング魔法、隕石を降らせる黒魔術とか、
自分が想像する様な、特別な才能やスキル、
ジョブがないと、言っていたではないか。
そうツッコミを入れたい竜司だが、
自虐的で、無能力だとアピールする気分で
悲しくなったのか、余計に、気が滅入る。
両手を床につけ、身体全体で、ガックリと肩を落とした。
ーー一人になりたい...。
ーーあぁ、貝になりたい...。
竜司の引き籠り願望に、聖女は、スルー。
それ所か、彼の傷口に、塩を塗りたくる。
「当然ですが、竜司さんの想像する、
突拍子もない事はできません。」
「あくまでも、竜司さんは、夢の国の様な
ファンタジー世界の住人ではありません。」
「いくら夢でも、その点、理解しておいて下さい。」
ーー悪かったな、その程度の想像で!
ーー一回、ネズミさん達に怒られてしまえ!
逆ギレ気味に、悪態をつくのであった。
一瞬、彼の感情に呼応して、近くの本棚が
パンッ!と弾けた気がしたが、どうせまた、
すぐに戻ると、開き直る。
事実、その直後、壊れた棚は、元の形に戻っている。
「しかし、竜司さんは、現実を変える力はあります。」
「それが、女性だけでなく、世界をも、
救う鍵へと繋がっていくのです。」
聖女からの思わぬ言葉に、竜司は一転、歓喜した。
ーーやっぱり、自分には、勇者的な力が!?
ーーいやっ、それはないと言われたしな...。
ーー現実を変える力って何だ...?
とにもかく、平民以下の自分にも、
秘められた力があると、ワクワクで、
瞳は、キラリと、輝かせている。
「じゃあ、その力って一体、何なのですか?」
ーーここまで壮大な話なのだ。
ーーそれに相応しい、アビリティなのだろう?
そう期待したのも束の間、
とても、聖女には、似つかわしくない単語が、
彼の耳、脳へと解き放なれていくのであった。
「『調教』です。」
「竜司さん、あなたには、調教をしてもらいます。」
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