Vol:14 希少価値《はぐれメタル》



「互いの弱点をカバーする

関係性は、確かに、大切です。」



「それと、同じく、長所を伸ばし、

いかんなく発揮できるのも、然りです。」



「ですが、それとこれとで、

今回は、話が別になります。」



「結婚と恋愛をまぜこぜして考える様に、

複雑になってしまいますからね。」



「まずは、一つずつ、向き合っていく方が、

結果的に、話が早くなっていきます。」



「ひとまず、不安定な精神状態では、

ロクな人間関係にならない事を理解して

もらえたらと思います。」



気になる点は、幾つもあるが、

とりあえず、心の脆弱性で、色々な

不都合が起きている事は、理解した。



しかし、友人もいない竜司にとって、

この疑問自体が、何の価値があるのか。



ーーまぁ...どうでもいいか。



愚問だと、自らの浮かんだ質問に

虚しさを覚え、切り捨てた。



ーー俺には、関係ねぇ。



ーー完璧どころか、駄作だし。



生まれてこの方、両親からの愛、

褒めてもらい、心が温まる経験なんて

ないのだ。



むしろ、やる事なす事、否定の連続。



キズモノにされてきた、覚えしかない。



聖女にレクチャーを受けた事で、

何の現実が変わるだというのか。



強くてニューゲーム所か、

弱くてニューゲームの周回プレーを

余儀なくされるのが関の山。



ーーロクな人間しかいない。



ポッカリと空いた穴に、荒んだ風が吹く。



クラスメイトの楽しそうな談笑、

両親達のイライラに満ちた罵倒、

同僚達のコミュニケーション...etc



その風景が、モノクロ写真の様に映る。



ーー所詮、俺も、同じ穴の狢かまってちゃんか...。



夢なのに、現実を突きつけられ、

まさに、自身が嫌うタイプと同族と

気づき、嘲笑うしかなかった。



きっと、心のどこかでは、

血の通った交流を求めている。



そして、心の底から、腹を割って

話し合える人を求めている事も。



しかし、その一歩を踏み出せない。



そういう点では、審議はあれど、

承認欲求を満たそうとするあの様な

タイプの発信力とは、違いがある。



ーーこんな失敗作に、何ができると...。



異性はおろか、家族とも関係性を

築けなかった己の価値を感じられない。



「近い内。」



暗く沈んでいる竜司に、

聖女は、同情はしない代わりに、

予言として、口を開いていく。



人差し指を、矢印として、

行く末を暗示する様に示す。



「竜司さんの現実は、変わっていきます。」



「夢が変わる事は、すなわち、現実の変化。」



「今は、理解の範疇を超えていても、

近い将来、嫌でも、体感しますから。」



「この夢にいる限り、変わらないモノ

なんて、あり得ないですからね。」



ーー拒めば、バッドエンド一直線ですが。



「...えっ?」



最後が、頭に引っかかるが、

聖女の言葉は、竜司の心に、

強制力として働き、浸透する。



「いずれにせよ、この夢に来た瞬間。」



「竜司さんの世界、人生、生命活動。」



「その全てが、劇的に変わるのは、

確定事項で、拒否権もありません。」



「楽しみですね。」



ーーそれ...当事者が楽しむ余地がない様な...。



愉快げな口調に聞こえる気がしたが、

ある意味、聖女からの通告は、

神の宣告に近い、制約なのだろう。



「今は、レベル0の吹けば飛ぶ、

ノミレベルのモブキャラですが。」



ーーネームドにもなっていないのね...。



己の立ち位置を、わからされるのであった。



「これまでの負わされたきた傷も

いずれ、癒されていくでしょう。」



「まずは、この夢の世界にやってきた。」



「それだけでも、竜司さんには

希少な価値があるのだと、受け入れて下さい。」



「私が、勇者ならば、はぐれメタルとして、

経験値狩りをして、追い剥ぎしますよ。」



ーーそれ、褒めているの!?



不吉なワードを並べられるが、

聖女としては、今、ここにいる自体、

竜司の価値を評価しているのだろう。



「そういう訳で、竜司さん。」



「あなたに、世界を救ってもらいたいのです。」

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