Vol:10 ひとりぼっちのテーブル



竜司には、心当たりがあった。



まず、彼自身、これまで異性との交際経験がない。



しかも、産まれてから現在に至る、およそ30年。



そして、少子高齢化、晩婚化、生涯未婚率や離婚率が

年々、上昇している等のニュースを耳にした事がある。



ただ、その理由が、何かまでは不明であった。



それに、そこまで分析できる程の、理知もない。



が、聖女は、その根本に、踏み込んでいく。



「その原因は、男性にあります。」



紛うことなき断言、



竜司は、ムッとする怒りを覚えた。



ーー何を知った口を...。



もし、SNSでこの様な発言したら、

炎上は免れない、非難轟々の案件だろう。



だが、聖女は、淡々と話を進めていく。



「その理由は、精神的に脆い男性が多くなり、

それが、女性に不信感を与えているからです。」



「結果、生涯を共にしたい、運命の人に出会えず、

生涯、孤独に過ごす人も、多くなりました。」



竜司は、更に、イラ立ちを感じる。



確かに、彼が、現実に住んでいる国は、

年々、人口が減少している問題がある。



その要因は、様々だろうし、一概には言い難い。



しかし、聖女は、それらをひっくるめ、

いや、ちゃぶ台をひっくり返す様に、

男性側に問題があると、断定したのだ。



たとえ、相手が、何千年、何万年に

一人の美女だろうと、関係ない。



どれだけ、竜司が未経験の童貞だとしても、

男性サイドに問題が、あったとしても、だ。



竜司の男性としてのプライド、



DNAに刻まれた、本能が拒否している。



タブーに触れられた感覚がしたのである。



だから、彼は、自然と、怒気を含む、質問をした。



「どうして、そうだと言えるのですか?」



怒りをはらむ、竜司の問いに、聖女は答える。



「現実では、男女平等が叫ばれて、久しいですよね?」



「女性が、社会進出する様になり、いわば、

男性に頼らずとも、経済的にも、精神的にも

自立する女性が、増えてきました。」



「竜司さんも、共働きの両親の元で育ちましたよね?」



聖女の問いかけに、竜司は、回顧する。



彼は、いわゆる、鍵っ子だった。



学校から、家に帰ってきても、両親は、

日中、仕事でいなくて、家の鍵を持っていた。



「ただいま」と言っても、「おかえり」の返事はない。



ただ、彼の帰宅メッセージだけが、木霊するだけ。



テーブルには、出来合いの晩ごはん、

あるいは、夕食分のお金が置いてあった。



冷たいご飯に、愛情を感じなかった。



その過去が、彼の脳内に、思い出されていく。



「これまでの人類の歴史を辿ると、男性と女性、

それぞれ違う、明確な役割がありました。」



「しかし、現代では女性側の

環境だけが、急激に、変わりました。」



「いわば、女性も、男性と同じ事ができる様になりました。」



「この事に、良い・悪いはありません。」



「これも、時代の流れです。」



「問題は、その変化に、男性が対応できていないのです。」



「その影響で、無意識に、男性は、

自らの存在意義や価値が、揺らぎました。」



「いわば、精神的な弱体化です。」



聖女の説明に、竜司は、合点がいく事があり、

改めて、両親との思い出を、振り返っていく。



父親は、前時代の人間だった。



男尊女卑な面があり、台所に立って料理や、

掃除や洗濯はおろか、育児にも参加しない。



全て、母親に、放任していたのである。



キッチンで喫煙する以外、一切、立ち寄らない。



日付を超え、深夜に帰宅するのも、珍しくなかった。



一方、母親は、父親と同じく働いているのだが、

育児や家事と、する事が多く、夕方には帰宅していた。



しかし、父親の非協力的な態度に、

ストレスを感じ、いつも口論していた。



父親は、いつも高圧的で、母親の意見を受け入れない。



むしろ、逆上する始末である。



そこに、時代の変遷に伴う価値観や、

女性の変化を受け入れられない部分も重なった。



自分よりも同じ事ができて、しかも、

要領よく、タスクを日々、やってのけるのだから、

男のプライドに、傷がついたのだろう。



だから、断固として、母親と折り合おうとしない。



結局、家庭崩壊するのも、時間の問題。



最悪のシナリオに、竜司は、巻き込まれたのだ。



そんな家庭環境の背景もあり、

竜司には、一家全員が揃ってテーブルを囲い、

食事をしたという、記憶がない。



いつも、父か母の片方、もしくは、誰もいなかった。



一人ぼっちのテーブルに、ひとりぼっちの心で、

寂しさに耐えながら、過ごしていた幼少期。


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