Vol:9 ご都合主義なストーリー



「...ハイ?」



聖女の思いがけない言葉に、竜司は、面食らった。



てっきり、魔王、悪い親玉、独裁者、暴君など、

この世界をどうのこうのと、侵略や支配、



そこに、現実世界の眠りから目を覚ましたら、

違う世界にやってきた...



いわゆる、異世界転生ストーリーを想像していた。



または、RPGの主人公が、魔法や魔術、

特別なスキルやジョブ、伝説の武器、



はたまた、チートな能力が開花して、

バンバンと敵を打ち倒しては、蹂躙する、

「俺、強ぇぇ!」的な無敵キャラ、



もしくは、可愛いエルフ達と、ハーレムとか!



ーー遂に、陽の目を浴びる時が...?



期待はしないと、思ってはいたものの、

一方で、下心満載で、鼻息を荒くしている

拗らせた童貞心がある事も期待していた。



しかし、その幻想は、一瞬にして、消え失せる。



「一つ、お伝えしておきますが、

竜司さんの考える、特別な能力や才能の類は、

一切、ありません。」



「それに、ご都合主義をこしらえたストーリーは、

所詮、現実逃避をしたいが為の、詭弁に過ぎません。」



ーー仮に、私が、神様だとしても、

竜司さんを、そんな温い世界に転生させる気も

分不相応な力を授ける気もしませんしね。



一気に、現実に引き戻される、トドメだった。



あまりにも、残酷な宣告。



何でもアリの、夢の世界と思い込んでいた。



悲惨な現実から逃れられる、



新しく人生をやり直せる、バラ色の未来。



特別な力が無くても、良い。



煩わしい現実の縛りから解放され、

スローなライフスタイルを送る。



とにかく、藁をもすがる心境だった。



しかし、そのわずかな可能性も、潰えた。



更に、聖女は、無慈悲に、畳み掛ける。



「ここは、数ある夢の一つに過ぎません。」



「目が覚めても、また現実に戻ります。」



そもそも、異世界転生や転移の話でもなく、

完全に、竜司の希望は打ち砕かれてしまった。



夢の中でさえ、突きつけられる現実、



とうとう、竜司は、逃げ場を失ってしまう。



ーーじゃあどうして、ここにいるんだよ...。



やり場のない悲哀に満ちた、心痛な表情の

竜司の疑問に、聖女は、間髪入れず答える。



「あなたの力に、鍵があるからです。」



今更な事を言われても、無能な自分に

何ができると言えるのか。



「夢でも現実と同様に、こうして

動けているのが、何よりもの証左です。」



「ほとんどの人は、それができません。」



「たとえ、夢を見ても、ただの夢だと思いますし、

目を覚ましても、すぐに、忘れてしまいます。」



「まさか、夢の中で、動けるとは思いもしないでしょう?」



当然の話なのかもしれない。



ほとんどの人は、夢と現実は違うと、線引きをしている。



もし、夢の中にいても、ここが夢だと気づき、

現実と同じ動きができると思う人は、皆無だろう。



だが、竜司の場合は、違う。



イレギュラーとはいえ、今、こうして、存在している。



いつも、過ごしている日常と変わらず、

身体を動かし、会話もできている。



ある意味、不思議の国のアリスの様だ。



気づいたら、違う世界に迷いこんだ、

ファンタジー作品に、近いのだろう。



だが、聖女の言葉を借りるならば、竜司には

特別な才能もなければ、スキルもない。



ましては、勇者でも、大賢者でもなく、

特別な階級や名家の生まれでもない。



ただの、一般人である。



RPGならば、村人Aのエキストラが関の山だ。



おまけに、ずっといられる訳でもなく、

新しい生活を送る事も、不可能である。



だが、それでも、竜司には、

世界を救う可能性を秘めている、と言う。



ーー凡人な俺に、そんな大それた事を?



若干の疑問の余地は、残っている。



けれども、現に、99%以上の人ができない事を

竜司は、やってのけ、その領域に踏み込んでいる。



その事実を考慮して、彼はわずかながらでも、

聖女の言葉を、受けとめられる様になってきた。



ーーじゃあ、男性が絶滅の危機って?



次なる、謎が浮かぶ時、聖女は答える。



「シンプルにお伝えします。」



「女性が、魅力的に感じる男性がいません。」



「つまり、この人と家庭を築き、子孫を残そうと

思える男性が、希少になりつつあります。」



「それに関連した話は、聞いた事があるでしょう?」


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