Vol:8 夢と感情



ーーこれは...!?



驚きのあまり、竜司は、己の目を疑った。



鏡に映っている自身の姿。



細マッチョ、6パック、セミロングの金髪...



まさに、思い描いていたイメージと一致した。



ここまで、予想を遥かに超える出来事に、

竜司は、理解が追いつかず、閉口してしまった。



鏡を前に立ち尽くして、言葉を無くす彼に、

聖女は、噛み砕く様に、解説をした。



「夢は、竜司さんの潜在意識とリンクしています。」



「つまり、竜司さんの感じた事や考えた事が、

この世界では、そのまま現象として反映されるのです。」



ーー信じられない...。



頭では、わかっているつもりだ。



だが、本能が、拒絶的な反応を示している。



無理もない。



まさか、本当に、自らがイメージしたモノが

そのまま反映されるのは、夢物語だと思っていた。



だが、今、竜司が見ている現実モノ



それは、宝くじが当たる様にと祈って、

購入したら、高額当選したのと同様、



ーーあなたの考えた事は、現実になるのです!



ーーお金持ちになると思ったら、そうなるのです!



ーー信じる者は救われるのです!



現実世界の、カルト的な宗教組織や、

スピリチュアル系統の団体にありがちな

オカルトチックであり、胡散臭い話。



それが、本当に、現実ならば、誰も苦労はしない。



現に、竜司の場合、今まで散々な目に遭ってきた。



それが、簡単に報われる程、世の中は甘くない。



どこか、冷めた目線で、現実を見る部分があった。



しかし、竜司自身が、身をもって知った

体験は、半ば強制的に、信じざるを得ない。



これまでとは、全く違う事情に、竜司の身体は、

まだ、適応できていない。



「先程、竜司さんに、動揺や苛立ちがありましたが、

それも実際に、反映されていましたよ。」



「気づいていなかったでしょうが、竜司さんの

動揺で、地震が発生して、揺れていました。」



ーー怒りの時は、一部が爆発していましたけど。



聖女は、補足を付け加えつつ、

夢と感情の繋がりを伝えた。



竜司は、聖女の話を聞いても、

今、彼の見ている現実は歪み、空間でさえ、

曲がっているのではないかと、錯覚した。



ーーカタカタカタカタ...。



多少の動揺か、彼の部屋が、小刻みに揺れ始める。



「大丈夫ですよ。」



「一度、この事実を自覚をしてしまえば、

感情は落ち着いていきますし、次第に、

揺れも、収まっていきます。」



まだ、情緒が安定しない竜司を前にしても、

聖女は、至って、冷静にアドバイスを送った。



聖女の言葉は、竜司の心に、澱みなく、入っていく。



まだ、出会っても間もないのに、

不思議と受けいれられるのは、彼にとって

初めてである。



竜司は、落ち着きを取り戻す。



それと、同時に、部屋の揺れも収まっていく。



「ふぅ...。」



一呼吸を入れた所で、いつもの部屋の状態に戻った。



やっと、この現実ゆめを受け入れられる様になってきた。



「これが、夢の世界です。」



「理解できましたか?」



聖女の問いに、竜司は無言の頷きで、答えた。



「では、本題に戻りましょうか。」



聖女は、ここで、ようやく、最初の話に戻していく。



「もう一度言いますが、竜司さん。」



「この世界は、滅びの危機に瀕しています。」



「そして、それを救うのは、あなたです。」



改めて、本題を聞いたのはいい。



それでも、竜司の脳は、言葉の意味を処理しきれない。



「夢の世界にいる事は、理解できました。」



「でも、世界の危機に、何の関係があるのですか?」



思わず、彼の口からこぼれた言葉は、

至極、真っ当な疑問である。



一体、自分がこの夢の世界にいる事と、

世界の危機に何の関係があるのかと、

疑念が浮かぶのは、自明であろう。



何も取り柄もなければ、特別な才能もない。



物心を覚えてきた頃から蔑まれ、

明日の生きる希望もない。



ーーきっと、この夢は、すぐに終わる。



心のどこかで、まだ、夢だと思い込む自分がいる。



暗い陰が、彼の心を覆っている。



「結論から、お伝えしましょう。」



聖女は、竜司の問いに、一切の躊躇なく、口を開く。



「男性が、絶滅の危機にあるからです。」


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