Vol:11 ホコリに被れた記憶
ーーない...。
どれだけ遡っても、徒労に終わる。
時を巻き戻す行為自体が、ムダであった。
家族との思い出や記憶。
竜司の脳に埋没した、あらゆる家族の資料は、
どこまで探しても、見当たらない。
ネガティブの感情の痼り、残されていない。
ホコリ被った、古びれた記録しか残されていない。
ーーもし...。
両親が、人として、接してくれたら?
円満な家庭になったのか?
もし、父親がクダらないプライドを捨て、
父親、男性だからこその役割を果たしたら?
母親の意見を聞き、改善しようとしてくれたか?
ーーくだらねぇ。
万が一の可能性のない、
しかし、現実は、違う。
父親は、この夢の世界では、
心は、常に揺らいでいたのかもしれない。
ーー俺がいても、いなくても、一緒だ。
無意識にそう感じる、虚無感や怒りがあった。
ーーアイツらが、悪い。
ーー憎い。
ーーいなくなってしまえばいい。
憤怒に満ちた心の矛先は、
家庭内暴力や暴言、破壊活動など、
他を傷つける、八つ当たりをした。
我が子にも、虐待し、家族を、壊した。
竜司自身、そういった家庭環境や
異性と未経験いう影響と重なって、
男性としての存在価値を感じられない。
いつも、心の土台は、不安定。
『自信』を持てなかった。
本屋で、流行っている自己啓発書にある、
自信をつける、自己肯定感を高めるとか、
その様な類を読んでも、一切の共感がない。
現代では、元々、獲物を狩るという、
男性の役割は、女性もできる様になった。
むしろ、男性より、狩猟スキルが優れる人もいる。
今となっては、特段、珍しくもない話だ。
その現実が、何万年もの間、
男性に刻まれてきた遺伝子を刺激してしまい、
反発心が生んだともいえよう。
聖女の言葉は、竜司のみならず、
全人類の男性諸君の芯を喰らう内容でもある。
竜司は、これまでの記憶を思い出していると
ほんの少し前まで、いらだっていた感情は、
いつの間にか、消失していく。
しかし、彼の生い立ちは、心に暗い影を落とす。
当時の記憶が蘇った事で、彼の器には、
ドクドクと、黒い泥が流れ込んでいる。
「もちろん、女性側も、影響を受けています。」
そんな竜司のダークな気持ちを知ってか知らずか、
聖女は、より内容を深め、彼を誘う。
「男性の深層心理に脆弱さが現れた事で、
女性にも、綻びが生じました。」
「彼女達が頼りにした、守ってくれる
男性達がいなくなってしまった。」
「それは、言い換えれば、自立せざるを
得ない状況になったとも言えます。」
「急に、男性の役割を兼務する事になる
そのプレッシャーや負荷は、計り知れません。」
「だから、いつ、緊張の糸が切れても、
おかしくはない、不安定な状態です。」
ーーそうか...。
竜司は、ハッとした。
これは、男性だけの問題ではない。
ヘタをすると、共倒れの危険がある。
彼の母親も思い返せば、尋常ではない負担だった。
それまでの家事や育児の家庭を守る役割に加え、
働きにも出ていたのだ。
やらなければならないタスクが増え、
心休まる時が、なくなってしまった。
どの役割も、放棄は、許されない。
失敗しようものならば、家族が、
バラバラになる恐れも抱えていたのだろう。
そして、ある日突然、
その糸は、プッツンと、切れてしまった。
育児や家事を放置してしまい、離婚、
それに加え、蒸発し、行方をくらます。
客観的に見れば、毒親であるし、
竜司は、自信を捨てた母親を許していない。
彼にとって、家族は、トラウマ。
しかし、聖女の話で、竜司は、冷静になれた。
もちろん、今でも、両親への怒りはある。
しかし、事情が変わった。
両サイドの問題を認識した事に加え、
不思議と、聖女のレッスンは、彼の身体に
染み渡る様に、受け入れられていく。
そして、ここでテーマが、変わっていく。
「ここで、新たな問題となるのが、結婚です。」
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