Vol:6 夢の世界



ーー一体...これは...?



窓の外から見える景色は、竜司が、

いつも、見ていたモノとは、明らかに異なり、

言葉を失い、呆然としてしまった。



文字通りの、別世界。



アパートやマンションが立ち並ぶ、

日本の住宅街にいるはずが、彼の目には、

ヨーロッパの街並みが広がっているのである。



レンガブロックを基調にした石畳の道路や建物、



そして、外国人達が、闊歩している。



日本人は、皆無であった。



あまりにもかけ離れた、異国の土地、



閉口している竜司は、状況の整理が追いつかない。



ーー何がどうなって...?



腰が抜けた様に、その場から崩れ落ちて、愕然。



ーー夢...じゃないよな?



試しに、ほっぺをつねってみる。



「痛い...。」



ただ、爪に当てられた部分の頬が赤くなり、

痛みを感じるだけ。



信じがたいが、現実らしい。



謎の存在に起こされた事から始まり、

世界の存亡や夢の世界などの妄言、



電話が通じない、部屋から出られない、

そして、窓を開けて、外を見渡したら外国...



次から次へと、竜司の身に起きている異変、



その理解が追いつく事はなく、脳内はカオス。



何をしたらこうなるのか、



テレビのバラエティ番組にある

ドッキリ企画の範疇を超えているし

そもそも、そういう類に応募した事はない。



この状況を、どう説明がつくのか、整理がつかない。



寝ている間に、タイムマシーン、はたまた、

ワープ装置に乗せられて、移動してきたのか、



それは、SFストーリーの作品のフィクションであり、

現実世界では、開発どころか、その仕組みでさえ、

科学では、解明されていない。



とうとう、精神がおかしくなってしまったのか、



気づいていない間に、もう心は、とうの昔に、

消耗しきってしまい、それが、今日、遂に、

現実逃避する為に、脳が見せる幻覚や倒錯なのか、



確実な答えには、辿り着けず、竜司の感情は、

えも言われぬ、恐怖や不安に、覆われている。



「気は済みましたか?」



動揺を隠せず、体を震わせている竜司をよそに、

その存在は、語りかけてきた。



その言葉によって、彼は、我に返り、パニックを

どうにか、落ち着かせようとする。



しかし、気はすむどころか、荒れる一方。



そして、この不可解な問題を解決し、

気を確かにする為には、この人物と話す以外、



選択肢は、もう残されていないと悟る。



唇を震わせ、竜司は、意を決して、

声がする方向へ、言葉を絞り出す。



「とりあえず、現実では、到底、

あり得ない事が起きている事は、わかった。」



眼前に広がっている現象を、再確認し、

自らにも言い聞かせる様に、話し始める。



聞きたい事は、山ほどだ。



しかし、その前に、確かめなければならない。



「色々と尋ねる事があるけれど、

その前に、聞きたい事がある。」



「あんたは、何者だ?」



そもそも、この元凶を作り出したであろう

姿を見せないホラ吹き少年な存在に、竜司は、

苛立ちをぶつける様に、問いただしていく。



まずは、相手を知る必要があった。



その問いに対して、相手は、躊躇なく、応答した。



「最初から、目の前にいますよ。」



すでに、竜司のすぐ近くにいる事を

さも当たり前かの様に、居場所を伝えた。



「最初からって...。」



トンチを試されている様な返答に、竜司は、戸惑った。



目を覚ました時から、今の今まで、

この部屋には、竜司、ただ一人しかいない。



にもかかわらず、その存在は、最初からいる、

という回答に、納得がいくはずがない。



「さっきから、見かけないから...」



ーーそう聞いているんじゃん。



そのセリフを最後まで言い終える前、



竜司の視界は、その目の前にいる存在を捉えていた。



そして、最後まで言葉を言い終えない内に、

彼は、またもや、言葉を失う事になった。


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