Vol:5 オオカミ少年



「...ハァッ!?」



竜司は、突然の宣告に、理解が追いつかず、

声が上擦り、素っ頓狂になった。



ドラマや映画、あるいはアニメでしか聞かない言葉を

リアルに、言われるとも思わず、衝撃的だ。



しかし、遅刻の件で、心が打ち砕かれている

竜司にとって、際どい心理状態である。



すっかり、折れてしまっているメンタルで、

「はい、そうですか。」と、聞いている余裕など、

これっぽっちもないのだ。



ーー何を言っているのだ、この人は?



むしろ、信憑性のない、言葉に聞こえた。



それは、当然であろう。



いきなり、寝ている所を半ば起こされ、

挙げ句の果てに、「世界が滅びる。」と言われ、

信じる信じない以前に、不審者である。



もしくは、世界のどこかにいる権力者が、

国民を裏から操ろうとする画策している、



いわゆる、陰謀論などを信じている、

オカルトやスピリチュアル系が好きな人による

押し付けがましい盲信の布教か?



いずれにせよ、自宅に不法侵入する人間の話は

聞くに値しないだろう。



ーー警察を呼ぶか?



プライベートな空間に文字通り、土足で

入り込んできた、カルト宗教のエセ教祖じみた

セリフを放つ、この人物の対応に、一考する。



しかし、その存在は、最初から、知っていたかの様に、

竜司の思考を、強制的にシャットダウンした。



「警察に連絡しても、無駄ですよ。」



「ここは、夢の世界ですから。」



「ハァ!?」



竜司は、更に、異常さを理解する。



世界の破滅の次は、夢の世界にいる。



オオカミ少年ですら、その様なホラを

吹聴しないだろう発言に、驚きを超え、

もはや、呆れの気持ちが、芽生える。



ーーあとで、変なモノを売りつけられるヤツだ...。



恐怖を煽り、あたかも真実の様に、信じこませ、

そのネガティブな結果を回避する為に、商品を

売りつける、宗教組織の手口を、思い出した。



警戒レベルをマックスまで、引き上げる

竜司だが、その声は、意に介さなかった。



「試しに、電話をかけてみても、構いませんよ。」



竜司の心を見え透いた、煽りを入れる余裕すらある。



「そして、窓の外を見て、確認して下さい。」



しかも、軽くいなさんとばかりに、提案をしてきた。



ーーさっきから、何なんだよ!



まるで、挑発めいた言葉に、竜司は、イラついた。



ーーじゃあ、やってやろうじゃん!



ーーとっつかまえてやる!



売られた喧嘩を買う勢いで、人生初の、110番通報をする。



しかし、



「...なんで?」



通常ならば、全国、津々浦々、

どこにいてもかかり、日本の共通の番号の

警察へのコールが、繋がらなかった。



ーー電波の繋がりが悪いのか?



そう思い、場所を移して、再度、掛けてみる。



だが、何度試みても、一向に出る気配が、ない。



ーーならば!



携帯のスイッチを一度切り、再起動してから、

改めて、連絡するという、手段をとってみる。



そして、再度、110番コール。



けれども、結局、繋がる事がなかった。



ーーおかけになった番号は、現在、使われておりません。



忍び寄る、日常のイレギュラーに、

竜司の心が、少しずつ、恐怖に染められていく。



ーー何かの間違いだ!



目の前で起きている現実が信じられなくて、

竜司の思考は、混乱している。



このままでは、埒が明かない。



次に、直接、交番で助けを求め、ついでに、

このインチキ占い師を、捕まえてもらおうと思った。



しかし、今度は、家のドアが開かない。



「どうしてだよ!?」



焦りは、イライラに変わり、語気も荒くなっていく。



そのイラつきをぶつけるかの様に、

ドアを蹴ったり、ドアノブを引っ張ったり、

タックルをするなど、色々と試みる。



けれども、傷一つ付かず、びくともさえしなかった。



「こうなったら...」



最後の手段として、窓からの脱出を試みる。



慣れ親しんだ、自宅を離れるのは、口惜しい。



けど、得体の知れない、正体不明の狼少年の狂言を

ずっと、聞いているよりも、はるかにマシだ。



ーーパチンッ!



幸い、窓のロックは、すんなりと解錠できた。



「やっと、外に出られる...」



竜司は、胸を撫で下ろし、安堵の表情を浮かべる。



ひとまず、危険を回避できると安心し、

窓を開け、外の景色に目をやる。



だが、窓から見えた光景に、竜司は、絶句した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る