Vol:4 起きてください②
「起きてください。」
その言葉に反応して、眠っていた竜司は、目を覚ました。
「誰だよ...?」
「ってか、今、何時だ?」
眠気と、起こされた事によるイラつきで、
竜司のご機嫌はナナメであった。
が、
寝起きの悪かった、彼の意識がハッキリするのに、
そう時間はかからなかった。
時計の針が差していたのは、午前8時13分、
たとえ、今から寝巻き姿で、無精髭の状態で、
家を飛び出しても、会社まで、1時間かかる距離。
つまり、彼の遅刻が、決定した瞬間である。
「嘘だろ...!?」
同時に、彼の米粒程度ものプライドは、脆くも崩れ落ちた。
学生時代から数えて、一度も、遅刻や休みをした事がない。
それが、彼にとっての、唯一の自慢でもあったのだ。
ーーお前の居場所なんてないから。
ーーお前の席なんてないから。
実際に、直接的に、言われた事はない。
だが、竜司は、家にいても、学校にいても、
そう言われている様な錯覚に陥る程、
どこに行っても、心は、落ち着けなかった。
唯一、外に出ている時間だけ。
抱えていた鬱屈した気分は、気休めになった。
だから、朝起きたら、どれだけ体調が悪くても、
身体を引きずってでも、家を出たくて、仕方がなかった。
そういった背景もあり、結果として、
無遅刻・無欠席の皆勤賞を獲った、
バックヤードがあるのだ。
学校から貰った、皆勤賞の賞状は、家宝級。
そして、会社員になった、現在に至るまで、
遅刻や欠勤で、仕事に穴を開ける事がなかった。
しかし、時計の針は、残酷にも、その終わりを告げる。
ーー終わった...。
支えとなっていたモノが、簡単に、折れてしまった。
元々、マイナスのポイントであった、
自信という名の数字や評価は、暴落。
負の感情が、彼の身体や心、全てを覆っていた。
身体の力は抜け、肩をガックリと落とし、
メンタルは、削れてボロボロの状態。
ーーもう、いっか。
プッツンと、緊張した糸が、切れる音が聞こえてきた。
全てがどうでも良くなり、このまま、連絡も入れず、
フェードアウトする様に、社会から、消えよう。
ーーどうせ、自分の代わりなんて、いくらでもいる。
明日からの生活なんて、これからの未来なんて、
考える事すら、バカバカいく、滑稽。
何もかもが、投げやりで、生きるのを諦めかけた。
そんな竜司の状態に構いなく、再び、声が囁いてきた。
「ようやく起きましたか。」
「あなたに、お話しがあります。」
竜司以外、誰も入ってきた事のない自宅に、
聞き慣れない声が、先ほどから聞こえてくる。
「...誰ですか?」
落ち込んでいる竜司ではあったが、
なぜか、不思議と、彼の脳内に浸透してくる
その声を、無視する事ができなかった。
恐る恐る声の主に、顔を強ばらせながら、尋ねる。
「私の事は、いいです。」
「それよりも今、とても危機的な状況なのです。」
シリアスな内容であるはずなのに、その人物の返答に、
焦りや緊張といった、色がなかった。
一方の、竜司はというと、姿・形の見えない、
正体不明の存在が、自分の部屋にいる事もあってか、
聞かないといけないという、強迫観念。
何をされるのかわからない、恐怖心があった。
だが、遅刻をしてしまったという事実が、
尾を引く様に、精神的なダメージが残っており、
正直、聞いていられる余裕はい。
グチャグチャで整理がつかない状態で、話が始まったのである。
カオスな心境の竜司に、続け様に、こう告げられる。
「あなたが救わなければ、世界が滅びてしまいます。」
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