第49話 社畜、ダンジョンに戻る

「生田、そろそろ離れたらどうだ?」


「離したらまたいなくなるだろ!」


 あれから20年経てば、生田は40代だろう。


 そんなおじさんに抱きつかれても、俺は嬉しくない。


 できれば今の言葉も可愛らしい女性に言われたいものだ。


「とーたん、ゴボタの!」


 そんな生田を見て、ゴボタは負けじと俺の脚に抱きついて離そうとしない。


 ゴボタに抱きつかれるのは悪い気がしないな。


「んっ、お前にも息子が……ゴブリン!?」


 生田はゴボタの存在に気づいたのか、すぐにその場を離れた。


 それにしてもゴボタを一瞬にしてゴブリンと気づいたのには驚いた。


 心菜も初めて見た時は戸惑っていたからな。


「あっ、生田さんも能力者なんです」


 その言葉に俺はゴボタを抱きかかえて警戒を強める。


 いくら同期でも、我が子を狙うやつは見逃せないからな。


「おいおい、俺は戦う力が一切ない能力者だ」


 生田は両手をあげて、戦う気がないことを示した。


 それにしても母と同様に戦う力がない能力者が身近に多いことに驚きだ。


 俺もどちらかと言えば、それに当たるのだろう。


「生田はどんな能力が使えるんだ?」


「あー、俺はモノとして認識したことの本質を見る力だ」


 何か難しいことを言っていて、俺にはパッとしなかった。


 世間の能力者はみんなこんな感じなんだろうか。


 隣でゴボタも首を傾げていた。


「この力でその子がゴブリンだって気づけた。それに今着ている服の価値までわかるぞ」


 モノって物だけではなく、者の価値もわかるようだ。


「ちなみにとーたんの息子の大きさや長さ、戦闘時も全部――」


「おいおい、それ以上言ったら許さないからな!」


 俺の股間を凝視していると思ったが、まさかそんなところの価値までわかるとは思わなかった。


 それにさっきからニヤニヤしてムカついてくる。


「あっ、ついでに心菜ちゃんのスリーサイズ――」


 そんな能力があったら人生パラダイスだろう。


 気づいた時には生田は心菜に殴られて吹き飛んでいた。


 20年経ってもお調子者の性格は変わらないようだ。


「生田大丈夫か?」


「ああ、これでも自衛はできているからな」


 生田は首元に着けてきたネックレスを俺に見せてきた。


 その先には何かダイヤモンドみたいな物が付いている。


 どこかで見た覚えがあるぞ?


「最近見つかった新しい魔法石で作った魔導アクセサリーだ」


 その言葉を聞いて、俺は見慣れているものだと気づいた。


「あー、それって魔宝石のことか」


「魔法石を知っているのか?」


「いや、多分生田の思っている魔法石とは違うぞ」


 不機嫌な心菜は鞄から魔宝石を取り出した。


「お兄ちゃんが行方不明になっていたのは、ダンジョンで迷子になっていたからです」


「ふふふ、迷子か」


 生田は俺の顔を見て笑っていた。


 あれ?


 なんか生田も母親の時と同じような反応をしている。


「そこのダンジョンに魔宝石がたくさんあるんです」


「んっ? この魔法石って最近できたダンジョンから見つかったんじゃないか?」


「ええ。お兄ちゃんはダンジョンが解放されるまで、ダンジョンで迷子になって、気づいたら20年経っていました」


「うええええ!? だからお前だけ見た目が変わっていないのか!」


 やっと俺がダンジョンで迷子になっていたことを理解したのだろう。


 生田も俺の見た目が変わっていないことを気にしていた。


 俺の顔を掴み、肌のキメの細かさまで見てくるほどだ。


 それは能力でどうにかならないのだろうか。


「よし、俺もそのダンジョンに連れてってくれ!」


「えっ?」


「どうせまたダンジョンに戻る気なんだろう?」


 生田は手に持っていた遺骨を見ていた。


 俺の母親が亡くなったことを感じ取っていた。


 シングルマザーに育てられたことは知っているからな。


「俺は戻る気だけど、探索者じゃない俺がダンジョンに入って止められないか?」


「そこは大丈夫ですよ? 死ぬ寸前まで意識を刈り取れば、探索者なら死なないしね」


 やはり心菜は成長の仕方を間違えたようだ。


 生田の顔を見ても、若干顔が引き攣っていた。


 俺達は生田を連れて、電車に乗ってあるところに向かった。



「チッ、やっと今頃迎えに来たのか!」


 足を組んで舌打ちをしているのはリーゼントだ。


 火葬場にも連れて行けないし、車で行くにも実家が遠いため、リーゼントはペット用のホテルに預けていた。


 ちゃんとおもちゃやお菓子も渡したが、環境が合わなかったのだろう。


「寂しかったのか?」


「なっ!? そんなはずないだろ!」


 肉球で俺を叩いているが、正直犬と戯れている飼い主にしか見えないだろう。


 生田もそんなような表情で……見てなかった。


「コボルトが話してる!?」


 やはり普通のコボルトは話さないようだ。


 それにしてもリーゼントに何かあったのだろうか。


「リーゼントくん、女の子達に振られてずっと悲しそうにしていたんですよ」


 そんな俺達にペットホテルで働く従業員が声をかけてきた。


「振られたんですか?」


「ええ。すごい勢いでみんな逃げちゃって、女の子だけならわかりますが、大型犬の男の子まで逃げてしまって……」


 どうやら友達や恋人ができなかったことに、落ち込んでいたようだ。


 従業員も申し訳なさそうにしていた。


 別に誰が悪いってわけではないからな。


 コボルトでは、普通の犬と関係を持つことが難しいことを俺達は知ることとなった。


 落ち込んでいるリーゼントを抱きかかえて、俺達はダンジョンに戻ることにした。だが、到着した瞬間に異変を感じた。


「ゲートの管理するやつがいないけど大丈夫か?」


 その言葉に心菜と生田は顔を見合わせていた。


「ホワイトちゃんが危ないかもしれない!」


「どういうことだ?」


 心菜は急いで車を止めて、ダンジョンのゲート前まで走っていく。


 本当に動き一つ一つが速くて、全くついていけない。


 急いで追いついた時には、心菜の中で問題が整理されていた。


「探索者達が勝手にダンジョン攻略を始めたってことか」


 どうやら俺達が元の世界に戻ってきてから、すぐに探索者達が勝手にダンジョンに入っていったようだ。


 俺達はすぐにダンジョンのゲートに足を通した。

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