第50話 社畜、変化に驚く

「なっ……なんだこれ……」


 ダンジョンの中に入ると、草原が戦場になっていた。


 地面に突き刺さる剣や槍。


 無数に矢が刺さって、凄まじい戦いがあったと誰が見てもわかるほどだった。


 それに周囲には血痕がいくつもある。


「お前、こんなところに住んでいたのか?」


「いや、俺が出ていくまではただの草原だ」


 このダンジョンに初めて来た生田には、戦場に来ている感覚だろう。


「ほわとー!」


「ホワイトー!」


 俺達はすぐにホワイトを探す。ただ、探索者の姿も見当たらない。


 ホワイトやゴブリンも探索者にやられたのだろうか。


「みんなしゃがんで!」


 突然心菜が叫んだ。


 声に反応して、俺達はその場でしゃがみ込む。


 空に舞う無数の武器達。


 心菜はそれを一つも近づけずに弾き飛ばす。


 彼女が探索者の中で最強と呼ばれていた理由が改めてわかった。


「誰かが近づいてくるぞ」


 生田はスキルを使って何者かが近づいて来ているのがわかるのだろう。


 距離が結構あるからか、俺には手足が長いスタイルの良い人達の集団にしか見えない。


 きっとホワイト達ではないのは確かだ。


「ダンナ様が帰ってくるまでここを守るのよ!」


「うおおおおおおお!」


 己を鼓舞するかのように、叫びながら走ってきた。


 まるで戦国時代のようだ。


「とーたん、あれほわと!」


「えっ?」


「ゴボオオオオオオオオ!」


 ゴボタが大きく叫ぶと、謎の集団はその場で足を止めた。


 それでも武器を構えて警戒はしている。


「ダッ……ダンナさまあああああああ!」


「うおおおおおおお!」


 何を言っているのかは聞こえないが、俺達に向かって走ってきているのはわかる。


 このままじゃ俺達が殺されるだろう。


「おいおい、こっちに来たじゃないか!」


 俺はすぐにゴボタとリーゼント抱えて走り出す。


 それに釣られてなのか、心菜と生田も走り出した。


 恐怖の持久走の始まりだ。


「にひひ!」


「ワォーン!」


 俺の腕の中にいるゴボタとリーゼントは楽しそうにしているが、俺からしたら全く楽しくない。


 本当に命懸けだからな。


「なっ、ダンナ様!? また私と恋の駆け引きがしたいのですね」


「うおおおおおおお!」


 さっきよりも大きな声をあげて走ってきている。


 チラッと確認したら、武器を投げ捨てていた。


 武器が邪魔だと思ったのだろう。


 身軽な状態で肉弾戦に持ち込む気だ。


「無理無理! 俺そんなに足速くねーぞ!」


 それでも俺は必死に走る。だが、運動不足の体は小さな石でも足がもつれてしまう。


「あっ……!?」


 俺はそのまま落ちている魔宝石に足を引っ掛けて転がっていく。


 もちろんゴボタとリーゼントは怪我をしないように、胸に抱きかかえている。


 草原の上をゴロゴロと転がっていく。


 心菜と生田は俺が転んだことに気づいていないのだろう。


 俺達を置いて走って行った。


「大丈夫か!?」


「にひひ!」


「ボス、鈍臭いよ?」


 どうやら怪我はしていないようだ。


 リーゼントなんて、俺の悪口を言うぐらい元気があるしな。だが、転んだことで謎の集団に囲まれていた。


 外国人のような顔立ちで、耳の先が尖っている。


 本当に異国に住むような人物だ。


 ゴボタとリーゼントだけでも、逃げる隙間を探すが逃げられそうにない。


 俺は庇うようにゴボタとリーゼントに抱きつく。


「ダンナさまぁー! 私だけ仲間外れなんてひどいです!」


 異国の人達を掻き分けて出てきたのは、まるでゲームに出てくるエルフのような見た目をした美女だった。


 俺に近づいてきたと思ったら、大きな胸を押しつけてくる。


 さらに俺の頭は混乱していた。


「ほわとー!」


 ゴボタはホワイトと言っているが、全く別人に見える。


 こんな美人で胸の膨らみがある女性がホワイトのはずがない。


 あいつの胸はまだ成長期のため、小さめだったからな。


「ダンナ様、寂しかったですか?」


「ダンナ様……?」


「忘れたんですか? 愛するホワイトですよ!」


「うそ……だろ?」


「嘘じゃないですよ! みんなもダンナ様に会えて喜んでいるじゃないですか」


 俺を囲んでいた謎の集団は、森の中にいたゴブリン達らしい。


 この間見た時は姿は人間に近かったが、肌が汚かった気がする。


 今はほとんど人間にしか見えないし、男に関してはつる肌のイケメンでムカつくぐらいだ。


「それで……ダンナ様はこのムチムチになったホワイトと一夜を――」


「いや、体は関係ないからな。ホワイトは妹みたいな存在だ!」


「えー、ひどいですよおおおお!」


 ホワイトは抱きつきながら泣きついてくる。


 しっかり胸を押し付けてくる魔性な大人に成長してしまったようだ。


「ねぇ、どういうことかしら?」


 そんなゴブリン集団の中を、掻き分けるように心菜達が戻ってきた。


「ああ、この子がホワイトらしいぞ」


「そんな嘘を信じられるはずがないじゃない。私が知ってるホワイトはペチャパイのメンヘラの女よ!」


「ふん、今じゃ私の方が大きいもんね」


 ホワイトは心菜に胸を見せつけるように、胸を張って強調させていた。ただ、メンヘラに関しては修正しないようだ。


 ホワイト自身がメンヘラって言っているから良いのかな。


「くっ……」


 そんなホワイトの攻撃で心菜は精神的な大ダメージを喰らっていた。


「まるでエルフ……いや、エロフだな」


 隣にいた生田は鼻の下を伸ばしていた。


 20年経てば、生田もただのエロオヤジになったようだ。


 俺の妹に変態な視線を向けさせるわけにはいかない。


 そっと生田の視線の邪魔をする。


「チッ!」


 後ろで舌打ちをする音が聞こえてきた。


「ダンナ様……」


「まぁ、仮にホワイトだとしてなぜこうなったんだ?」


「あっ、これを見てもらえたらわかります」


【ダンジョンの権限が戻りました】


 どうやらホワイトからダンジョンの権限が戻ってきたようだ。


 その証拠に目の前には、半透明な板が浮いていた。


 【スキル】

 魔物召喚 1

 └ゴブリン 13・・

 └コボルト 1

 地形変更 2

 └地形変更セット 1

 └天候変更 1

 トラップ設置 1

 └巨大岩 1

 環境設備 2

 └植樹系調整 1

 └生態系調整 1

 資源召喚 2

 └魔宝石召喚 1

 └鉱物召喚 1


「ん? このゴブリンの数字はなんだ?」


 異様にゴブリンのところだけ数字が増えていた。


「えへへ、やっぱり私達ゴブリンも進化しないとね!」


 どうやらゴブリンであるホワイト達は、ポイントの影響で進化したようだ。


───────────────────

【あとがき】


 カクヨムコンお疲れ様でした!

 ここまで読んでいただきありがとうございます!


 これからはボチボチと連載していきます。

 すでに電撃新文芸コンテストがありますからね(T ^ T)


 ★★★評価コメント付きレビューお待ちしております!


 新作は夜に投稿しますので、そちらの方もチェックしてみてください!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る