第42話 社畜、夢をみる

「とーたん?」


「ああ、大丈夫だ」


 どうやら俺はボーッとしていたようだ。


 さすがに最近まで連絡をしていた母が入院していると聞いたら、信じられないだろう。


 入院をしているってことは命は無事のはずだ。


「少し疲れたから先に休むよ」


 俺はリーゼントが作った小屋に入って休むことにした。


 ちゃんと家の中にも人数分のハンモックがあり、その中で一番大きなやつに乗って寝ることにした。


 中もしっかり作られているが、今はそれも視界に入らないほど、俺は気分が落ちていた。



 ♢



「ふぁ!?」


 俺は目を覚ますと急いで時計を見る。


 ああ、まだ朝の7時のようだ。


 えっ……7時!?


 俺は急いで立ち上がり服に着替える。


 これ以上寝ていたら会社に間に合わない


「あら、透汰もう起きたのね」


「母さん……?」


「どうしたの? そんな驚いた顔をして……今日は一限からあるって言ってなかったけ?」


「えっ……」


 俺はすぐに洗面所の鏡を見に行こうとすると、家がおかしいことに気づいた。


「あれ? 実家?」


 どうやら俺は実家に帰ってきていたようだ。


 俺は母と二人で暮らしている。


 シングルマザーである母は仕事を掛け持ちして、ずっと一生懸命働いていた。


「私も出ないといけないから早く朝食を食べてね」


 テーブルに置かれたご飯とお味噌汁。


 質素で簡単な朝食だが、俺には懐かしく感じた。


 俺はすぐに歯を磨き椅子に腰掛けた。


 今の見た目なら大学生ぐらいだろう。


「いただきます」


 茶碗を持ってゆっくりと味噌汁を口にする。


 いつもと同じ母の味に体の力がスーッと抜けていく。


「美味しいな」


「ふふふ、透汰が美味しいって言うの珍しいわね」


「そんなことないぞ?」


 口ではそう言っているが、母の作った料理を食べたのはいつぶりだろうか。


 年末年始も仕事をしており、長期休みもなかったため実家に帰ることはなかった。


 俺はそんなにも母の味を求めていたのだろうか。


「とーたん?」


「あっ、ゴボタどうしたんだ?」


 隣を見るがゴボタの姿はなかった。


 ただ、ゴボタの声が聞こえたような気がした。


「透汰どうしたの?」


「今ゴボタがいなかったか?」


「ゴボタ? まだ寝ぼけているのかしらね」


 母はそんな俺を見て笑っていた。


 すぐにご飯を食べ終わると、俺は急いで学校に行く支度をした。


 ちょうど母も仕事に行くのだろう。


 同じタイミングで家を出ることが多かったからな。


「あっ、お兄ちゃん!」


 隣に住む少女が幼稚園バスを待ちながら遊んでいた。


「心菜おはよう!」


 いつも楽しそうに車道と歩道の境にある縁石の上に乗ってバランスゲームをしている。


 俺にはこの日常が当たり前だった。


 これが夢だって俺もわかっている。


 心菜は大きく凶暴な女性に成長したからな。


「母さん!」


 俺が振り返ると母はその場で立ち止まっていた。


 どれだけ辛いことがあっても、いつも微笑んでいる母だった。


 今も微笑んで俺を見ている。


「透汰いってらしゃい!」


 いつもは一緒に駅まで行っていたが、俺もわかっていた。


 俺のいる場所はもうここではないということを――。


「母さん、ありがとう! 行ってきます!」


 俺はいつものように微笑んで駅に向かった。



 ♢



「うっ……」


 体の重みで目が覚めた。


「とーたん!」


「ボス!」


「ダンナ様!」


 俺は目を覚ますといつものように体が動かせないでいた。


 同じハンモックの上でゴボタ達も一緒に寝ていた。


 俺が起きたことで目を覚ましたのだろう。


「おはようー」


 みんなの頭をゆっくりと撫でる。


 昨日は母のことに驚いて先に寝てしまった。


 それが心配だったのだろう。


「お兄ちゃん大丈夫?」


 先に起きていた心菜も心配しているようだ。


 俺は夢の中で母とお別れをした。


 きっと今頃俺に会っても幽霊だとしか思わないだろう。


 心菜だって俺を幽霊だと思っていたぐらいだしな。


 そもそも俺がここから出られるのかもわからない。


「心菜も大きくなったよな」


 むしろ小さな心菜を見て、あの時は可愛かったと思ってしまう。


 今は身長も高くなって、成人女性に成長してしまった。


「ねぇ、今失礼なことを考えていたでしょ?」


「そんなつもりはないぞ」


「へー、そんないやらしい目で全身を舐め回して――」


「ダンナ様! それは浮気ですよ!」


 どうやら心菜を見ていたら、ホワイトに浮気していると勘違いされたようだ。


「いやいや、心菜は俺にとって妹みたいなもんだぞ」


 その言葉にホワイトはニヤリと笑っていた。


「ぷぷぷ、ここなんは妹ですって」


「ちなみにお前も妹だけどな」


「へっ!? なんでよおおおお!」


 ホワイトは俺を掴んで大きく揺らす。


 なんでと言われても、見た目が完全に妹だから仕方ない。


 まだ、子どもって言われるよりは良いだろう。


 それよりもそんなに揺らすと気持ち悪くなる。


「ゴボオオオオオ!」


「ワオオオオオン!」


 みんなでハンモックに乗っていたため、揺れが全体に伝わっていた。


 そのまま姿勢を崩すと、クルクルとハンモックが回っていく。


 俺達はそのままひっくり返って落ちてしまった。


「すごい回ったな!」


「にひひ!」


「ワォーン!」


「へへへ!」


 それでも俺達は笑っていた。


 何があっても仲良しな俺達なら大丈夫な気がした。


───────────────────

【あとがき】


「おいおい、★★★を置いていきやがれ!」

「いきやがれ!」

「レビューを書きやがれ!」

「きゃきやがれ!」

((((((((((。・"・。)ノ( っᐡーﻌーᐡ)っパラリラパラリラ


「我が子と犬がご迷惑おかけしてすみません。よかったら★とレビューをよろしくお願いします」


 俺は急いで頭を下げて、ゴボタとリーゼントを追いかけた。

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