第43話 社畜、再びゲートに向かう

 朝食を食べ終えると俺達はダンジョンのゲートに向かった。


 本当にあれがゲートなのかわからないからだ。


 違う何かであれば注意しなきゃいけない存在になってしまう。


 だから、心菜に確認してもらうことになった。


「これってダンジョンのゲートか?」


「ええ、私が来たのもここからですね」


「そうか」


 どうやら本当にダンジョンのゲートのようだ。


 俺はダンジョンのゲートを見つめる。


 ここから先に俺が住んでいた世界の20年後が存在している。


「とーたん、いこ!」


「行くって?」


「ボスのおっかさんに会いに行くに決まってるよ!」


 俺が心菜を見ると彼女は頷いていた。


「お兄ちゃんのお母さんは末期のガンなんです。もう顔を見せられるかわからないんですよ」


 その言葉に胸が締め付けられる。


 ただ、俺はこいつらをここに置いていくことはできない。


「とーたん、いくよ?」


「えっ? ちょ……」


 俺はゴボタに手を引かれるとそのままゲートに入っていく。


 ただ、何かに抵抗されて俺は通り抜けできないような気がした。


 やはり俺はダンジョンから出られないのだ。


「ダンナ様がおかえりになるまで、家は妻である私が守っています!」


 そう言ってホワイトは手を振っていた。


【ダンジョンの権限を他のものに付与してください】


「ホワイト!」


 俺はその場でホワイトの名前を叫ぶと、抵抗感はすぐになくなった。


 体はどんどんゲートに吸い込まれていく。


 気づいた時には田んぼの真ん中に俺は立っていた。


「お兄ちゃん大丈夫?」


 隣を見ると心菜がいた。


 そしてゴボタは俺の手を握り、足元にはリーゼントがいた。


「心菜様おかえりなさい」


 すぐに武装している男が心菜に声をかけてきた。


 あまりにも畑の中と見た目が不自然なため、俺は警戒をする。


「ええ、無事に帰ってきたわ」


「この方達は……」


「私が来る前に迷い込んだ一般人のようです。朝方に子どもと犬の散歩中で、ダンジョンが見えなくて迷い込んだのでしょう」


「ワン!」


 たしかに大きな門とかがあるわけでもなく、どことなく空間が歪んでいるだけだ。


 誰もいなければ気づかずに迷い込む人もいるだろう。


 リーゼントは答えるかのように、男に尻尾を振って近づいていく。


 ダンジョンの外だからか、四つ這いで犬らしく歩いている。


 スクーターに乗ったり、二足立ちで歩かなければただの犬にしか見えない。


「それは大変でしたね」


「こちらこそご迷惑おかけしてすみません」


 俺は咄嗟に謝って心菜の話に乗る。


 ただ、ゴボタ達が付いてきても本当に良かったのだろうか。


 突然のことで俺は戸惑いを隠すのに精一杯だった。


 そのまま心菜について行くと、車に案内される。


「なんか20年経ったのを実感するな」


「ほとんどの車が電気自動車になったからね」


 石油がほぼなくなったことで、電気自動車が主流になったのだろう。


 それに形も車体も滑らかな流線型で、風の抵抗が少なそうになっている。


 車体の下部も均一にフラットになっていた。


 本当に形が未来の車っていう感じがする。


「この時代は自動運転なのか?」


「さすがに危ないからそれはないけど、駐車とかは自動になったかな」


 20年で変化するところもあれば、安全面で変わらないのもあるのだろう。


 俺達は車に乗ると、ゴボタとリーゼントは目をキラキラさせていた。


「とーたん、しゅごいね!」


「ボス、車もほしい!」


 どうやらさっきまでは演じていたのだろう。


 リーゼントはいつも通りに、車の中でも二足立ちをしていた。


 ゴボタも嬉しそうにはしゃいでいる。


「昨日お兄ちゃんが寝た後に話し合ったんです」


「ここに戻ってくることを?」


「ええ。まずゴボタくん達がこっちの世界に来れるのもわからないですしね」


 俺が寝た後に今後のことを話し合っていたらしい。


 俺が帰って来れなくなった時のために、誰かが付いていくことになった。


 ただ、ゴボタやホワイトだと人間っぽいがゴブリンだと気づかれる可能性があった。


 それならということで、リーゼントに決まったようだ。


 本来はゴボタがゲートに引っ張って、途中で手を離してホワイトと待つ予定だった。


 ゴボタに関してはそのまま付いてきてしまった。


 ただ、ダンジョンの入り口で見張りをしている探索者も、ゴボタをゴブリンと気づいていないなら問題ないと心菜は思ったらしい。


 気づいていたら今ごろゴボタは、殺されていたのかもしれない。


「とりあえず、ゴボタ達が気づかれないようにしないといけないな」


「どこかで服と犬用のリードを買っていきましょうか」


 ゴボタも今はスーツのジャケットを服のように着ているし、リーゼントに関しては放し飼いの状態だからな。


 どこにいくのもさすがに目立つだろう。


「なっ!? 生粋のツッパリは自由に生きて――」


「ならその辺に置いていきますね」


「ちぬー!」


 リーゼントは車の運転席をバシバシと叩いていた。


「あんまり心菜を怒らせると、本当に捨てられるぞ。心菜が怖いのはお前も知って――」


「そんなこと言うとお兄ちゃんも一緒に捨てるよ?」


「へっ……!?」


 どうやら俺の言葉はそのまま出ていたようだ。

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