第40話 社畜、ホワイトとデートする
「こんなダンジョンどうやって報告したら良いのよ」
「あー、できれば襲ってこないように言ってくれよ」
「そんなの難しいわよ。ひょっとしたら乗っ取る勢いで攻めて来るに決まってるわよ!」
心菜が今回ダンジョンに来た表立った目的は、魔物の生息やダンジョンで手に入るアイテムの調査だ。
そのため、このダンジョンがどんなところかを詳細に報告する必要があった。
今はその報告について話し合っている。
心菜の驚き方からして、そのまま報告したら俺達はすぐに殺されてしまうだろう。
反対に何もなかったといえば、この前に来た探索者か心菜が嘘をついていることになり、再び調査のために探索者が送られる。
どんな人が送られるかわからないため、最悪高ランクの探索者が来てしまったら、次こそ命がなくなる。
心菜が知り合いじゃなければ、俺達は今頃死んでいた可能性もあるからな。
「例えばの話だけど、知能が高い魔物がいて、友好的なため交渉次第でアイテムがもらえるというのはどうだ?」
「ボスが珍しくまともな――」
途中でゴボタがリーゼントの口を塞いでいた。
本当にあいつにはしつけが必要なようだ。
「ただ、そうなるとアイテムを狙ってくる探索者ばかりになるわ」
心菜は魔宝石、治癒草、魔力水、果実を出した。
「魔宝石は値段はわからないが、多分高く買い取ってもらえるわ」
「ああ、それはなんとなくわかる」
魔法石でも質によっては、民間企業や国が高く買い取ってくれる。
魔宝石はまだ未知数だが、それ以上の可能性を秘めているらしい。
「この治癒草は一株あたりで十万円程度の価値で――」
「へっ!?」
俺は自分の耳を疑った。
「魔力水も同様の値段だし、果実に関しては数十万円はくだらないよ」
あまりの値段にびっくりした。
その辺に落ちているものを売るだけで大金持ちになるのだ。
珍しいものとは聞いていたが、値段で言われるとその価値がよりリアルになる。
「とーたん、へんにゃかお」
「ボスは欲に負けたんだ。この金の亡者――」
「何言ってんだあー!」
やけに心菜が来てからリーゼントは口が悪くなった。
俺はリーゼントの頬を引っ張ってグルグル回す。
「とーたん、ゴボタも!」
そんな俺を見てゴボタも頬を触って欲しいと催促してきた。
「にひひ!」
優しく頬を突くと嬉しそうにしていた。
「ワオオオオオン! ゴボタとオラの扱いが違うオオオォォォ!」
どうやらリーゼントはゴボタとの扱いに怒っていた。
リーゼントはどちらかといえば弟っぽいが、ゴボタは完全に我が子だからな。
そんな俺達は心菜はずっと見ていた。
「本当にお兄ちゃん達を見ていると気が抜けるわね」
「心菜も仲間に入るか?」
「入らないわよ!」
俺達の輪に入りたいと思って見ていたわけではないようだ。
だが、ゴボタは心菜の側に寄っていく。
「ここなん?」
「くっ……」
「こーこなん!」
ゴボタは心菜の頬をツンツンと突っついた。
「ふふふ」
なんやかんやで仲間に入りたかったのだろう。
まだまだ心菜は子どものようだ。
「なら俺も――」
――パチン!
「へっ!?」
「お兄ちゃんは別です」
俺の手は心菜に払われてしまった。
今の心菜の年齢は俺とそこまで変わらないからな。
「あっ……セクハラじゃないからな?」
「しぇくはら?」
「もう、ゴボタくんに変なこと教えないでよ」
どうやら俺に立場はないようだ。
それにセクハラという言葉は、20年後も死語にならずに存在していた。
森での食料集めを終えた俺達は、一度拠点に戻ることにした。
拠点ではホワイトが一人で待っていた。
「ダンナ様、浮気ですか!?」
「なぜ、そうなる!」
俺と心菜が一緒だと浮気と思うのだろうか。
浮気どころかきっと俺はあまり好かれていないからな。
さっきも手を払われたばかりだ。
小さい頃にいた近所のお兄ちゃんは年が離れていたからかっこよく見えていた。
年が近くなれば尊敬もなくなる。
きっとそんな気持ちだろう。
「ダンナ様は私のですからね!」
ホワイトが俺の手を取ると、グイグイ引っ張ってきた。
「あっ、ダンナ様! ハナコに会っていたら変なところをみつけたよ」
「どこにあるんだ?」
俺の手を急いで引っ張ろうとする。
一人で勝手に走って行ったが、置いていかれたのがそんなに寂しかったのだろう。
「心菜ちょっと行ってくるから、ゴボタとリーゼントを頼む」
「わかったわよ」
「ダンナ様との二人っきりのデートだからね!」
ホワイトもゴボタとリーゼントが付いてこないように声をかけていた。
俺はホワイトに引っ張られるままついていく。
「ダンナ様は本当に帰らないのですか?」
「俺はこのままいるぞ?」
心菜が来たことでホワイトの中でも、俺がいなくなることを不安に感じたのだろう。
自分のことを魔物だと思っているから、外に出れたらダメなことも知っている。
「本当?」
「ああ、俺はちゃんといるからな」
その場でしゃがみ込み、ホワイトの頭を撫でる。
だが、ホワイトの顔は晴れていないようだ。
それだけ離れるのが嫌なんだろう。
「既成事実を作れば良いのよね」
「ん? 何か言ったのか?」
小さな声で話しているホワイトの声が聞こえず、俺は耳を傾ける。
――チュ!
突然頬に何かが触れたような気がした。
ホワイトを見ると顔を赤く染めて、チラチラと俺を見ていた。
「これでダンナ様のの子どもができちゃうね!」
「へっ!?」
どうやらホワイトはキスをしたら子供ができると思っているのだろう。
「さぁー、それはどうかな?」
「絶対できるもん!」
いくらなんでもそんな動物はいないからな。
魔物も同じ……だよな?
純情なゴブリンの手を握って、俺は再び歩き出した。
「にひひ!」
ホワイトは歩いている時、終始笑顔だった。
一方の俺は本当に子どもができるのではないかと、しばらくの間ヒヤヒヤしていた。
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