第39話 社畜、鉱物をみつける

「おかしい……このダンジョンはおかしいわ……」


「ここなん壊れたね」


「とーたん、大丈夫?」


「俺は壊れていないからな」


 ゴボタとリーゼントは俺の心配をしていた。


 しばらくこのダンジョンで生活をすることになった心菜に、ダンジョン内の食べ物や水の確保の仕方を教えていた。


 初めは普通に聞いていたが、しばらくしたら今の状況になってしまった。


 結果から伝えると、このダンジョンで採れるもの全てが規格外らしい。


 まずは俺が倒れたときに、ゴボタがよく口に突っ込んでいる薬草もどき。


 味は漢方のように苦さが際立つ俺の苦手な草だ。


 そんな薬草もどきは、探索者に治癒草ちゆそうと呼ばれていた。


 まさかの本物の薬草で俺は驚いた。


 そんな治癒草はダンジョンであまり手に入らないらしい。


 森の中ではすぐに生えてくるただの草だ。


 周囲を見渡すとたくさん生えている。


「ひょっとしてこの水も変わったやつか?」


 俺は治癒草の下から出てくる水をペットボトルに入れる。


 すごく純度が高く、澄んだ水をしていた。


 森の奥に行けばいくほど水は輝いている。


 それを知ったのも今だが、心菜は見た瞬間に震えていた。


「魔力水もあるなんて……ポーションが簡単に作れるじゃないの!」


「ポーション?」


「ええ、探索者の傷を一瞬で治してくれる魔法に近い薬のことよ」


 心菜の口から出てくる言葉が、ほとんどゲームのように聞こえてくる。


 探索者は能力の影響かダンジョン内でできた傷や怪我が治りにくいらしい。


 唯一治せるのはポーションか治癒能力が使える探索者のみ。


 そんな探索者にとって欲しいものが、ここのダンジョンには盛り沢山だった。


 その辺にある食料、水分、植物、石など全てがお宝のようだ。


「あっ、そういえば鉱物も出るようになったぞ?」


 【スキル】

 魔物召喚 1

 └ゴブリン 1

 └コボルト 1

 地形変更 2

 └地形変更セット 1

 └天候変更 1

 トラップ設置 1

 └巨大岩 1

 環境設備 2

 └植樹系調整 1

 └生態系調整 1

 資源召喚 2

 └魔宝石召喚 1

 └鉱物召喚 1


 この間リーゼントが頭を撫でるのを強要したときに、資源召喚を押していた。


 そのときに出てきたのが鉱物召喚だ。


 魔宝石召喚のときから石を見るようになったが、鉱物召喚は特に周囲の変化はなかった。


「出るようになったってどういうこと?」


「あー、たぶんこのダンジョンを作っているのが俺なんだよな」


「へっ……」


 突然のことで心菜は思考停止していた。


 俺も最近までは気づかなかったからな。


 誰でもびっくりするだろう。


「やっぱりお兄ちゃんが原因でおかしくなっているんじゃん!」


 ついに心菜まで俺がおかしいと言い出した。


「良い方向に進んでいるなら良いじゃないか」


 俺は簡単に半透明の板について説明した。


 すると心菜はタブレットを取り出して、何かを見せてきた。


 筋力強化や速度強化、心肺強化など俺と同様に名前と数字が割り振られている。


「こんな感じなのかな?」


 俺が頷くと心菜は何かを考えていた。


「ひょっとしたらお兄ちゃんも能力者なんじゃない?」


「いやー、俺はそんなに力も強くなければ、火は出せないぞ?」


「そーだぞ! ボスはめちゃくちゃ弱いんだからな!」


 リーゼントの顔を見ると、焦ったような表情をしていた。


 俺はリーゼントの頬を掴み、揉みくちゃにする。


 確かにこの中では一番俺が弱いからな。


「能力はある突然開花するし、全てが戦うための力でもないよ」


 心菜の話では物の価値を見破る能力や手先が器用になる能力など様々あるらしい。


 その中で魔物と闘う力がある人だけが、探索者になることができる。


 きっと俺が能力者であれば、かなりの異質な人物になるだろう。


「ボスは頭のネジが取れているからね」


 さっきからリーゼントは俺の心を読んでいるのだろうか。


「とーたん!」


「どうしたの?」


「ここおかちい!」


 突然ゴボタが声を掛けてきたと思ったら、地面を指さしていた。


 俺にしたらただの地面にしか見えない。


「確かにここだけ地面が硬くなっているわね」


「そそそ、そうだな」


 咄嗟に気づいているふりをしたら、リーゼントは俺の顔をジーッと見ていた。


 何か言われる前に、俺はリーゼントの頬を引っ張っておく。


「オラまだ何も言ってない!」


「ほら、言うつもりだっただろ」


「ワォ!?」


 今頃バレたという顔をしても仕方ない。 


 俺はリーゼントの頬をグルグルと回す。


 しばらくリーゼントの柔らかい頬を堪能していると、心菜は急に構えた。


「えっ、おい心菜何をするつもりだ」


「はああああ!」


 心菜はそのまま俺に向かって拳を放った。


 正確にいえば俺の足元にある、硬くなった地面に対してだ。


 だが、急にやられたら俺もびっくりする。


「とーたん!」


 俺の股を潜るゴボタは心菜が作った穴を覗き込む。


 心菜もある程度手加減をしたのだろう。


 地面に小さな穴が空いているだけで済んだ。


 ゴボタはゴゾゴゾとしていると、何かを手に持っていた。


「やっぱりここのダンジョンおかしいよー」


 あの反応だとゴボタが持っていた好物もレアな物なんだろう。


 心菜は驚きすぎて、魂が抜けたように口をパカパカと開けていた。


「だってボスがおかし――」


 今日はずっとリーゼントの頬を引っ張らないといけないようだ。


 俺はどこもおかしくないからな。

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